第24話 別れ。そして再会。


「終わったのか?」



敵が去った道の真ん中に僕は立ち尽くしていた。


「レイ!」


振り向くと、アイリが僕の胸に飛び込んで抱きしめてきた。



「もぅ。無茶ばかりするんだから・・・・・。」



う・・・・・。胸が当たっている。アイリの頭を撫でながら煩悩を捨てる努力をしていた。


それを白雪が冷たい目で見ている。



「お姉様。彼は?」


「あぁ。紹介がまだだったわね。彼はレイ=フォックス。私とエリアスの命の恩人でいて、友人。そしてあなたの命の恩人ね。」


「えっ?お姉様に友人?」


かなり驚いている顔だ。


「そうだったんですね!初めまして!私はお姉様の弟でクリスと言います。」


言葉遣いが丁寧で、しっかりした子供だ。そして、自分の命を投げ出してまで助けようとした姉思いの子でもある。


「レイといいます。よろしく。」


クリスと笑顔で握手を交わす。



すると、エリアスが僕の近くまで来てアイリと同じ様に抱きしめた。



「えっ?エリアスさん?」


「本当に君というやつは・・・・・。生きててよかった。」


「お互いに。ですよね。」


笑顔で答えた。


「ああ!全員無事で良かった。」



☆☆☆



僕たちはもうすぐ目的の場所に着こうとしていた。


この山岳の中腹にとても広い場所があり、そこに迎えが来ているという。


クリスを一人加えて登っていくと、徐々にその集合場所が見えてきた。


そこは、東京ドーム半分位の広大な広場だった。


そこに待っていたのは、戦艦の様な大きな船が一隻と小型の船が3隻。


大きな船の入り口から赤い絨毯の様な物が続いていて、その両方には甲冑を着た兵士達が並んでいる。


僕は唖然としていると、エリアスが僕の方を向いて


「レイ君。色々とありがとう。おそらくすぐに会う事になるだろうが、一時のお別れだ。」


エリアスが右手を差し伸べる。


「よくわかりませんが、エリアスさん。早くその腕を直してくださいね。お元気で。」


エリアスと握手を交わす。


クリスがエリアスの後ろから出てくると、船で待機している兵士達から歓声があがっている。


「フフ。クリス様は攫われたと思っているからね。国に帰ったら大変だ。」


エリアスが言う。


クリスは僕の前にきて手をだす。


「レイさん。助けてくれてありがとうございました。この恩は一生忘れません!」


「ハハハ。まぁ~気にせんと。気をつけて帰るんだよ。」


クリスと握手を交わす。


エリアスとクリスは手を振りながら船に向かっていった。





「ねぇ。」


右隣に居たアイリが僕の右腕を掴んで引っ張った。


チュ。


低くなった僕の顔の頬っぺたにアイリはキスをした。



「またね!」



赤くなりながら船に走っていくアイリに、クリスやエリアス。他の兵士たちが驚き、信じられないような顔をしていた。



左隣にいた白雪が一言呟く。



「やっぱり殺さないとだめね。」


うん。だめだよ。殺しちゃだめね。




乗船すると船の下部にある複数の魔法陣が光り、ゆっくり上空へと昇っていき、夕暮れの太陽に向かっていくように進んでいった。




僕は手を振って、アイリ達を見送った。




レベルが上がりました。無機質な音が連続して聞こえてきた。





☆☆☆




町に戻ったのは二日後だった。


僕たちのケガはそんなになかったが、疲労は半端ではなかった。


今回も色々とありすぎて、ほんと疲れた。


「レイは何でも関わりすぎ。もっと自分の事も考えて。」


帰りに白雪に言われたなぁ。



リアルじゃ危険な事には首を突っ込まない。だからこそ、こっちの世界では自分が出来ない事をやろうと決めたんだ。


白雪には心配をかけるが我慢してもらおう。ごめんね。



僕たちは冒険者協会へ行ってシェリーさんへ報告をした後、


よほど疲れたのか、宿へと戻ってすぐに眠りについた。




☆☆☆




あれから1週間がたった。


僕たちの疲れもすっかり癒え、ジョイルさんが約束した防具が出来たと知らせを受けたので薬屋へ来ている。



「ほれ!これだ!」



「おぉ~!」



ジョイルコート 防御力+120 速さ+70 火を無効化する。



名前にセンスの欠片もないが、随分と性能があがっている。特に速さは倍だ。形も悪くない。



「そして嬢ちゃんには前のコートの強化版だ。」



リーネ+ 防御力+150 速さ+50 魔力+150 火を無効化する。



白雪の防具は1週間前、宿屋に帰るとすぐに情報を聞きつけ、ジョイルさんが取りに来たのだ。



「どうしても、魔力の補正を生かしたかったのでな。」



すごい。白雪の防具も前と比べると1.5倍は性能が上がっている。


そして、両方とも火を無効化するスキルが付いている。おそらくドロップした素材、炎糸のおかげだろう。


「ジョイルさん。ありがとう。」


「ああ。いいってことよ。約束だしな。」


ニヤリと笑う。


「所でこれからどうするんだ?」


「うん。ちょっと冒険者協会でやる事があってね。」




☆☆☆




冒険者協会には冒険者が気軽に食べられる大きな食堂がある。もちろん大食漢の集まりだ。厨房も大きい。


その一角を、シェリーさんに頼んで数時間だけ借りたのだ。


混む昼の時間も終わり、客も今はまばらだ。



「え~と。これとこれとこれ・・・・・ヨシ!準備オッケー!」



何をしているのかというと、これからもダンジョンだったり、森だったり、山だったり色々な冒険をするだろう。


その時に夜食べる食事は大事である。


即興で今までは作ってきたが、もっとレパートリーを増やしておきたい。


その為に厨房を借りて冒険の夜に簡単に作れる料理を考案しようと思ったのだ。


試食審査員は、美人なお姉さんシェリーさんと白雪。後、何故か俺は味にはうるさいと言いながらついてきたジョイルさんだ。


僕は調理を始める。とりあえず3品用意しようと思っている。


まずは意外と簡単に作れるステーキだ。


おすすめの野獣の肉を手ごろなサイズにカット。表に格子状の切り込みを入れて軽く叩く。そして塩とこしょうを振ってから焼く。


同時に蒸したジャガイモと野菜を準備。お皿にのせれば出来上がり!



栄養価満点のシチューも作った。パンも添えて。これは最初の冒険で僕しか食べてないのでだしてみる。



最後は魚料理だ。用意した白身魚の切り身に塩とこしょうを振って、少しだけ置く。小麦粉っぽい物を付けてからフライパンにバターを入れて投入。

火を通して出来上がり。うん。これも簡単だ。


とりあえず。カウンターに3点料理をだしてみた。


3人それぞれ、違う料理を一口。


ドキドキしながら眺めていると、


「おお!このステーキ!うまいぞ!」

とジョイルさん。


「このシチュー。あったかくておいしい。」

と白雪。


「バターがとてもこのお魚に合いますね!」

とシェリーさん。



良かった。皆好評だ。この3品目は決定だな。




ニコニコしながら料理人気取りで腕を組んでいると、広い食堂の入り口からぞろぞろと10人以上の見慣れない兵士が現れた。



訝しげに見ている冒険者。



それを無視して奥に居る僕を見つけると、真っすぐに近づいてくる。


僕の前まで来て何かしゃべろうとしたその時。



「どいて!どきなさい!」



と聞き覚えのある声が響いた。


すると、兵士達は左右に分かれ、その真ん中には見慣れた女の子がいた。




9日位前に祖国へ帰ったであろうアイリだった。




なぜいる。






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