第41話 黒の一族
「おいしいかい?」
「モグモグモグ・・・・・うん。」
やせ細った少女は黙々と食べている。
皿がどんどん空いている。
「はは。見てるとラフィンと出会ったのを思い出すなぁ~。同じようにいっぱい食べてたよね。」
「そんな事ないよ!そんなにガツガツしてないよ!」
ラフィンが抗議の声を上げる。
いやいや。むしろもっと食べてたから。
しかし、魔界の料理は食べれるのかと不安だったが、意外に意外。美味しかった。
見た目もグロテスクではなく、普通の料理だ。
少女曰く、この国の食事はプライドの高いヴァンパイアが住んでいる為、一番おいしいとの事だった。
食べるものを食べ。食後の飲み物を飲みながら、少女は話す。
「ご馳走様。私の名前は、キリア。この世界で知らない事はないです。何でも聞いて。」
「どういたしまして。僕はレイ。この二人は白雪とラフィン。よろしく。じゃ~この世界の事。あと行きたい国があるんだ。その行き先を聞きたいな。」
魔界。
魔界には、8つの国があった。
中央に魔王の治める国がある。そしてその周りに7つの国があり、それぞれ実力のある魔族が治めていた。
今いるこの国は、序列第一位。ヴァンパイアが治める国。
力も知能も高く、プライドも高い。
そして、中央いるの魔王の側近、3大魔人の一人。ジュラレリアの弟が治めている。
他には、死の王が治める国や獣魔が治めるの国など様々だ。
獣魔だって?
「ねぇ。キリア。僕たちは獣魔の国に行きたいんだ。どうすれば行けるのかな?」
「あなた達。獣魔人なのになぜ?」
「あ~。ちょっと分けあってね。言えないんだ。ごめん。」
「そう。獣魔の国はこの国の隣。でも不思議。レイには怖さを感じない。」
序列第三位。獣魔の国は力で支配している国。とても凶暴で、他の魔族とは仲が悪いとの事だった。だから、キリアを助けるなんて考えられなかったのだそうだ。
なるほどねぇ。だから、他の子達も僕の行動に驚いてたのか。
でも隣の国でよかった。すぐに行けるな。
キリアに気になる事を聞いてみた。
「ところでキリア。君はどの魔族になるの?」
「・・・・・私は、黒の一族。・・・・・ところで、泊まる所は決めてる?」
黒の一族?初めて聞く種族だな。
「ん?いや。これから探そうと思ってたんだけど。」
「ならお礼を全然返してない。家に泊める。」
「えっ?いいの?ありがとう!助かるよ。」
突然の申し出にまだ宿をとってない僕は非常に助かった。
僕たちは店を出て、キリアの後に付いていくことにした。
歩きながら周りをみるとレンガ造りの建物が並び、街灯が雰囲気をより作っている。
ほんとにこの街はいいなぁ~。
僕は風景を楽しみながら歩いてく。
しばらく歩くと、古い屋敷が見えてきた。
ん?屋敷というより、どっちかというと修道院に近いか。壁は壊れていて小さくさびれていた。
「こっち。」
キリアは修道院に入っていく。
門をくぐり、大きな玄関から中に入ると黒いフードを被ったやせ細った少女達が大勢いた。
キリアが言うには、この魔界は瘴気が常にある。
強い魔物は問題ないが、まだ耐性が弱い子供や弱い魔物は、強い瘴気にあてられ、病気になったり、悪いと死に至る事もあるのだとか。
ここの修道院は、そういった子供たちや弱い魔物の瘴気を取り除いてくれる所らしい。
病院みたいな所なのかな?
「部屋に案内する前に、お母さんを紹介するね。」
そう言ってキリアは、上の階の一番奥の部屋へと案内する。
部屋に入ると、そこには大きな女性が椅子に腰かけていた。
大きい。
身長は3m位はあるだろうか。キリアと同じで真っ黒な髪、真っ黒な瞳をしていてやせ細っていた。かなり具合が悪いみたいだ。
「いらっしゃい。見ていました。私の娘達を助けてくれてありがとう。」
「娘達?僕はキリアは助けましたけど他は記憶にないなぁ。」
「フフフ。街中にいた全ての娘たちにお金をくれたんではなくて?娘たちが帰ってくるなり喜んで話してくれたわ。久しぶりに娘たちの笑顔をみたわ。」
あっ。そういうことね。
「挨拶が遅れました。僕はレイ=フォックスといいます。こちらは白雪とラフィンです。」
「レイね。私はシャインです。何もない所だけどゆっくり休んでいってちょうだい。」
シャインは優しい笑顔で話す。
僕は気になった事を聞いてみた。
「ところで、あなたも、キリアも他の少女達も、とても弱っているようにみえます。どうしたのですか?」
「・・・・・お母様。話してもいいですか?」
キリアが口を挟む。シャインが弱々しく頷く。
瘴気を取り込んで弱った子供達や魔物を、シャインが全て自分の体内へ取り込んで助けていたのだ。
全ての弱った魔界の者をである。
しかも数百年も。
助ける前の黒の一族は、魔王と同等の力をもつ種族だった。
数百年前の魔界は魔王とシャイン。2つの力が治めていた。
しかし、瘴気で弱る魔物は必要ないと切り捨てる魔王とそれを助けようとするシャイン。
意見の食い違いで、協力していた魔界に亀裂がはいり、助けようと瘴気を取り込んでどんどん弱くなっていくシャインが姿を消し、魔王が台頭する様になったのだそうだ。
悲しそうに話をするキリアの頭を撫でながら、僕は黒い薬を取り出しシャインに言う。
「シャインさん。効くかどうかわかりませんが、この薬を飲んでもらえますか?」
「えっ?レイ!ちょっとまって!」
白雪が腕を掴み、
「まだ、ほとんどわかってない人なのよ。しかも魔物なのに助けていいの?」
ラフィンが言う。
「分からないけどやめた方がいいと僕も思う。この魔物。とてつもなく強いよ。」
・・・・・分かっている。持っているオーラが想像できない程、とてつもなく大きい。
もし、復活したらどんな力があるのか想像もつかない。
でも
「二人とも、心配してくれてありがとう。でもね、僕は自分の目を信じているんだ。この人は悪い魔物ではないよ。もし、違ったとしたらどんな事があっても何とかする。いいかな?」
「・・・・・分かった。レイを信じる。いいよ。」
「うん!じゃ~何かあったら僕も手伝うよ!」
「キリア。この薬をお母さんに飲んでもらって。」
キリアが薬を受け取ると、シャインに渡す。
シャインは受け取ると僕の方を見るので、笑顔で頷いた。
「それではいただきますね。」
シャインは薬を飲みほした。
ヴァッ!
するとシャインの体から黒い瘴気が一斉に天へと向かって出ていく。
もの凄い量だ。
天へとつづく黒い柱の様な感じだった。
数百年間分の瘴気だ。
全てできったのは数時間後だった。
☆☆☆
僕達はずっとキリアと一緒にシャインを見守っていた。
「はぁ~・・・・・。こんな気分はもう体験できないと思っていたのにね。すごいわ。私の体から全ての瘴気がでたわ。」
体は変わらずやせ細っているが、弱々しさがもうなかった。
「良かった。ところでこういった施設はあと何か所あるんですか?」
「そうね、魔王のいる国を除いて、あと6ヶ国にあるわ。」
「なるほど。じゃ~この石をあげるので、それぞれに置いてください。そうすれば、シャインさんが瘴気をまた取り込む事もなくなると思います。」
そう言って僕は、『浄化光石』の塊を7個取り出した。
出来るだけ貰おうと思ったが、10個の塊が収納できる最大だった。
何とか足りてよかった。
「これは、瘴気を取り除く効果がある石です。この大きさならこの大きな屋敷を包む位はできると思います。なので他の屋敷も置けば同様の効果が得られるかと。」
シャインが驚く。
「ちょ、ちょっと待って。レイ。貴方なぜここまでしてくれるの?まだお互いの事何も知らないでしょう。」
僕は笑顔で話す。
「確かにいい人なのか悪い人なのか、シャインさんの事はまだ何も分かりません。ただ、僕はキリアを信じたんです。キリアのあなたを見る目と真っすぐな思いに。・・・・・それじゃ理由になりませんか?」
シャインは僕を真っすぐに見てため息をつくと
「・・・・・完敗ね。もう何も言わないわ。ただ一言だけ言わせて。本当にありがとう。」
シャインはとても嬉しそうに笑顔で言う。
「どういたしまして。」
僕とシャインは笑った。
一晩泊めてもらい、僕達は隣の獣魔の国へと向かっている。
目的が終わったら、必ずまた来てほしいとシャインに頼まれた。
うん。キリアの事も気になるからまた来よう。
さて場所も分かった事だし、王女救出だ!
☆☆☆
シャインは玄関でレイ達を見送ると、屋敷の中へと入る。
すると、いつの間に居たのだろうか、大きなホールになっている入口には大勢の黒のローブを羽織った少女が片膝をついて頭をたれていた。
「・・・・・子供達。まずは、この頂いた石を各地にある私達の家へ置いてちょうだい。・・・・・そして、黒の一族。もう一度立て直します。」
「はい!!!」
少女達は一斉に声をあげる。
シャインの背中から、大きな黒い翼が現れる。少女達も同じく黒い翼を広げる。
レイ・・・・・。私の目は誤魔化されない。なぜヒューマンが擬態して魔界に居るのか。
そして我を助けたのか。
1人でも多くの子供や魔物達を救うために、死を待つしかなかった数百年の体の苦しみを解放してくれた御仁に相応の御礼をしなくてはね。
「さて、これから忙しくなるわ。フフフフ。」
シャインはゆっくりと入口の扉をしめた。
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