第19話 未踏破ダンジョン


「あぁぁぁ。頭痛い。」



昼下がり。



町中の最近よく通うお気に入りのカフェテラスで昼食をとりながら二日酔いに苦しんでいた。


「飲みすぎるからだよ。酒は飲んでも飲まれるな。じゃなかったの?」



ぐうの音も出ません。



でも白雪も同じ位飲んでたよね?何でそんなに元気なの?


敗北感を感じながら、冷たい飲み物を飲んで落ち着いている。


今日は何もしたくないや。


まぁ~こんな日があってもいいのかな。



ボ~と人の行きかう姿を眺めていると、一人の美人な女性が僕を見つけて走ってくる。



シェリーさんだ。



元気そうだ。白雪といい、何で二日酔いにならないのだろうか。


「こんにちはシェリーさん。昨日はお世話様でした。」


シェリーさんは僕たちのテーブルの前までくると、息を整えてから話始める。


「こんにちは。レイさん。昨日はありがとうございました。ちょっと急な相談事がありまして探してました。」



僕は一緒のテーブルに促すと、飲み物を頼んで話を聞いた。



「しばらく前から見かけるようになった、赤毛の女の子と一緒にいるパーティをご存じでしょうか。」



アイリ達だ。



「そのパーティが未踏破ダンジョンへ入っていったと情報がはいりまして。」


「えっ?」




未踏破ダンジョン。  



推奨レベル 未定。 



世界で数少ないダンジョンだ。



誰も攻略できず何階層まであるのか。どんな魔物がでるのか。それさえも分からない。


冒険者最高レベルのパーティでも入口の魔物と戦い諦めたという。


そんなダンジョン。



この古の国ルーンにも1つあった。



その名も『名もなき孤高の城』



最も古く昔からあり、ダンジョン調査員がこの世界でおそらく一番の高難易度といわしめたダンジョン。


そんな所へアイリ達は行ったのだ。


いくらエリアスさん達が強いといっても、アイリを守りながらの未踏破ダンジョンは危険だ。


・・・・・どうする?流石に未踏破ダンジョンへ行く予定は僕の頭にはなかった。


当面の目標は高レベルダンジョンだったからだ。


でもアイリ達が心配だ。


昨日の朝に会ったから急げば追いつくだろう。入口で諦めて引き返していればいいんだけど。 


「シェリーさん。僕たちはそのパーティを追いかけます。」


「!」


「ありがとうございます。他にも話をしましたが、流石に引き受けてくれる冒険者は居なくて・・・・・。半分は諦めていました。」



それはそうだ。そんな所へ行こうとするのは自業自得である。わざわざ危険をおかしてまで助けに行くのはあまりにもリスクが高かった。


でも、僕はアイリを友達と思っている。


未踏破ダンジョンと分かってて行くという事は、エリアスさんは問題ないとふんでいるのだろう。


それでも何かあるか分からない。


何事もなければそれでいいが、とにかく行こう。


僕たちはすぐに準備を整えて、町を後にした。




☆☆☆




山をいつくか超え、町から歩いて2日ほどの距離に、未踏破ダンジョン。


『名もなき孤高の城』はあった。


このダンジョンは特殊である。


木々が生い茂る山の頂上にその城はある。


そして、その山自体がダンジョンになっているのだ。


山の裾野にある鳥居の様な門構え。


そこを過ぎると城を守る魔物達が襲ってくる。



その鳥居の前に、アイリ達は居た。


「いいですか、アイリ様。」


エリアスは声をかける。


「ここは私が居ても城までたどり着けるかは分かりません。危険と判断したら即座に戻ります。いいですね?」


「分かったわ。」


色々と調べた結果、このダンジョンには世界でまだ発見されてないアイテムや薬草、素材などがある事が分かった。


この国が出来る前からずっとあるといわれているダンジョンだ。


そこに望みをかけた。


私が居たら足手まといなのは分かっていたがじっと待っているなんて出来ない。


何とかお母様を救う薬を手に入れなければ。


固い決意でアイリは返事をし、エリアス達と一緒に鳥居をくぐった。




☆☆☆




アイリは久しぶりに見る、エリアスの戦いに見入っていた。


エリアス=ノート。


アルク帝国5大将軍の一人。そして『剣聖』と言われている男。



15歳から、毎年行われる世界中から集まる最強を競う大会で7連覇し、強すぎて戦う相手がいないとまで言われれているその男の戦い方はとても美しかった。


見た瞬間に死を感じる程の魔物を、ほとんど避けずに簡単に切り倒していく。


相手が動く前には倒しているのだ。おそらく魔物達は倒された事すら気づかないだろう。


立ち回り。予測。剣圧。スピード。技。


どれをとっても素晴らしかった。


ひとつの芸術の域に達していると私は思った。



難なく魔物達を倒し、周りに使えるアイテムや素材がないか探しながら進んでいく。


「とても最高難度のダンジョンに居るとは思えないわね。」


「ですね。エリアス将軍が別次元なんですよ。私達だけで行ったら入口で死んでますね。」


部下のマイクがエリアスを尊敬の眼差しでみながら話す。


「そうね。」



私たちは順調に進んでいた。


エリアスが魔物を倒しながら登り、城が見えてきた時だった。


その魔物達は3m程あり、顔は継ぎ接ぎだらけ。体はかなり太っていた。


いつのまにか現れ、私たちの周りを囲んでゆっくりと歩いてきている。



それを見て、エリアスが技をだす構えをした時だった。



その魔物達は徐々に体全体が赤く染まっていった。



「!!!まずい!」



エリアスが叫んだ瞬間。その魔物達は大爆発した。




☆☆☆




僕たちは鳥居の前にいた。


ほとんど休まずに来たので、結構追いついているはずだ。



ここが未踏破ダンジョン。『名もなき孤高の城』



入口には誰もいなかった。おそらく先へ進んだのだろう。


慎重に鳥居をくぐり、城を目指した。



登り始めると、所々に武士の甲冑を着た魔物の死体が倒れている。


アイリ達が倒したのだろう。


見ると全て一太刀だ。


エリアスさんが戦ったのだろうか。


よほどの実力差がないとここまで一方的には倒せない。


すごいな。



ガジャン。ガジャン。



木々の暗がりから一体の赤い目をした武士が現れた。


腰に掛けた日本刀を抜く。



「来るっ!」



踏み込んだと思ったら、一直線に僕の所へ。速いっ!


そのまま切り込んでくる・・・・・カウンター。



ザシュ!



ギリギリで避けて一刀。鎧を切ったが中まで届いてダメージを与えたかは疑問だ。


武士は構わず返す刀で切り込んでくる。


キィィン!


刀を防ぎ、距離を取る。


今までは吹き飛ばされていたが大丈夫だ。レベルが100以上になって攻撃力だけじゃなく全体的に能力が上がっている。


これなら戦える。


今度はこちらから仕掛ける。


白雪が背後に忍び込み切りかかる。



キィィン!



それを武士が振り向きざま防ぐが、それと同時に僕は速さで一瞬でつめる。 



シュン。



ザンッ!



武士の腕が飛ぶ。


武士はすぐに横に飛び、距離を取った。


何か仕掛けてくるのか?



「グググググ・・・・・。ガァァァァ!」



武士の鎧が膨張してはじけ。中にいた生物がどんどん大きくなっていく。



片方しかない腕は異様に長く、その手は鋭く長い爪、毛で覆われている目は赤い。



そこに現れたのは、体長4m程の2本足で立つ大きな獣だった。







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