第43話 獣魔王


「あ~いいお湯だぁ~。お酒もさいこ~!」



僕は今、温泉に来ていた。



家から近いのはほんとラッキーだ。



いつでも気軽に来れる。



こんな家と土地をもらって、アルク帝国の皇帝にはほんと感謝しかない。






リョーカを救って一ヶ月が経っていた。





奇跡の薬で体は元に戻ったが、監禁されていた時の気持ちや心はそう簡単には戻らなかった。



だから僕たちの家でゆっくり養生してもらって、心を回復させてから天界へ帰る事にした。



マキシさんは一週間前には天界へと戻っていった。



リョーカちゃんを僕に任せてもいいのか聞いたが、返ってきた言葉が


「貴方以外に王女を任せる方などいませんよ。私より貴方がいた方が安全ですからね。安心してお任せできます。」






過大評価もいいところだ。



まぁ~守るけどね!






そんな感じで今日はリョーカちゃん最後の温泉を満喫してもらっているのだ。



表情もすっかり戻ったので、明日はいよいよ天界へ行こうと思っている。



そして今、僕は露天風呂に入りながら、大好きなお酒を飲んでくつろいでいる。





ん~!いいねぇ~!





「お~い!レイ~!」



ラフィンの声が露天風呂の壁を挟んだ向こう側から聞こえてきた。





「ん~?なに~?」



お酒を一杯やりながら答える。





「へへへ~。着てると分からなかったけど、雪は意外と胸大きいよ!」




「ブフォ!!」


お酒を吐き出してしまった。





「ちょっと!」



「あ~雪さん羨ましいなぁ~。」



白雪の抗議の声と、リョーカの楽しそうな声が聞こえる。






あんなに大変な事があったから大丈夫かと思っていたが強い子だ。



最初は辛そうだったが、今はすっかり落ち着いて、現界での生活を楽しんでいる。





よかよか。





帰りも温泉街で皆で買い物をして帰った。








次の日、お手伝いさん全員がリョーカを見送った。



「いつでもいらっしゃってください。」


「リョーカちゃん。また遊びに来てね。」



執事のセメルトやメイド達が声をかける。




「ありがとうございます!生きてきて一番、楽しかったです!ここでの出来事や過ごした事は私の一生の宝物です。絶対また来ます!それまでさようなら。」



リョーカが皆に手を振りながら、僕たちは帰還紙を使って家を後にした。







「うおっ!」






僕たちは、天の塔から頂上。そして天界へと着き、入口の神殿から外にでると、そこにはもの凄い数の兵士達と住民達がいた。



僕たちを見るや否や、大きな歓声があがる。



「キャー!リョーカ様~!」



「お帰りなさい~!」



「ご無事で~!」



皆が天界の王女の帰還を喜んでいた。





すると兵士達の中から3人の立派な鎧を着た者が現れ、片膝をつく。その中にはテイルさんもいた。という事は3大天将の人達なのだろう。



「リョーカ様。お迎えにあがりました。どうぞこちらへ。」



乗るための鳥が沢山いたが、その中でも特別に大きい鳥に乗り込んでいった。




僕はぼ~と見送っていると、




「何やってるんだ?レイ。早くこい。」



テイルが促す。



「あっ。はい。」



促されるまま僕たちも大きい鳥に乗り、天界人の国『エデン』の王城へと飛びたっていった。






後ろを見ると、僕たちが乗っている鳥を先頭に、沢山の兵士を乗せた鳥たちが周りを飛んでいる。





いや~すごいな。これは壮観だ!





そして空中に浮かぶ王城へとたどり着くと、出迎えている大勢の城の人達。歓声があがっている。





「リョーカ!」



3人が一斉に呼び、リョーカの元へと駆けていく。



「お父様!お母様!カイト兄様!」



国王や王妃、カイトがリョーカを泣きながら抱きしめている。





そして、その近くにはなんと天竜王が。そして目を涙でためながら第一王子のテンライがいた。



そうだった。たしか天竜国の第一王子はリョーカちゃんのフィアンセなんだった。知らせを聞いて天竜王と一緒に駆けつけたのだろう。






ん~よかよか。






暫くは皆で再会を喜び、その後に王の間へと案内された。







そこには、天界の王カイシス王、王妃、王子のカイト。そしてリョーカちゃん。3大天将と側近達。さらに、天竜王と第一王子のテンライがいた。




僕たちはその人達の前に通されると片膝をついた。




カイシス王が話はじめる。



「レイよ。よくぞリョーカを助けてくれた。依頼を達成しただけでなく、酷い仕打ちを受けたリョーカを貴重な薬で回復させ、心も体も癒してくれた。なんとお礼を言っていいのか。」



「カイシス王。気にしないでください。依頼もそうですが、一番は仲間の妹ですから。僕も大事ですからね。」



笑顔でカイトをみる。




カイトが目をウルウルしながらコクコクと頷いている。




「フッ。そうか。お主は仲間を想う人間だったな。その気持ちは大事にするといい。・・・・・それでは報酬に入る。」



するとテイルが言う。


「レイ達には、金貨5億ゴールド。そしてエデンが誇る最強防具『天使の衣』を3名に授ける。後、帰還紙が欲しいとの事だったので、出来るだけ授けよう。」




うぉ~!また金持ちになってしまった。あと帰還紙はほんと便利だったからこれは助かる!防具は後で皆で試してみよう。




「ありがとうございます。」



「ところで、レイ殿はこれからどうするのだ?リョーカが帰還したパーティをしようと思うのだが。」



「・・・・・カイシス王。すみません。僕はすぐにやらなければならない事がありまして。落ち着いたら必ず来ます。それでいいですか?」



「ふむ。用事があるのならしょうがない。また来てくれるな?」



「約束します。」





「えっ?レイ。もう行ってしまうんですか?」


リョーカが寂しそうに見つめる。僕はリョーカの頭を撫でながら



「リョーカ。僕たちは友達だ。セメルトが言っていたようにいつでも家に遊びに来ていいからね。僕も王に言ったように落ち着いたらリョーカやカイトに会いにいくよ。」



「・・・・・分かった。約束よ!」



「ああ!約束だ!」






僕たちは一度頭を下げ、立ち上がり、後にしようとした所に、天竜の王子テンライが声をかける。



「レイ!・・・・・僕は彼女を失ったら絶望して生きていけなかった。・・・・・彼女を救ってくれてありがとう。本当にありがとう。」



テンライが深々と頭を下げる。




「レイよ。我からも礼を言う。・・・・・だが!ラフィンの事は別だ!手をだしたら地の果てまでも追いかけるぞ!そして必ず守るんだぞ!」


天竜王がすごんでいる。







ははは。相変わらずだなぁ。






「うるさい!そんな事言うお父さん嫌い!」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・。」


言葉にならない声が響き渡った。






娘にはホントに弱いんだなぁ。






呆れながら城の出口へと向かうとカイトが追いかけてきた。



「レイ!・・・・・仲間だから君の性格は分かっているつもりだ。何となくやろうとしている事が分かるんだ。・・・・・でも無理だけはしないでほしい。」



「カイト・・・・・。おう!分かってるよ。じゃまたな!」



「ああ!また!」




僕たちは手を振って見送るカイトを背に、城を後にした。















・・・・・物?・・・・・ペット?











獣魔王・・・・・あの野郎!!











あいつだけは絶対に許さない!!









・・・・・魔界から王女の救出を達成しました。ボーナスとしてレベル5進呈します。・・・・・


無機質な声が響き渡った。









☆☆☆













天の塔の入口まで来て、僕は二人に言う。



「白雪、ラフィン。僕はちょっと用事ができてね。二人は家で待っててもらいたいんだけどいいかな?」



「・・・・・レイ。あなたが何をしようとしているか私が分からないとでも?」


白雪が睨んでいる。



「うっ。でもこれは僕の私情だ。私情に二人を巻き込めないよ。」



「何を言ってるの?よく分からないけど、僕たちはパーティで仲間だよね。ならずっと一緒だよ!」


ラフィンが嬉しそうに言う。



「レイ。私は私情だろうが、何だろうが、あなたとずっと一緒に行くと決めてるの。もし、私やラフィンに行きたい所があったら、守ってくれないの?だからそんな言い方はやめて。」






・・・・・ぐうの音もでません。






「・・・・・分かった。ごめん。じゃ~付いてきてほしい。」



「ええ。」



「うん!」



二人は笑顔で答える。






本当にいい仲間をもった。






そして、絶対に二人だけは守ろうと誓った。







「じゃ行こうか。魔界へ!」





僕たちは帰還紙を使って魔界へと向かった。












☆☆☆











「・・・・・以上7件が、午後、謁見予定がある内容です。」


側近たちが今日の予定を説明する。



「つまらんわ」



「はっ?」



「つまらんと言っているんだ!」



「ひっ!」



獣魔王ガイルが側近たちを威嚇する。



ライオンの様な顔立ち、屈強な体。まさしく王に相応しい風格をもっていた。





「王よ。ペットを逃がした事は大変残念ですが、どうか静めてください。」



将軍の1人、バイセンが間に入る。



「まだ犯人の居所がつかめないのか。どうなっている!」



「今、捜索隊をだして探させてます。同じ獣魔人ですからあと少しで分かるかと。今少しお待ちください。」



「そう言って、もう1ヶ月以上たっているのだ!何とかしろ!」




苛立っていた。




獣魔王ガイルは収集家だ。


レアな物や珍しい物などには特に目がない。


そして、あのペットはとても気に入っていた。


天界人。


おそらくこれを逃したらもう手に入る事はないだろう。


絶対に取り戻したい。




「・・・・・俺が魔王との会談の時を狙うとは。バミューダ・・・・・弱者め!」




バミューダとは将軍の一人。


犯人を捉えようとしたら逆に殺されるという失態を犯した。


・・・・・獣魔国は特に、力の序列が強い国だった。




強い者が上に立つ。




これが獣魔国の根本にある暗黙の決まりだった。


だからこそ、争いが多く、皆強い。


その中の将軍の位は王に次ぐ強さを持っている者達だ。


それがいとも簡単に首をはねられていた。


他の兵隊たちも。


そんな獣魔人がいるのなら、すぐに噂は広まるはずだが、何者なのか。





ガイルは苦々しい顔をしながら、吐き捨てた。







「・・・・・ん?しかし、静かだな。」



今は、昼時。



城の内外は、話声や訓練の音などが聞こえ、騒がしいはずだが今は静まり返っている。




「たしかに静かですね。少し様子をみてきます。行くぞ。」



バイセンが部下を連れて王の間を後にした。







すると、数分しない間に、王の間の扉がまた開く。






入ってきたのは、真っ赤な長い髪をし、腰には見たことのない立派な剣を携えた一人の獣魔人だった。





「何者か!今は謁見の時間ではないぞ!」




側近たちが言う。




その男は聞いていないのか、まっすぐにガイルの所へと歩み、王の前に佇む。




「あなたが獣魔王かな?僕はレイ。・・・・・天界人を救出した者と言った方がいいかな?」



「!! 貴様が俺のペットを盗んだ盗賊か。ハハハ!探す手間が省けたな。」



「ペット。・・・・・はぁ~。お前何様?」



「俺はこの国の王だ。絶対なんだよ。強い者が全て。そんな俺の物をお前は盗んだんだ、盗んだ在処を吐いてもらおう。簡単に死ねると思うなよ。」



ガイルは王の椅子に座りながら嬉しそうに話す。





「物・・・・・。お前と話しても無駄だな。怒りしかわいてこない。さっさと終わらせよう。」



ゆっくりと剣の柄を握る。





「衛兵!衛兵!」


側近たちが叫ぶ。





しかし、誰もこない。





「あ~。無駄だよ。来る途中に全部倒したからね。あと誰も入ってこれない様に、扉には仲間がいるからね。」



「なんだと?では出ていった将軍たちは?」



側近の一人が驚きながら聞く。




「ん?出てきた獣魔人かな?騒がれる前に切ったけど?」



「!!」




「フフフ。将軍を倒すか。腕には自信がある様だな。それで勝てると思っている奴には分からせないとなぁ。」



ガイルがゆっくりと立ち上がる。




「簡単には殺さんぞ。ゆっくりいたぶってやるわ。」




「もう喋るな。ムカつくだけだから。」






僕がそう言うと、王の間にいる側近たちが一斉に襲い掛かってきた。







絶対にお前だけは許さない。彼女の痛みを分かってもらうよ。







僕は静かに鞘から剣を抜いた。

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