第20話 未踏破ダンジョン2


目の前には大きな獣が立ちふさがっていた。


「まじか・・・・・。」


甲冑を着た武士が変身しやがった。


「ガァァァァ!」


獣は大きな咆哮を叫ぶと、長い腕と爪を僕めがけて頭上から振り下ろした。


ギィィィィン!


「クッ!」


踏ん張り、それを剣で受け止める。すごい圧力だ。


カウンターではなく防いだのは注意を引き付け、隙を作る為だ。


すかさず白雪が背中に2本の刃を突き刺す。



「ギャ!」



腕を振ってそのまま離れた白雪に攻撃を入れる。が、距離を取った白雪には届かない。


いける。


背を向けている獣に切り込んでいった・・・・・。



「ふぅ~。」



獣を倒して剣を鞘に納める。


魔物が一匹だったのと、最初に腕を切り落としたのが良かった。


時間はかかったが、2人なら問題なく倒すことができた。


ここに来る途中に何体も武士が倒れていた。


そう考えると一度に複数の敵をアイリ達は倒したという事だ。しかも、変身する前に一太刀で。


戦って分かることだがとてもじゃないが今の僕にはまねができない。


すごい剣術だ。



「アイズ。」


ライカイ  レベル130



130!高レベルダンジョンのボスより強い。


冒険者の認定クラスで、Sは90前後。 SSは110前後。 最高のSSSでも130位だそうだ。


最初の魔物でこのレベルだ。こんなのが複数来たらたまったものじゃない。



魔物を調べ終えて立ち上がるその時だった。



ドドドドドンッッッッッ!!!



すごい爆発音が山頂付近でした。


見上げると真っ赤に火が昇っている。


何かあったのだろう。



「急ごう!」



僕たちは、周りを注意しながら山を登っていった。




☆☆☆




何が起こったのだろう。


魔物が真っ赤になったと思ったら光ってそこから覚えてない。


目を開けるとエリアスの腕の中にいた。



「えっ?」



ゆっくりと立ち上がるとそこは黒焦げになった平地が広がっていた。


大きなクレーターがいくつもある。


ここには緑が生い茂る木々があった。


何があったのかまだ分からず、茫然と立ちすくむ。



「クッ。」



「エリアス?・・・・・エリアス!」



エリアスを見ると、左腕を抑えてうずくまっている。


すぐ駆け寄り、左腕をみると腕が焦げ、真っ赤に血に染まっている。そてもじゃないが動きそうもない。


油断した。エリアスは思った。


まさか、自爆をする魔物がいるとは思わなかったのだ。


一、二体なら何とかなったが複数がまとめて自爆をしたので、瞬時にアイリを抱えて脱出する事しかできなかった。


他の4人の部下は・・・・・。跡形もなくなくなっていた。


皆、すまない。


心の中で呟き、すぐに現状を把握する。


4人の部下が倒れ、今はエリアスとアイリのみ。しかもエリアスはかなりの負傷をしていた。アイリを守る為に、自ら体を張ってかばったのだ。


防御壁を張ったが、複数の大爆発にはもたなかった。


体全体にダメージを受け、特に左腕は少しも動かない。


致命的なダメージを負ったのが分かる。左腕はちゃんと治療して二週間位はかかりそうだ。


この爆発でポーション等の道具は全て消失してしまった。


これはまずい。


少しでも回復する為に休憩が必要だった。でもこの山は強い魔物が多すぎる。


城庭までいけば魔物が減って休める所があるかもしれない。



「アイリ様。このままでは、生きて帰れません。もう城はすぐそこです。アイリ様を抱えて一気に駆け上がります。そこで休憩が出来る所を探しましょう。」


アイリは頷き、エリアスの背中に乗り、しっかりと首に腕を巻き付けた。


エリアスは動く右腕でエリアスを抱え、一気に城まで駆け上がった。




☆☆☆




急いで爆発の所まで走っていった。


幸いにも、先にアイリ達が進んでいる為か、道なりに居るほとんどの魔物が倒されていた。


木々の奥には魔物の蠢く音が聞こえているが、構わず走り抜ける。


そして最初の戦闘から一回も戦わず、運良く爆発跡まで辿り着いた。



「何だこれは。」



それは凄まじい爆発の後だった。


おそらく木々があったであろうそこは、何もなく、真っ黒に焼け焦げていた。そして何個ものクレーターがある。どうやったらこんな風になるのか。


平地になった所で立ちすくんでいると、横の木々から2体の魔物が現れた。


その魔物は顔が継ぎ接ぎだらけの太った3m程ある巨漢だった。


こちらにゆっくりと近づいてくる。


そして、僕たちが登ってきた所から最初に戦った武士より一回り大きい鎖鎌をもった赤い目の魔物が数体登ってきている。


まずい。ゆっくりと調べる暇がない。


レベルは分からないがまともに戦ったら苦戦するだろう。


とにかくまずは合流が先だ。生きている事を願って進むしかない。


横と下から来る魔物を引き付けて、白雪の煙で視界をなくして一気に城まで駆け上がろう。


城はもう見えている。すぐそこだ。


徐々に双方の距離がつまっていく。すると、継ぎ接ぎだらけの顔をした巨漢の2体が徐々に体が赤くなっていった。



? ハッと気づく。



これは!



シュン。



白雪の手を取り、速さを全開にして駆け上がった。そしてしばらく登ってから木々の間へ滑り込む。


ドドンッ!


凄まじい爆風と共に魔物が爆発したのだ。


「白雪。大丈夫?」


「うん・・・・・。」



ダメージは二人ともなかった。


ふぅ~危なかった。


もうちょっと遅かったらタダではすまなかっただろう。


見ると、下から登ってきた魔物はくらったのか、跡形もなくなっていた。


僕たちは、急いで城まで駆け上がっていった。




城まで着くと、大きな城門は開かれていた。


警戒をしながらゆっくり中へ入っていくと、そこは立派な広い城庭だった。中央には大きな噴水があり、整備された芝や木、所々に見た事のない美しい花が活けられている。



噴水に向かって歩いていくと聞き覚えのある声がした。




「えっ?・・・・・レイ?」


声のした方を向くと、噴水の近くにある大きな木の下に寄りかかって座っているエリアスとアイリがいた。


アイリは驚いた声をだして近づいてくる。


「良かった。無事だったんだね。未踏破ダンジョンにアイリ達が向かったと聞いたから心配して来ちゃたよ。」


「・・・・・来ちゃったじゃないわよ。・・・・・バカ。」


僕の胸に頭を置いて泣いている。


アイリの頭を撫でながらエリアスの方を見る。


えっ?


「エリアスさん!大丈夫ですか?」


急いでエリアスの元へ駆け寄る。


見ると、爆発をモロに受けたのか、鎧は剥がれ体全体を負傷していた。特にひどいのは左腕だ。真っ赤に血に染まり、ほとんど焦げている。


「何でこんな事に・・・・・あの魔物ですか?」


エリアスが苦痛の顔で答える。


「ああ。かなりの数に囲まれてね。まさか自爆するとは思わなかったよ。」


「そうですか・・・・・。」


当然だ。


まさか自爆する魔物が居るなんて思わないだろう。僕もそうだ。たまたまアイリ達が受けた爆発を見たから対処できただけだ。


僕はすぐに、回復用のハイポーションを取り出し渡した。左腕は、直接ぶっかけると、血が止まり、火傷も徐々に治ってくる。


体全体はハイポーションを飲んで回復したようだ。


左腕は血は止まったが、ダメージが大きすぎたのだろう、それ以上は治らなかった。ちゃんとした医者に見せ治療しないと動かすのは厳しいとエリアスは言った。


「レイ君。そして白雪さん。ほんとに助かったよ。ありがとう。」


「レイ。白雪ちゃん。ありがとう。」


エリアスとアイリが改めてお礼を言う。



「いえ。とにかくまずはここから脱出する事を考えましょう。」



状況は極めて厳しかった。


エリアスが完全に回復をしていたら問題なく引き返す事も出来ただろうが、負傷して戦えそうにない。しかも、来た道を戻るとなると、数体を相手にしなければならない。


レベル130以上の魔物をだ。それはかなり厳しい。


考えていると、エリアスから提案があった。


「ここは、下って複数の魔物を相手にするよりは、城の中に入って主を倒した方がいいだろう。」


・・・・・たしかに、中はどうなっているか分からないが、数は少ないだろう。


ボスを倒せば山に居る魔物も消えるか居なくなるかもしれない。それに賭けた方がよさそうだ。


「たしかにそうですね。それでは少し休憩してから行きましょうか。」


「いや。すぐに準備をして行った方がよさそうだ。ここに入ってからずっと視線を感じててね。おそらく監視されている。」


ずっと違和感があったが、それか。気配を感じるというやつだろう。すごいな。エリアスさんは。



皆、回復や体力のハイポーションを飲み城の玄関へと向かった。







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