第28話 英雄


外は夕暮れ時。



城を出るとその街並みはとても綺麗に見えた。


所々がライトアップされていて、行きかう人々もルーンの町に比べると比較にならない程多い。


僕たちは良さそうなレストランに入って食事をしている。


「あと何日位いられるのかな?」


「ん。そんなに気に入ったの?」


「いや、まだ全然分からないし。この国はとても広そうだ。冒険のしがいがあると思ってね。」


「たしかにそうね。」



この世界で、一番広い国土を持っている国だとティンクさんは言っていた。


色々な不思議な所やダンジョンなどがありそうだ。この町で終わるのはもったいない。


ルーンはそこそこダンジョン攻略したから、今度はこの国でゆっくりと探索したいな。でも難しいだろうな。他国の人は滞在があまりできないし、特に冒険者は入国禁止だ。


ただ、昔唯一、一人だけ冒険者が入国できた人が居たらしい。最強の冒険者と呼ばれていて、この国を苦しめていた魔物を退治したのだそうだ。


そしてその冒険者は、エリアスの祖先に技を教え、どこかへ去っていってしまったとの事。


そこまでしないと入国できないんじゃ無理か。


しょうがない。戻ったら、次の冒険先を考えるとするか。





僕たちはゆっくりと食事を楽しみ、外に出るとすっかり夜になったいた。


夜もすごく賑やかだ。


地図を見ながらなんとか宿の前に着いた。




「えっ。ここ?」


思わず声がでた。




その建物は10階はあろうか、とても高くそれでいて外観は色々な装飾がされている立派な建物だった。


高そうだ。


入るとにフロントに居た人に、最上階へ案内された。


魔法陣の上に立つと音もなく上へと上がっていく。



曰く、最上階は3部屋しかなく、他国の要人でも中々泊まれない所だという。


そんな所に泊まっていいの?お金は大丈夫なのかな?



「宿泊費の事はお気になさらず。レイ様達は、いくらでも泊まっていいと伺っております。どうぞごゆっくり。」



中に入るとこれまたすごい。



何畳あるのかとても広い。そしてシャンデリアやら、高そうな絵画やら椅子やらがある。


逆に落ち着かないなぁ。



「しょうがない。ここでしばらくは泊まらせてもらって、この町だけでも見てまわろうか。」


「うん。」



最上階の窓から外を眺めながら白雪に話しかけた。




☆☆☆




声がかかったのは、その三日後の朝だった。


ティンクさんが迎えに来てくれた。


朝は忙しくて食べないとティンクさんが言ったので、せっかくなので一緒に朝食を取る事にした。


食べながらティンクさんが話をはじめる。


「どうでしたか。少しは楽しめましたか?」


「そうですね。まずこの町は広すぎますよ。まわるといっても3日じゃとてもとても。」


「そうでしたか。たしかにこの帝都は広いですからね。この国一番の広さですから。」


ティンクは楽しそうに話す。


「ところで、この国は冒険者が居ないという事は、冒険者協会もないんですよね。」


「そうですね。ありませんね。」


「という事は、魔物やダンジョンとかはいないんですか?」


「いえ。町から出れば魔物や野獣もいますし、ダンジョンもあります。そしてまだ解明されてない不思議な場所もありますよ。」



そうなんだ。あるんだ。



「ただ、冒険者みたいに討伐や攻略したら報酬をもらうのではなくて、取れた素材や魔光石を売買する形になりますね。」


お金に換えるやり方は、あまり変わらないみたいだ。


「この国だけの事ですので、それを生業としている人達は、狩人と呼ばれています。」


「なるほど。」


という事は、ここでも今までと変わらず生計を立てられるという事だ。



僕たちは朝食をとり、城へと向かった。




☆☆☆




城の前まで来ると、衛兵が城門をゆっくりと開ける。




中に入るとこの間と様子が違っていた。


黒い甲冑を着た兵士達がずらっと城へ続く道の両脇に並んで立っているのだ。


おそらく何千人といるだろう。


その入口にいる漆黒の鎧を纏い、顔には大きな切り傷が入っている大柄な男が、僕たちの方へと近づく。



「私は、マルカスと申す者。」



ティンクさんが小声で、5大将軍の一人、『剛力のマルカス』と呼ばれている人だと説明してくれた。



「此度は、色々と助けて頂き、感謝している。そして、我が副官。エッジが刺客だと気づかず放置してしまった私の罪は重い。皇帝は許して下さったが、いつかこの借りは必ず返す。まずは、英雄殿の道案内だけでもさせてもらいたい。」



そう言うとマルカスは大声で言った。



「我が漆黒の虎部隊は、全力で英雄殿をお迎えするのだ!」


「オオオオオオオオ!」


何千人といる屈強の兵士たちの雄たけびが響く・・・・・やめてください。はずかしいです。




城へと歩く道のりはとてもはずかしかった。


進むたびに左右の兵士さんが「英雄万歳!」と連呼するし、何事かと他の文官の方達が遠巻きにみてるし。


いたたまれない気持ちで何とか城へと入っていった。


ほんと英雄とかじゃないから。






前に来た謁見の間に通されると、同じ様に、皇帝が居た。そして、アイリ、クリスや将軍達幹部の人達も。


新しく居たのは、皇帝の横の椅子に座っている皇妃だった。


僕たちは、皇帝の前で片膝をついた。



「シャーリー様。よかった。だいぶ顔色も良くなりましたね。」


僕は笑顔でシャーリーへ話しかける。



「フフフ。この3日間はずっと食べてたわ。今まで食べられなかった反動かしらね。おかげで、大分体力も取り戻しました。」


「そうですか。良かった。」



すると皇帝が話しかける。



「レイ殿。此度は、アイリ達を助け。クリスを救出し、そしてシャーリーを助けた・・・・・。感謝しても感謝しきれない程の恩を貴方はもたらした。それに報いる程の恩を私は思い浮かばない。」



「ガイルズ陛下。僕が助けたのはたまたまです。そんなにお気になさらないでください。」



「フッ。たまたまか。謙虚な事だ。それでは、レイ殿の褒賞を行う。財務大臣。前へ。」



「ハッ。」



財務大臣と呼ばれたおじさんが前へと出る。



「レイ=フォックス様には、この度の褒賞として、金貨10億ゴールド。この国と帝都、城全てを自由に出入りできる許可。そして住む土地と家を与える。」



「・・・・・はっ?」


思わず声がでた。



金貨10億ゴールド?なにそれ。しかも、自由に出入りできるって・・・・・。あと土地や家? はぁ?



「不満かな?」


「いやいやいや。自由に出入りできるって・・・・・。僕は冒険者ですよ?いいんですか?」


「ハッハッハ。何を言っている。レイ殿はレイ殿だろう。冒険者とかは関係ない。私はこの国の誰よりも信用に値すると判断したのだ。拠点となる住居も持ってないと聞く。なら、この国でぜひ拠点として活動をしてもらいたい。」



開いた口が塞がらなかった。



「正直を言うとな。これでもまだ全然足りないと思っている。しかしこれ以上は今の所思い浮かばないのだ。」


「いえいえいえ!十分です!ありがとうございます。」


「そうか。良かった。」


「・・・・・ほんと、私と付き合わせてくれって言えばいいのに・・・・・。」


小声でアイリが呟いた。


白雪の殺気がすごい。やめてね。


僕はもう一度、感謝の言葉をかけて、謁見の間を後にしようとしたが最後に皇帝が声をかけた。



「レイ殿。今回の件は私だけでなく、この国全ての国民が感謝している。全ての国民がだ。もし、そなたが何か苦境にたたされた時や助力が必要な時は、個人ではなくアルク帝国が助力をする。それだけは覚えておいてほしい。そして、そなたはいつ何時でも城へ出入り出来る様にしておく。いつでも遊びに来るといい。」


ガイルズは笑顔だった。




「ありがとうございます。」


もう一度、皇帝へ向かって頭を下げ、後にした。




☆☆☆





ここ一週間はアルク帝国はお祭り騒ぎだった。


シャーリー皇妃の病気が治ったのだ。


ガイルズ皇帝はこの国の柱だが、シャーリー皇妃はこの国のシンボルで、母だった。全国民から慕われていたのだ。


その元気なお姿を見て、涙を流す者。大騒ぎする者。抱き合う者。宴を開く者。様々だったが誰しもが喜んでいた。


クリス皇子が誘拐されたが助かった。アイリ皇女も助かったと聞く。




その前までは全てが悪い方向へと、話がいっていた。国民の心は沈み、憎悪が支配していた。


策略した国との戦争もやむなし。と誰もが思っていたのだ。




それを、全て解決してしまった。




全ての国民が歓喜に震えた。




助けたのがたった一人の冒険者だったのだという事がさらに拍車をかけた。





そしてアルク帝国の全国民は称えた。






英雄『レイ=フォックス』と。











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