第21話 未踏破ダンジョン3


ゆっくりと開けて入ると、そこは広いエントランスになっていた。


中央の天井には豪華なシャンデリア。両サイドには2階へと続く階段がある。



コッ。コッ。コッ。



1階の奥から、足音が聞こえる。


見ると、執事らしいスーツを着た男がゆっくりと歩いてくる。


「いらっしゃいませ。ようこそおいで下さいました。」


「あなたは・・・・・。」


魔物ではなさそうだ。


「私はロイージェと申します。ここの主の執事を任されております。」


「早速ございますが、主がお待ちでございます。どうぞこちらに。」



僕たちは顔を見合わせると執事の後をついていった。



3階まで上がり少し歩いて突き当りの大きな扉の前まで来た。


執事のロイージェが扉をノックする。


「お客様をお連れしました。」


「ん。入りなさい。」


美しい女性の声がする。


扉を開けるとそこはとても広い部屋だった。床には絨毯が敷き詰められていて、壁には絵画が飾られている。そして中央の一段高い床の奥には、国王が座るような大きな椅子が一つ。


そこに座っていたのは漆黒の長い髪と目をしたプロポーションの良い美しい女性がいた。


ロイージェは歩いていき女性の横に静かに立つ。


「ようこそお客人。」


「この城まで来た人間はあなた達が初めてよ。」


透き通った声でその女性は続ける。


「さて、用件は何でしょうか?」


エリアスが前に出て答える。


「ある物を探しに来ました。その事についてお聞きしたい。そして、魔物に襲われず、無事に私たちをこの山の麓まで行かせてほしい。」


「ふむ・・・・・。」


女性は考えている。


「私は静かにこの山で暮らしているの。それを土足で入ってきて大事な部下たちを殺してタダですむとでも思ってるの?」



やばい。



「ここまで来れた事には称賛しましょう。でも、部下を殺した代償は払ってもらいます。でもそうですねぇ。もしこの試練を達成する事が出来たなら、あなた達の望みを叶えましょう。それでどうです?」


「その試練とは?」


エリアスが訪ねる。


「このロイージェと1対1で戦って勝てたならお聞きしましょう。」


執事のロイージェが軽く会釈する。


エリアスさんは振り返り皆を見て話し始める。


「ここは私が行きましょう。レイ君。アイリ様をお願いしていいですか?」


「エリアス・・・・・。」


アイリが不安そうな顔で呟く。


「皆は下がっててください。」


僕たちが下がろうとすると、女性は


「あら、そちらは巻き込まれるかもしれないから、こちらへどうぞ。」


と女性の椅子の横に促す。


僕たちは女性の横に移動した。


執事のロイージェが横の女性に話しかける。


「主様、本気でいってもよろしいのでしょうか?」


「フフフ。ええ。そうしてちょうだい。」


笑みを浮かべながら答える。


すると、執事のロイージェはゆっくりと歩み始める。


エリアスと向かい合うと、体全体が膨張しはじめ、どんどん人ではない物へと変形していく。




現れたのは、とても異様な光景だった。


全身が約2m。緑色で、顔は目がなく口だけ。左右の腕は10本あり手は全て鎌の様な鋭利な物になっていた。


「それでは行かせていただきます。」


ロイージェだった魔物は静かに鎌を振り下ろした。




キィン!キィン!キィン!キィキィン!




エリアスは魔物の10本ある高速の斬撃をすべて防いでいた。


なんと右手だけで。


左腕はピクリとも動いてない。やはり負傷して動かないのだろう。


「フフフ。流石剣聖。すごいわねぇ。でも右腕だけでいつまでもつかしら。」


女性が見下ろしながら言う。


10本もの攻撃を右手だけで防いでいるのだ。しかも負傷している状態で。


更に反撃など出来るわけがなかった。


徐々にだが、エリアスが押されはじめていた。



「エリアス・・・・・私のせいで・・・・・。」



アイリが今にも泣きそうな声で呟く。



僕は心で叫んでいた。



僕は何をやっているんだ!けが人を戦わせるなんて! 




ゲームと分かっていても戦うのが怖かったのだ。


とてもじゃないが勝てないと決めつけていたからだろう。


そんな自分を恥じた。エリアスは右腕だけで戦っているのに。



魔物の攻撃を防ぎきれなくなってきたのか、少しずつ切られ始めている。


エリアスの顔が苦悶の表情になっている。右腕の動きも少し遅くなってきていた。



まずい。



僕はそこで大きな声をだした。



「ストーーーーップ!」



魔物の動きが止まる。



「・・・・・せっかくいい所なのに、どうしたの?」


女性が横を向き話しかける。


「エリアスさんは負けです。次は僕が戦います。1対1とは言いましたが交代してはいけないとは言ってないですよね。」


「あら。一本取られたわ。ん~、いいでしょう。でもこれが最後です。これであなたが負けたら代償は払ってもらいますよ。でも明らかにあの方より弱いあなたが勝てるとでも?」


「レイ・・・・・。」


アイリが不安そうな顔を向ける。


僕はアイリに笑顔を向け頭を撫でると、白雪が小声で話す。


「剣へ戻りましょうか?」


「いや。僕が倒れてしまったら、白雪は煙の魔法を使ってアイリだけでも連れて逃げるんだ。いいね。」


白雪はじっと僕の目を見て、黙って頷いた。




僕はゆっくりとエリアスの方へ向かっていく。


「すまないね。レイ君。君を戦わせてしまうなんてね。」


「僕こそすみません。最初から僕が行くべきでした。」


エリアスはすれ違いざまに小声で呟いた。


「参考になるか分からないけど、あの魔物のレベルは182だ。気を付けて。」


僕は緑色の魔物と相対した。


レベル182。僕とは60以上離れている。いくら速さがあっても、あの斬撃をエリアスさんみたいにうまく捌ききる事なんて、技術のない今の僕には到底できない。


ならば一つしか方法がない。僕がレベル1の時にやっていた戦法。


待ち姿勢で、自分の意思は考えず、スキルを使って自動でカウンターを発動し続けて戦う方法。



僕はゆっくりと剣を抜く。



「ふぅ~・・・・・。」




気合を入れろ!


集中!!!!!!



緑色の魔物を見て大きく叫んだ。




「かかってこいやぁ~!」




10本もの鎌の斬撃が僕に襲い掛かった。





☆☆☆





あれから、どの位経っただろう。5分?10分?




「すごい・・・・・。」



アイリは思わず声をだしていた。


エリアスは剣の天才だ。技、動き、剣筋どれをとっても華麗でいて、そして強い。


でも、目の前で戦っている青年のそれは違っていた。


技と呼べる物ではない。剣筋も見ていて我流でうまいとは言い難い。そして動きが異常だった。


斬撃が当たる寸前に避けて一刀。


これを繰り返しているのだ。


一本の斬撃なら出来るだろうが、これが多方面から来る高速の斬撃。しかも10本だ。ありえない。



隣で見ているエリアスが言う。



「・・・・・これは技ではないし、剣術でもない。そもそも人が出来る動きではありません。」



もの凄い体の動きで魔物の斬撃を避けながら攻撃している。


レベル差がどの位あったのだろう。


切っても切れない腕だと思っていたが、何度も繰り返し切り込んでいると、1本。また1本と切り落としていく。


「レイ!負けないで!」


私達の為に、無謀な戦いにでた青年に無意識に声がでていた。





☆☆☆




苦しい。




斜め右から来る斬撃を躱して一刀。と同時に左右から4本同時に来る斬撃を一歩下がりながら一刀。と同時に左から来る斬撃を皮一枚で避けながら一刀。


攻撃が止まらない。


でも、カウンターを止めたら僕の負けだ。


意地でも止めない。


しかし、あまりにも早い攻防で息が出来なかった。


やばい。苦しい。意識が飛ぶ。


でも止めるな・・・・・。体を動かせ・・・・・。




ロイージェの腕が飛んでいく。一本。また一本。


4,5回切られて腕が一本とんだ。


どんなに変則に。どんなに軌道を変えて攻撃しても避けられる。


しかも同時に一刀を入れられる。


なぜだ?


これだけのレベル差。普通の攻撃力ならまずダメージは通らない。


なぜなんだ?


この青年の動きは明らかにおかしかった。


ならばもっと速く鋭く攻撃するのみ!




それでも避けらた。




そして最後の一本になった腕を、今までにない速さで振り下ろす。



「ハァ!!」



青年が下を向いていて表情を見る事は出来ないが、その高速の振り下ろしを見ないでギリギリで躱しながらその腕めがけて一刀。


ザンッ!


10本全ての腕をこの青年は切り落とした。


「見事!!」


ロイージェは叫ぶと、胸からロケットパンチの様に槍が飛び出して青年に向かって突く。



シュン。



刺さったと思ったら、残像だった。


後ろで鞘に納めた剣の音がした。


ロイージェがすぐに後ろを向くと同時だった。




「居合・・・・・光。」





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