2章

第29話 アークス

40代後半だろうか、男は車に乗って木々が生い茂る、山の麓を走っていた。


その男の名はシュバインと呼ばれていた。


30分程走ると、厳重な門があった。何重ものセキュリティーをパスし、そこを通り過ぎ、車を走らせると、その先の地面が自動的にせりあがる。


シュバインの乗った車は、そこへと入っていく。


すると、上がった地面が車が入ったのを確認すると元の地面へと戻っていった・・・・・。





☆☆☆





世界の大企業、財閥が出資して作った企業『アークス』。



その本社。



何重ものセキュリティーと山の地下にあるこの施設は、核兵器が落ちようが、大地震や災害が起きようがびくともしない。


全世界の重要な施設以上の防御とセキュリティーを誇っていた。




シュバインはその地下10階へと降りる。


そこは広い円形の室内だった。


エスカレーターで降りていくと、中央には巨大なモニターがあり、その周りに多くの机やモニターがあり、多くの人達がいた。





「シュバイン博士。おはようございます。」


助手だろうか。シュバインに声をかける。皆が一斉にシュバインに向く。


「うん。おはよう。それでは始めようか。」





今日は、第一回目の定例会議だった。





「スタートして一か月。目立った状況を報告してくれるかな。」


シュバインが言うと、それぞれ報告を始めた。




「初日の登録者約1億人でしたが、今は約1億3千万人にまで増えてます。このままいくと1億5千万人まで行くと思われます。」


「そうですか。いい流れで来ていますね。」


「プレイヤーレベルですが、現在一部を除いて、レベルで最高なのは37です。平均レベルですと25。博士。予想通りでしたね。」



スタートして1ヶ月経ったが、レベルのあがるスピードは全体的に遅かった。

それは、デスペナルティが大きく影響していたからだ。

レベルを上げるには、魔物や敵などを倒し、経験値を得なければならない。RPGゲームと同じである。



敵を倒すのに、1対1でも、1対5でも、極端な話、1対100でもよかった。



しかし、敵の持っている経験値は変わらないため、倒した後に得られる経験値は常に均等に分担される。その為、仲間が多ければ多いほど、経験値は得られず、ソロなら多く経験値を得られた。



自然と各プレイヤーは、経験値を得ようと最初はソロで戦おうとしたが、よっぽど能力の差やテクニックがないと、魔物とレベルが同じだと倒すのにかなり厳しく。低くても、十二分に倒される事があった。


そうなると、せっかくレベルを上げても、1回死んでしまっただけで、デスペナルティで1~5レベルが落ちる。


割に合わない為、慎重にならざるを得なかったのだ。



必然的に5~6人パーティを組んで、同じか下のレベルの魔物を倒してレベルをあげるのが今の主流だった。



稀に、ボス級の魔物で多くの犠牲を覚悟に、経験値ではなく宝を目当てに100人近くで挑むクランもあった。



「現在、冒険者が一番多いですが、騎士。武闘家。兵士。商人。医者。料理人。伯爵など、さざまざな職や地位に広がってます。盗賊や海賊、裏の組織などにもなっているプレイヤーもいます。」


「フフフ。いいですね。それこそ”真実の世界”です。プレイヤーはもっと自由に、色々な経験を積んでほしいですね・・・・・。ところで、気になるプレイヤーがいると報告を受けたのですが。」


シュバインは考え深げに話す。


「はい。そのプレイヤーは一線を画してます。他のプレイヤーとはまだ一回も接触しておらず。通常、行く事が出来ないアルク帝国に入国してます。しかもレベルは121・・・・・異常です。」



「121?」


周りのスタッフがざわめいている。



「どうやったら、一か月でこんなレベルになるんだよ。」


「そもそもアルク帝国にどうやって入ることが出来たんだ?」


「ありえないだろ。」


「秘密のスキルをもってるとか。」



さまざまな意見が飛び交っている。



「分かりました。そのプレイヤーのみ突出していますが、まずまずのスタートと言えるでしょう。様々な国の要人もインしています。全てのプレイヤーに平等なのが、この”真実の世界”です。我々はただこのモニターで行動を監視するのみ。よっぽど何かあったら対応する事が仕事です。ゆっくりと見守りましょう。」




シュバインがそう言うと、次の議題へと入っていった。




☆☆☆




僕たちは、ルーン国に一回帰った。


宿にあった荷物を整理して、シェリーさんやジョイルさんに今後はアルク帝国で活動をする事を話し、そしてルーン国にも頻繁に帰ってくる事を約束して別れた。


シェリーさんが定期的に必ず報告に来てください。と目をうるうるしてたのが嬉しかったなぁ~。


今も、この先も、僕たちパーティの担当はシェリーさんしかいないのに。


その事を伝えて、最後は笑顔で別れた。



そして今僕は、皇帝がくれると言った家の前にいる。



最初は、帝都に建てようと言われたが、断固反対した。都会は落ち着かないからである。自然が多くて落ち着くところがいいと希望をだしたら、今いる所に建ててくれた。


そこは、帝都から近い温泉地だった。


川が流れ、木々が多いこの温泉地は、観光や癒しにくる人が多い。


その上流の少し離れた所に建てられていた。


門があり、中に入ると木々や花が生けられ、池があった。その中心に大きな暖かそうな木の家がある。


有名な建築家が建てたのだそうだ。


そして土地を入れると広さは3000坪位はある。



まじか。



入り口まで来ると、家の手伝いの方達に迎えられた。



「お初にお目にかかります。この度、英雄様の執事を仰せつかりました、セメルトと申します。」


「私は、メイド長のリンと申します。」


全部で10名。執事、メイド、料理長、庭師など次々と紹介を受けた。


正直、お手伝いさんとかは要らなかったのに、それは面子上ダメだと、大臣に言われてしまい飲まざるを得なかった。



皆を連れて、居間へと移動して今後の話をする事にした。



「セメルトさん。僕は冒険者です。帰ってこない事が多いと思います。なので、気楽に家を維持して頂ければいいので。」


「いえ。私達は、レイ様に雇われた身。誠心誠意この家を守らさせて頂きます。」



そうなのだ。



この人たちの給金まで、この国が払うと言ったので、それでは肩身が狭いのでちゃんと僕が雇う事にした。


「それでは、お金を預けますので、今後の皆の給金や食費、雑費はここから全て払ってください。」


「えっ?」


そう言って僕はセメルトさんに10億G渡した。


「ちょっ。ちょっと待ってください。」


自分の実力で手にしたお金とは思ってないので、ちょうど良かった。


「皆さんの給金の相場は分かりませんが、お手伝いに来ていただいているので、通常の1,5倍の給金という事でお願いします。お金の管理等は全てセメルトさんにお任せします。皇帝からの紹介ですから信用してますので。」



皆がざわめいている。



「分かりました。家の事はしっかりと務めさせていただきます。」



セメルトが緊張した面持ちで答えた。



「お願いします。それでは皆さん。敬語とかはなしで!あと英雄様と言うのはやめてね。レイでいいから。気楽に今後ともよろしく~!」


僕は笑顔で言った。



「よろしくお願いします!」







こうして、僕と白雪の家が出来てしまった。




いつかは拠点となるホームは欲しかったので良かった。でもまさかこんなに早く達成するとは思わなかったな。




そしてなぜかそれぞれ部屋があるのに、寝る時は一緒じゃないとダメと白雪に押し通されたのは余談である。




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