第30話 2つの目的

今日は、帝都に来ていた。


近くの町と言っても相当遠い。この国の移動手段は、一般市民は馬車や魔道車が主であった。


魔道車とは、リアルでいう電車である。


全ての町々に魔道車が通っているのがすごい。




そして小型の飛空艇で空で移動する人もいるのだとか。一部の貴族しか持ってないみたいだった。


それ欲しいな。いつか買おう。


僕たちは、魔道車を使って帝都に来ていた。





目的は2つあった。


一つ目は今まで一緒に仲間としてパーティを組んでくれている、白雪に何かプレゼントをしたかったんだ。


今、商店街をうろついていた。


この帝都は、貿易も盛んで、世界のほとんどの物を取り扱っているとたしかティンクさんが言っていた。


白雪と色々な服屋に立ち寄っていると、その中の一件になんと着物屋があったのだ。





「うぉ~!着物だ!」


思わずテンションが上がる。





「着物?」


白雪が不思議そうな顔でこっちを見ている。




「うん。着物っていうのはね、え~・・・・・親戚の故郷にある衣装なんだ。独特だけど、似合う人にはとてもよく似合うんだ。きっと白雪も合うと思うな。」



白雪は髪も肌も白いから、どんな色の着物でも似合うだろうけど、やっぱり白が映えるのは黒か青でしょう!


僕は綺麗な花柄の黒い着物を選んだ。


定員さんにお願いして白雪に試しに着付けをしてもらったのだが・・・・・息を飲んだ。





「すっごく綺麗だ。」





何だろう、現実にはまずいないであろうこの美しさ。そして可愛らしさ。



白雪が赤くなっている。



「白雪。これでいいかな?プレゼントしたいんだ。あと、とても似合うから時間がある時には着てほしいな。」



「えっ。いいの?ありがとう!」


飛び跳ねて喜んでいる。





良かった。





「あとこれもあげる。」


じつは、うろついていた時にかんざしも買っていたのだ。


白雪はかんざしを付けるとやっぱりとてもよく似合った。


何も考えずに、似合いそうな物を選んだせいで金額を見た時にビックリしたが、まぁ~また冒険で稼げばいい。



「レイ。私は今日という日を絶対忘れない。ありがとう。」


「どういたしまして。これからもよろしくね。」


僕は最高の笑顔を向けて話す白雪の頭を撫でながら答えた。






☆☆☆






お昼を食べた後、もう一つの用があって、駐屯地にきていた。


城の近くに建てられているこの駐屯地はとても大きい。


それぞれ5つあり、5大将軍の各部隊が駐屯している。


僕はその内の一つ。


『鳳凰の羽』部隊の隊長、エリアスさんに会いに来ていた。


ちょうどティンクさんやその部下達と一緒に歩いている所を見かけたのでよかった。




「エリアスさん!」


声をかけると、こちらに気づいて笑顔を向ける。



「やぁ!レイ君。こんな所でどうしたんだい?」


エリアスが嬉しそうにティンクさん達を連れてこちらに来る。



「すみません。呼び止めてしまって。あっ。ティンクさんもこんにちわ。どうしてもエリアスさんに頼みたい事がありまして。」



「頼み事とは珍しいね。何だろう。」



「実は、僕は剣術の基本というのを知りません。今までは適当に立ち回っていましたが、これからの冒険では通用しないとこの間の戦いで肌で感じました。そこで、時間はあまり取らせないので、エリアスさんに剣術の基本だけでも教えてもらえればと思いましてここに来ました。」





それを言うと周りがざわめいた。



えっ。なに?





「そうか。たしかに君の戦い方は無茶苦茶だった。そうだな・・・・・分かった。では基本だけだけど教えよう!それでいいかな?」



「ほんとですか?ありがとうございます!」



「君にもらった恩に比べれば大した事ではないよ。」





「えっ?」


ティンクが信じられないような声をあげる。


そして周りの騎士達もざわついていた。




後でティンクさんから聞いた話だが、エリアス=ノートの剣術は一子相伝であり、技を教えないといっても、剣術を人に教えるという事はありえない事だったのだ。


だから、それを聞いた周りは僕に対する羨ましさと嫉妬がすごかったとの事。


それを皆耐えたのは、僕がエリアスの命の恩人であり、皇妃の恩人だったからだった。




そうだったんだ。知らなかった。




知らないとはいえ、皆に不快な思いをさせてしまった。


ティンクさん達に後でお酒を奢ろう。



今後は気軽にお願い事をするのは控えた方がいいな。



ただ、どうしても剣術の基本だけは教えてほしかったので、ほんとによかった。






☆☆☆





カンッ!




「そうそう!軸をずらさないで!」




カンッ!カンッ!カカッ!




「常に相手の動きを見て判断する事!」




カンッ!カンッ!






あれから1週間。



毎朝、駐屯地に行く前の早朝に、エリアスさんの家の訓練場で教えてもらっていた。


家はかなりの豪邸だ。


ノート家は、代々皇帝に仕えている名門の家系とティンクさんが言っていた。


そして、数百年前にいた『剣神』と呼ばれた最強の冒険者に技を伝授され、さらに飛躍をしたのだそうだ。


それからは、武の家系として代々将軍を務め、今のエリアスが最強の『剣聖』という2つ名を手にしている。




カンッ!カカッ!カンッ!




「あっ。」



隙を付いて一刀入れようとしたが、エリアスに下から弾かれ木刀が宙に浮く。



「参りました。」



「うん。すごく良くなったよ。レイ君はセンスがいいね。基本はもう問題ないかな。」



エリアスさんに剣術の基礎を教えてもらって早2週間。



自分でいうのもなんだが、すごく剣の扱いがうまくなったのを感じた。



教えてもらって初めて気づいたが、今までの僕はただ剣を振り回しているだけだったんだと思い知らされた。



構え。立つ位置。剣の持ち方。立ち回り。教わる事が色々とあった。



これで、基本というんだから、ほんとに剣は奥が深い。




「ありがとうございました!エリアスさんに教わってほんとによかった~。」



「ハハハ。どういたしまして。基本はこれで大丈夫だと思うから、後は経験を積みながら自分で技を覚えていくといいよ。」



「そうします。」



すると、訓練場の扉が開いた。



ティンクさんだ。



教えてもらっている間中、熱中して遅刻するのを防ぐ為に、毎朝エリアスさんを迎えに来ていたのだ。




「おはようございます。隊長。迎えに来ました。」



「ああ。もうこんな時間か。ティンク。とりあえず今日で訓練は終了だから、明日からは来なくても大丈夫だよ。」



「えっ。もう終わったのですか?」



驚いた顔でティンクは僕を見ている。なんとなく残念そうだ。



「うん。レイ君はセンスがいい。きっとすごい剣士になるかもしれないね。」



「いやいやいや。おだてすぎですよ。エリアスさん。」






僕たちは着替えを済ませて、城へ行く途中の店で朝食を取った。



「レイ君たちはこれからどうするんだい?」




朝食を食べ終え、お茶をしながらエリアスが言う。



「そうですね。自分の拠点も出来たことだし、ゆっくりとこのアルク帝国を冒険したいと思います。」



「そうか!それでは、たまに落ち着いた時は訪ねてきて、冒険話を聞かせてほしいな。」



いつでも訪ねに来てくれていいという、エリアスさんなりの気遣いだろう。



「はい。ぜひ伺いますね。」





そういえば、いつか聞きたかった質問をぶつけてみた。



「ところで、エリアスさんはすごくモテそうですけど、彼女とかはいないんですか?」



「ゴホッ!」


エリアスは飲んでたお茶を吹き出した。



ティンクがすかさず話す。



「隊長に言い寄ってくる女性は、貴族、平民関係なくすごく多いですよ。」




そりゃそうだ。


モデルみたいにかっこよくて、しかも強いときた。モテないはずがない。



「まったく・・・・・4人妻を娶る事ができるのに、誰とも結婚してないんですからね。」


ティンクがため息交じりに話をする。



「ハハハ。」


エリアスさんは笑ってごまかしている。




・・・・・えっ?4人?




「ちよっと待ってください?4人妻を娶れるとは?」



「えっ?知らないんですか?この世界は4夫4妻制だから、4人と結婚できるんですよ。」




はぁ~?




「そうなんですか。でもそれじゃ大変じゃないですか?」



「そうでしょうか。一人を愛する事も出来るし、仮に失敗しても次に見つかればいいしね。全て最良ならそれはそれで最高でしょうけど。」





まじか・・・・・一夫多妻制は聞いたことがあるが、4夫4妻制は初めてだ。



まぁ~、公平といったら公平か。



詳しく聞いてみると、この世界は恋愛という概念がないらしい。




恋愛=結婚なのだ。




そう考えると、人生最大で4人と付き合う?というのは、リアルと比べると多いのか少ないのか微妙だ。


でもそうなると、気軽に恋愛は出来ない世界だなと思った。


そもそも、この世界は僕たちプレイヤーも結婚とか出来るんだろうか。


非常に興味深いが、まずは恋愛より冒険だ。





変な事聞いてしまった。





ティンクさんがエリアスさんを見る目が尊敬する上司以上の感じがしたので、うまい事くっつけばなと思って余計な事を言ってしまった。



エリアスさんごめんなさい。




僕たちは握手をして、お互い時間がある時は会いに行く約束をして別れた。

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