第23話 裏切り
なぜ、エッジがここに居るのか分からない。
彼は、私と弟の剣術指南役。
それでいて5大将軍の一人、剛力のマルカスの副官でもある人だ。
「なぜ。という顔をされてますね。後ろに居るエリアス殿は感づいているようだ。」
振り返ってエリアスを見る。
「・・・・・どこかの国の諜報員という事ですか。」
「フフフ。ご明察。さすがエリアス殿。」
エッジは微笑みながら続ける。
「計画を遂行するのにエリアス殿が邪魔だったからなぁ。アイリ様にこのルーン国に欲しい薬があると誘導して正解だった。」
「なっ!」
アイリが驚いている。
「おかげで全てうまくいったよ。フフフ。今、国は大混乱だ。」
すると、隣に居る女がニヤリと笑って言う。
「エッジ様。未踏破ダンジョンに行くというのも読み通りでしたね。そして負傷して戻ってくることも。」
「死んでくれてもよかったんだが、余計な邪魔者が入るとは思わなかった。でも大事な駒は一つでも多い方がいいからね。頂くとするか。」
エッジが動こうとすると、エリアスがアイリの前に出てくる。
「ああ!そうそう!君たちに紹介しよう!」
そう言ってエッジが指示をだす。後ろの仲間の一人が子供を連れ出してくる。
「クリス!」
「お姉様!」
エリアスの動きが止まる。
「エッジ・・・・・貴様・・・・・。」
「フフフ。全て計画通りだったよ。皇妃に確実に死を与える薬を盛り、エリアス殿を国から離し、指南役として皇子を誘拐する。完璧だ。」
エッジは両手を天に掲げ、話す。
「事のついでだったが様子をみてきて正解だった。エリアス殿は負傷していて、アイリ様をさらえるのだからな。」
「そんな事はさせない。」
エリアスは剣を抜く。
「おっと。状況が分かっていないらしい。皇妃に薬を盛った時点で目的は達成しているんだよ。皇子を殺していいのか?」
エッジは不敵に笑う。
エリアスは動けない。
僕はやりとりを見ていた。どうすればいい?
すると皇子が話始める。
「お姉様。今までありがとう。僕たちの国を守ってね。」
そういうと、クリスは唱えた。
「アイッシュ!」
クリスの体から激しい光がほとばしる。
全員一瞬動きが止まる。
その隙にクリスは敵の手を払い、左にある崖めがけて走っていく・・・・・。
僕が居たらお姉ちゃんも捕まってしまう。それはだめだ。なら皇子としてやる事は一つ。
「クリス!ダメっ!!」
クリスは崖にダイブした。
シュン。
一瞬だった。
考えるよりも先に体が動いた。
クリスが飛んで宙に浮いた瞬間、
全開で足を踏みしだき、一直線にクリスに向かって飛び込んだ。
クリスを両手で掴むと、そのまま空中で反転してアリスめがけて投げた。
「アイリ!受け止めろ!」
飛んでくるクリスを、アイリとエリアスが受け止める。
それを見てほっとして笑顔を向ける。
「レイーー!!」
アイリが叫ぶ。
☆☆☆
あ~あ。こりゃ落ちて死ぬな。まぁ~落ちるのは慣れてるからいいか。
3人が気がかりだが、白雪もいるし、うまく逃げてくれるのを祈るしかないか。
そう思いながら落ちていくと、ガクッ!と両脇を掴まれた。
ん?
「もう・・・・・無茶するんだから・・・・・。」
後ろをみると、白雪が両脇を掴んで飛んでいた。背には美しい白い羽が付いている。
こんな時なのに綺麗だなと思ってしまった。
「白雪。ありがとう。」
僕は頭を切り替える。
右腕だけのエリアスさんで7人相手は厳しいだろう。しかも、一人は副官と言っていた。かなりの実力者だろう。
僕たちは落ちたと思っているはず。
「白雪。そのまま迂回して僕をあのエッジと呼ばれている者の頭上から落としてくれ。白雪は残りの相手の時間を稼いでくれ。」
「分かった。」
☆☆☆
レイが動くのは早かった。一瞬だった。消えるように動いた彼はクリスを助け、自分を犠牲にした。
気づくと白雪も居なかった。
「お姉様・・・・・。」
「クリス。良かった。」
涙が止まらなかった。弟が助かった嬉しさよりも、友を失った悲しさでだ。
「ちっ!余計な事を。しかたない。俺がでるか。武器を。お前たちは逃げられない様に見張っておけ。」
「ハッ!」
仲間の一人が大きな槍をエッジに渡す。
エッジは普段は腰に差している剣を使っているが、本気の時は違った。
『槍のエッジ』と言われ、槍を扱わせたら世界でも上位の実力者だった。
「左腕が死んでてよかったよ。全開なら私とて敵わないからなぁ。」
たとえ右腕だけでも、エリアスは脅威なのだろう、少し距離をおいて構える。
エリアスはずっと黙っていた。
そして、エッジを見ると、
「私は初めてだよ、こんなに怒りが沸き上がったのは。もう。お前たちは決してゆるさない。」
そういうと、エリアスは構えてた剣をだらりと下げ、立ち尽くした。戦うという姿勢ではなかった。
「奥義。ゾーン。」
エリアスのまわりから冷たい空気が漂う。
「!!!お前たち!動くな!」
エッジが叫ぶ。
「はへっ?」
エッジの仲間がキョトンとした声で答えると同時に、3人の首が飛んでいた。
「チッ!!」
エリアスの最大奥義の一つ。ゾーン。
それは、狙った敵が少しでも動けば音速で切り込む技。相手は切られた事すら分からずに死んでいく。
人間技とは思えないこの技は、同じ戦場へでた仲間だったからこそ、見て戦慄を覚えたものだ。
汗が頬から伝わる。
ただ、奴は左腕が使えない。
それでこの技を使うのは身体に相当な負担をしているはず。
すると耐えられなかったのか、一人が動き、瞬間に首がまた飛んだ。
そこで、エリアスが地に膝をついた。
「グッ!」
やはり、もたなかったようだ。
「もらった!」
それを見逃さずにエッジは槍を素早く突く。
☆☆☆
エッジの上空まで行き、そのまま落ちる。
エリアスが膝をついている。
僕はエッジが槍を突く前に上空からそのままエッジめがけて切り下した。
ザンッ!
まさか上空から攻撃がくると思わなかったのだろう、瞬時に体を避けられたがそのまま左腕を深く切り裂いた。
「ぬぅぅぅ!貴様ぁ!」
僕は膝をついているエリアスとエッジの間に立つ。見ると白雪が残りの2人の相手をしている。
「形勢逆転かな。」
後ろでゆっくりとエリアスが立ち上がる。
実力が不明な者が崖から飛び降りて死に。負傷したエリアス一人なら王子、王女を連れ去る事も可能だった。
しかし、今は不意を突かれ、左腕を負傷してしまった。
この青年と少女。そしてエリアスはまだ生きている。どう考えても分が悪い。
「欲張りすぎたか・・・・・。まぁいい。目的は達成している。帰るぞ。小僧、貴様の顔は覚えたからな。」
すると、槍を地に向かって振り払った。
もの凄い土煙をあげ、なくなるとそこには3人と死体も含めて居なくなっていた。
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