第26話 アルク帝国
朝。
僕たちはデッキに出ていた。
白雪は一晩寝たら元気になっていた。良かった良かった。昨日の夜は何してたか、しつこく聞かれた事はまぁ~おいといて。
外に出ると、ちょうど日が昇る所だった。
日の出の景色は最高だね。
眺めていると、ティンクさんが声をかけてきた。
「もうすぐ国境に入ります。ご覧ください。」
下を見ると、数キロ先だろうか、左から右へ、ずっと先まで壁が続いている。しかもかなり高い。
当然人が登れる高さではなかった。
よくこんなものを建てたな。
そして、壁の上には間隔を置いて何かドームの様な物が置かれている。その上からはオーロラの様な美しいカーテンが天高く覆われていた。
「これが、許可なく虫一匹入る事が出来ない、最強の魔法障壁です。」
すごい。下はまず入れないし、上空からもこの魔法障壁で通れないだろう。
飛空艇はゆっくりとその壁へと近づいていく。
すると、進路上の先の障壁が船の通るだけの大きな穴を開けた。
そこを船はくぐりぬける。
抜けると、その穴はまた元の障壁へと戻っていく。
どうやってコントロールしているんだろうか。すごい技術だな。
そして、抜けた先は様相が変わっていた。
所々に大きな町あり、その町はビルの様な高い建物もあった。結構、近代的っぽい感じだ。
道もしっかり整備されて続いている。
何というか、中世のヨーロッパみたいな雰囲気だ。
森や湖もあった。
そして、上空には小さいプロペラの付いた小型船が行きかっている。
あまりにもルーン国とは違って見えた。
なんというか、ルーン国は古い町並みと山だらけのイメージだったが、アルク帝国は近代的でいて、自然もあり、人口もとても多そうだ。
じゃなければ、こんなに独自に発展しないか。
「ようこそ。アルク帝国へ。」
笑顔でティンクさんが語りかける。
僕はこの広大な風景をみて圧倒されていた。
「すごいですね。国が違うとこんなに違うんですか。」
「いえ。他の国はどちらかと言うとルーン国に近いと思います。このアルク帝国が特別なのです。」
「はぁ~。そうなんですか。」
そんな話をしながら、さらに数時間かけ、帝都に着いたのは昼頃だった。
☆☆☆
帝都=アルク。
城を中心に城下町が広大に広がっている。この国一番の大きな都である。
城のその大きさたるや今まで見てきた城とは比べ物にならない位大きい。中に入ったら迷子になりそうだ。そして広さもすごい。
ドーム何個分になるのだろうか。
壁が何層もあり、周りを町が囲んでいる。ビルの様な高い建物も所々にあった。すごい。圧巻である。
城にある魔法障壁に穴があき、そこへ飛空艇が入っていく。進んでいくと、城の横に大きな飛空場があった。
そこには何隻も飛空艇があり、そこへ着陸する。
アイリが先頭で降りていき、その後に続く。降りた先には、エリアスさんが待っていた。
「やぁ!レイ君。待ってたよ。」
がっちりと握手をする。
「ご招待ありがとうございます。エリアスさん。でもいいんですか?僕は冒険者ですけど・・・・・。」
「ハハハハハ。何を言ってるんだ。君はこの国の英雄だよ。冒険者だろうと関係ないさ。」
「英雄って・・・・・。はぁ。そうなんですか。」
とても嬉しそうだ。
そういえばティンクさんが言ってたな。
エリアスはあなたの事になると自分の事の様に嬉しそうに話をする。そしてそんなあなたが羨ましい、と。
「そういえば、左腕はどうなんですか?」
「ああ。おかげさまで完治したよ!」
エリアスは左腕をぐるぐる回して見せた。良かった。完治したんだ。
「1ヶ月以上はかかると医者に言われていたのに、1週間で直してしまうんですよ。呆れました。」
とティンクさんがため息交じりに言った。
「ところで僕たちはこれからどこへ?せっかく来たので観光したいんだけど。」
「何言ってるの!」
アイリが口を挟む。
「レイ君。これから皇帝と謁見してもらいます。この度の功績を称え、何か褒賞をお与え下さるらしい。私の後に付いてきてください。」
エリアスは話した後、城の中へと歩いていく。
輝く鎧の背中には真っ白なマントに鳳凰の刺繍が鮮やかに描かれている。一緒に旅した時のエリアスさんもかっこいいが、今のエリアスさんはもっとかっこいい。
すれ違う武官、文官の人達が頭を下げる。将軍の風格と威厳が感じられた。
しばらく歩くと、大きな扉があり、その両側を兵士が守るように立っている。僕たちが来ると扉をあけ、中に入っていく。
そこは、謁見の間に相応しいとても広い部屋だった。
アルク帝国の旗がところどころに立て掛けてある。
その正面の大きな椅子に皇帝は居た。
その右には皇子クリスが。アイリはそのまま歩いて王の左へと行く。
そしてその両側に均等に立派な鎧をまとった人達が立ち並んでいる。エリアスさんもそこに立つ。
その後ろには文官らしい人達が大勢いた。
僕は皇帝の正面に立ち、飛空艇にいた時に習った通り、片膝をつき、頭を下げた。
「貴殿の名を聞こうか。」
皇帝が話す。
「私の名は、レイ=フォックスと申します。」
「レイ=フォックスよ。まずはお礼を言わせてくれ。アイリを、そして連れ去られたクリスを助けてくれた事。感謝している。」
そこで僕は話を遮った。
「皇帝よ。先にどうしても聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
周りがざわつく。
特に文官の人達からは、小さい声で「皇帝のお言葉を遮るとは・・・・・。」と聞こえてきた。
「ふむ・・・・・。なんだ?」
「皇妃が病にかかっていると聞きました。どんな状態なのでしょうか。」
アイリとクリスが暗い顔をするのが見えた。
「そうか。知っているのだったな。妻シャーリーは日に日に衰弱している。ほとんど食べる事もできず、起き上がる事もできない。見舞うと笑顔を見せるがそうとう苦しんでいるのが分かる。あのエッジの仕業だったとはな。」
皇帝から怒りの空気が感じられた。
「エリアスさん。ちょと聞きたいんですが、たしかダンジョン『名もなき孤高の城』へ行った時に、主、ケイトさんが言っていた、何でも直す薬の特徴をもう一度教えてください。」
エリアスは少し考えてから答えた。
「たしか、真っ黒な液体が入った瓶と言っていたね。」
やっぱり。
その時は聞き流していたが、よくよく考えたら身に覚えがあった。
そう。最初に白雪を見つけた時にあったアイテムだ。
【奇跡の薬】どんなステータス異常、状態も直す奇跡の薬。
中身は真っ黒な液体が入っていた。3本ある。
これじゃね?
「皇帝。もしかしたらシャーリー様を助けられるかもしれません。」
「!!!!」
周りがざわめいている。
「できましたら、今すぐにでもシャーリー様とお会いする事はできませんでしょうか?」
アイリとクリスが口を挟んでくる。
「お父様!私からもお願い!」
「お父上!僕からもお願いします!」
「・・・・。」
するとエリアスが一歩前に出て、皇帝の前に膝をつく。
「ガイルズ皇帝陛下。この者は冒険者ですが信用に値します。どうか、謁見の許可を。」
「・・・・・エリアスまでもが言うのであれば、そうなのであろうな。分かった。あわせよう。アイリ。エリアスと一緒にレイ殿の案内を。」
「!はい!」
アイリは片膝をついている僕の元へ行って手を引いてエリアスと共に謁見の間を後にした。
白雪はここで待機する様に言われて、不満そうだったが僕がお願いしたら渋々待っててくれた。
さて。治るといいんだが。
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