第25話 空飛ぶ船


兵士が左右に分かれた真ん中の道をアイリは歩いてくる。


「久しぶり。元気にしてた?」


「久しぶりって。一か月も経ってないじゃん。」


「あら。何をやってるの?」 



スルーかい。



「あ~。今度冒険に出る時に夕食のレパートリーを増やしておこうと思ってね。」


「へ~。レイって料理作れるんだ。」



アイリはカウンターに並べてある料理を食べようとする。



「!!アイリ様!毒味もしないで食べないでください!」



兵士が驚いた様に静止しようとする。


「平気よ。レイが作った物に毒なんて入ってないわ。」


と言いながらシチューを一口。


「えっ!なにこれ!あったかくておいしい!」


二口三口とパクパク食べている。



白雪がこれ以上食べるなと止めている。



「あのさぁ~。何しに来たんだよ。」



他の料理もうまそうに食べていたが、ハッとしたように話始める。



「ごめんなさい。つい話をするのが遅くなったわ。レイ。あなたを私の国に招待しようと思って来たの。」


「はぁ?」


「町の外に船を待たせてあるの。もちろん、ルーン国には許可をもらっているわ。」


「あの~。あなた様は?」


シェリーさんが恐る恐る尋ねる。


「このお方は、アルク帝国第一皇女。アイリ=レンベル様です。」


近くの兵士が答える。




「へっ?」




今なんて言った?




「皇女~~~!?」




思わず僕は素っ頓狂な声をあげてしまった。




「何驚いてるのよ。この間襲われた時に会話してたでしょ。」


「いやいやいやいや。敵の動きを警戒してて会話を聞く余裕なんてなかったわ!」


「あらそう・・・・・。まっ、そういう事で。」



そういう事でって。じゃ~あの時の弟さんは皇子ってことかい!


この間は、結構すごい状況の中に居たんじゃないの?それって。


シェリーさんは口をパクパクしている。それでも美人なんだからうらやましい。


「さぁ。行くわよ。」


アイリに手を引っ張られて後に付いていく。


「あっ。白雪ちゃんは来なくてもいいけど。どうする?」


「行くに決まってます!」


白雪がプンプンしながらついていく。



☆☆☆



冒険者協会の外に出ると、兵士がずらっと100人位はいた。


全員、鳳凰のデザインが刺繍された真っ白なマントを羽織っている。かっこいいな。


その中心に居る、ショートカットの髪型でモデルの様な体形の女性が凛として立っている。


その女性が僕の前まで歩いてくると、



「全員!レイ=フォックス殿に礼!」



すると、その女性と一緒に100人近い兵士たちが片膝をつく。



「レイ殿。この度は皇子、皇女を救って頂き、ありがとうございました。さらに、我が部隊、”鳳凰の羽”隊長であり、我が国の将軍でもあるエリアスをも助けて頂いたと聞いてます。この隊を代表して副官の私がお礼申し上げます。」



100人近い人が片足をついているのは壮観だ。なんかかっこいい。



「やめてください。そんな大げさな。」


「そうよ。レイは無頓着だから、そんなに気にしなくていいわよ。ティンク。」



アイリ。お前が言うな。



「では、アイリ様。レイ殿とお仲間の方。私の後に付いてきてください。」



僕たちは、副官のティンクという方の後についていった。



巨大船に乗ると、しばらくしてゆっくりと上空へ浮かぶ。上へ上へと。そしてそのまま前へと進んでいった。時速はどの位だろうか。体感だと結構速い。


リアルでも船が空を飛ぶのは体験がない。


どうやって飛んでるのかとても不思議だ。


僕たちはそのまま艦内の一室に案内され、そこで簡単な夕食がでた。


食べた後、少しくつろいでいると慣れない船旅に疲れたのか、気づくと白雪が寝ていた。僕は白雪をベットに移して頭を撫でると、そっと部屋を出てデッキへと向かった。





外はもう夜だ。


気持ちのいい風が頬にあたる。


空で夜風をあたるなんてリアルではまずできない。


雲の上は鮮やかな星がちりばめられて夜空を照らしている。



はぁ~とても綺麗だ。



デッキの手すりに両手を掴んで空を眺めていると、後ろから足音が聞こえた。


振り返ると、ショートカットの女性がこちらへ向かっている。


副官のティンクさんだ。


僕は会釈をして、また空へ顔を戻した。



「この船は、すごいですね。空を飛ぶ船に乗ったのは初めてです。」


「フフ。そうですか。たしかに、この技術はアルク帝国以外の国にはないですからね。」


そう言いながら、僕の隣で一緒に空を眺めている。


「ティンクさんでよろしかったでしょうか。」


「ええ。レイ殿。お仲間はどうされたので?」


「白雪は疲れたのか寝てます。アイリはどうしてるんですか?」


「アイリ様は、王族の特別室で休んでおられます。船に乗る場合は、王族はデッキや外に出る事は禁止なので。」


「そうなんですか。こんなに景色がいいのにもったいない。でも仕方ないんでしょうね。」


「ないとは思いますが、万に一つも間違いがあってはいけませんからね。厳重にしないといけません。」


皇族というだけでこの警護。アイリも大変なんだな。



「でも、アイリ様のあんな表情。初めて見ました。」



「初めてと言うと?」



「あなたと居る時のアイリ様です。あなたと話すアイリ様は年相応で、楽しそうで見ていて安心しました。いつもは責任感が強くて、特に最近は皇妃様があんな事になってからは、いつも張り詰めた表情をしてらっしゃったので・・・・・。」



「そうなんですか。」



母親を助けたい一心でルーンまで来たんだ。よっぽど切羽詰まってたんだろう。




「ところでレイ殿。改めて今回はありがとうございました。」


「えっ?いえ。そんな大した事はしてないですよ。」


「皇子、皇女はもちろんですが、エリアス。我が隊長を助けて頂いた事に心から感謝致します。私達は、エリアスあっての隊ですから。」


ティンクさんが笑顔で話す。


「レイ殿は着いたらお忙しくなると思いますので、今聞きたい事があったら何なりと聞いてください。答えられる事は出来る限り答えますので。」


「えっ。ありがとうございます。じゃ~、私はルーンから出たことがないので、これから行くアルク帝国の事を聞かせてください。」


ティンクさんはゆっくりと丁寧に話してくれた。





アルク帝国。


現皇帝は第15代皇帝。ガイルズ=レンベル。


約1,000年前に出来た国であり。


この世界で5大国と呼ばれている国の一つ。





北の大国 雪に覆われた教国。ギリア。


北東の大国 冒険者が治める国。オロプス。


東の大国 水と緑の国。アルメリア。


南の大国 太陽の国。ナイージャ。


西の大国 最強の国。アルク帝国。


世界で25ヶ国あり、大国と呼ばれているのはこの5つだけだった。





そして、このアルク帝国は、世界最大の国土をもち、世界最強の国と呼ばれている。



なぜか。



それは、地理的に非常に恵まれていて、軍事力、経済力、技術力、貿易、エネルギー産業。どれをとっても他国の追随をゆるさない。そして、最大の特徴は徹底した秘密主義で、他国に技術や情報を渡さない事でもあった。その為、入国審査は特に厳しい。この国に入れるのは、他国の要人や特別な時のみ。特に国を渡り歩く冒険者や旅人、商人の入国は一切出来なかった。独自に発展して、独自に栄えた国。それがアルク帝国だった。



この空を飛ぶ船もアルク帝国のみが所有している技術の一つだという。


他にも他国にはない、さまざまな技術があるという。




ティンクさんはその他にも、いろいろとアルク帝国の事を話してくれた。



「なんでしょう。レイ殿とはすごく話しやすい。余分な事まで話してしまったかもしれませんね。」



コミュニケーションのスキルが上がっているからなのかな?でも人と話すのは好きなんだよね。



「明朝には国境に差し掛かると思います。おもしろいものが見れますので、ぜひ、朝にお呼びしますね。それまではゆっくりとお休みください。」


「ありがとうございます。もう少し夜空を眺めたら部屋に戻ります。」



ティンクさんは挨拶をして部屋へと戻っていった。



もうしばらく、空を眺めていると、デッキに一人出てきた。フードを被った女の子だろうか。周りをキョロキョロ伺っている。僕の方を向くと一直線に走って僕の胸に飛び込んでくる。



「うわっ!」


あわてて抱きとめる・・・・・胸が当たった。



「へへへっ!」


フードの中を見るとアイリだった。



「おいおい。皇女様は勝手に外に出ちゃいけないんじゃないの?」


「たまには息抜きも大切なのよ!」


抜け出してきたな・・・・・。



「うわぁ~!すごく星が綺麗!」


子供の様にはしゃいでいる。



「見た事ないの?」


「うん。デッキに私は出る事はできないから。」


「そうなんだ。」



奥の影に人の気配を感じる。おそらく護衛の人達だろう。僕が居るからティンクさん達も、今回だけ大目にみているのかもしれない。


だったら、この時だけでもアイリに楽しんでもらえたらいいな。


アイリはキョロキョロして僕が聞こえない小声で呟いていた。


「・・・・・よし。あの子は居ないのね。」


「で。アイリは今は大丈夫なの?」


「えっ?うん。帰ったら、国内はいろいろと大変だったけどね。でもエリアスの傷も完治して、今は普通に戻ってるわ。」


「そうか。」


「後は、お母様の具合が良くなってくれれば・・・・・。」



皇妃の件に関してはちょっと気になる事があった。それは着いた時にエリアスさんに聞いてみよう。



「お母さんの事は大変だろうけど、アイリが暗くなったら、周りも暗くなるんじゃないの?こういう時こそ笑顔笑顔!」



アイリの頭を撫でながら、笑う。



「・・・・・そうよね。しっかりしないと!」


両手で頬を叩いてほほ笑んだ。



しばらくアイリと雑談をしていると、頃合いを見て奥から兵士が歩いてきた。時間の様だ。



「本国に着いたら色々とこの国について教えてあげるね!」


「ああ。楽しみにしてるよ。」


アイリは笑顔で手を振りながら兵士と部屋へと戻っていった。


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