第16話 帰らずの洞窟3


下りるとそこは薄暗くとても大きな空洞だった。


広さでいうと、う~ん競技場で200mトラック位の大きさだろうか。


とにかく広い。


中央まで歩くと、隅っこの方に大蜘蛛の死体が放置されてあった。形はほとんどなく、足が数本転がっているだけだ。


そしてそこには人間らしい骸骨も大量に転がっていた。


何かがいるのは間違いないだろう。


するとどこからか声が聞こえてきた。


「ほぅ。久しぶりの客人だ。しかも言葉が通じるときた。」


野太い低い声が響く。



どこに居る?見渡すが見当たらない。



「我の前に現れた人間はいつ振りか・・・・・。数百年も前になるな。だいたいは途中で家来に殺されて献上されるだけだが・・・・。」


声だけが響いている。


「昔、唯一生きた獲物が現れたがほとんど瀕死で面白みがなかったわ。フフフ。うまかったがな。」


「お前たちはほとんど無傷と見た。少しは楽しませてくれるのだろうな。」


声の場所が分かった。上だ!


僕は高い天井を見た。すると、天井に張り付いているおよそ10m近くはあろうか、巨大なムカデがそこには居た。


足は人間ほどの大きさで30本ほどあり、足と足の間には尖った剣の様な物が生えている。そして尻尾?らしい所にはクワガタの様な鋭利な鎌が2本生えている。


それが天井から見下ろしている。


異様な光景だった。



でかすぎる!!



すかさず、白雪が魔法を唱えた。


「防ぎの精。」

僕と白雪の所に白い球が当たると体の周りが光った。


防御魔法をかけてくれたのか。



そのムカデが落下してきた。落ちるとズシン!と大きな音が響き地面が揺れる。



「さぁ!久しぶりの生きた獲物だ。ゆっくりと味わう事にしようか!」


僕の所へ凄まじい勢いで突っ込んでくる。


「白雪!一旦離れて!」


白雪を離させる。


まずはどんな攻撃パターンがあるのか見極める!


大きな口と牙が襲ってくる。すかさず、横へ避ける。が、すぐ巨大な足が迫ってくる。それを飛んで避けるが数本通り過ぎた後に間にある剣の様な物が切りかかってきた。


操作できるのか!


キィィン!


剣で流す。さらに高く跳ね上がった所へ尻尾にある鎌が高速で攻撃してくる。


やばい!


キィィン!


それを剣で受けるが跳ね飛ばされる。


「うおっ!」


着地して、ライフを見ると5%程減っている。


良かった。この防具のおかげと白雪の魔法の効果もあり、一気に減ることはなかった。


しかしこのボスは強いぞ。


大きくて長く、それでいてどこでも攻撃が可能ときている。


まずは、足を削って機動力を削ぐか、尻尾を切り取って攻撃力を削ぐかしないと隙を作れないな。


「ほぉ。良く避けた。だが長く続くかな?」


すぐにまた突っ込んでくる。


僕は柄を掴んで構え、引き付けて発動する。


カウンター。


口の攻撃をギリギリで躱してそのまま足に切りかかる。



ザンッ!ザンッ!



左から上への一刀。そのまま返す刀で一刀し、横へ躱す。


一本の足と剣の様な物が宙に飛ぶ。



「ヌゥ!」



すると白雪が空中から胴めがけて2本の剣を突き刺す。



ザシュ!


刺して後ろからくる尻尾を避けて離れる。



ヨシ!攻撃は通じている。少しづつ削っていく!



「やってくれる!」


大ムカデは叫びながら、さらに攻撃を繰り出してくる。




☆☆☆




「ふぅ~。」


どの位時間が経ったろう。


今は大ムカデと向き合っていた。


僕たちのライフは半分位になっていた。ただ、大ムカデの3分の1位は足や剣の様な物を切り取っていた。



やばいな。



相手は大きいので、避ける時にも結構な体力を使っていた。しかも動きが早いため、すぐ攻撃が来る。ポーションで回復したいが、そんな時間もないのだ。このままだと、避け切れなくなる。


「我が苦戦するとは・・・・・。ここまでとは思わなんだ。しかも、足を切られた事には我慢ならん。苦痛を味わってから食べてやろう!」


大ムカデは反転すると壁伝いに天井へ移動した。


するとこちらを向き、口から何かエネルギーが集まってくる。


何かするつもりだ。



「来る!」



それはビームのような熱線だった。


ビームが地面に当たったかと思うとそのまま僕めがけてスライドしてくる。それを瞬時に避けるがその熱波が僕を襲う。



「チッ!」



ものすごい威力だ。床が溶けている。


それが今度は白雪へと向かう。


それを白雪が避けたと思うと、なんと同時に大ムカデは天井から落ちて避けた所へ尻尾で攻撃をしかけてきた。


危ない!避け切れない!



シュン。



僕は速さMAXで白雪の所へ移動した。


しかしそれでも間に合わない。


前に出る前に当たってしまうのでそのままの勢いで右手で突き飛ばした。



「なっ!」



白雪が驚いた顔で突き飛ばされる。


横をみると目の前には尻尾の鎌が切り込んでくる。



ギギギギィン!



間一髪。たまたま左手に持っていた剣をそのまま鎌と体の間に入れたが、焼け石に水。そのまま激しく吹き飛ばされ、壁に激突する。


「グゥ!」


モロにくらってしまった。


白雪が呪文を唱える。


「見えぬ煙の精!」


すると数十の白い球が飛び破裂する。


一気に煙が洞窟全体を覆う。


何も見えなくなった。


「時間稼ぎとは無駄な事を!逃がさぬぞ!ハハハハハ!」


真っ白な洞窟の中に声だけが響く。




白雪が僕をかかえ隅に移動した。


ライフを確認する。今の攻撃で、ライフと体力が残りあと10%だ。ポーションを使ってもすぐに回復するわけではない。徐々に時間をかけて回復するのだ。


時間をかせげても、10%回復できるかどうか。


「何で私を助けたんですか!」


白雪が泣きそうな顔で話しかけてくる。


「私は死にません!死にそうになったら自動的に剣に戻ります。そしてしばらくすれば戻ってこれます!なんで・・・・・。」


「何言ってるの?切られたり、殴られたりしたら僕と同じで痛いでしょ?」


僕は続ける。


「死ぬか死なないかは関係ないんだよ。僕は仲間を守りたいし、出来るだけ君に傷ついてほしくはないんだ。」


「マスター・・・・・。」


しかし、この状況はまずい。


このままだと時間の問題だ。二人とも倒されてしまうだろう。


いちかばちかの勝負にでるしかない。


ポーションを飲みながら話しかける。


「白雪。数分でいい。あの大ムカデの動きを止められるか?」


「・・・・・分かりました。必ず止めます。」


真剣な表情でうなずく。



おそらく大ムカデは、僕たちを逃がさない為に、6階層へ続く通路の入り口辺りを狙っているだろう。



僕はゆっくりと起き上がり、真っ白な空洞の中を中央まで歩く。



そして構えはじめる。



煙が晴れていく。


大ムカデはやはり入口に居た。


中央の僕を見かけるとニヤリと多分笑ったのだろう。動こうとする。そこに。



ザシュ!



白雪が2本の剣を大ムカデの胴に突き刺す。



「しつこい小娘だ!」


尻尾の鎌を横から薙ぎ払ってくる。


それをジャンプしながら避け着地する。すぐ次の鎌が返しで飛んでくる。


白雪の足が淡く光っていく。攻撃を横目で見ながら呟く。


「奥義。カマイタチ。」



消えた。



と思ったら全然別の場所で切り付けている。胴へ。頭へ。尻尾へ。顔へ。足へ。



「ぬぅぅぅぅぅ!小娘ぇぇぇ!」



もの凄い速さだ。目が追いつかない。徐々に大ムカデの体を削っていく。


しかし、明らかなオーバースピード。このままだと体がもたない。


白雪の顔が苦悶の表情になっていく。


「白雪!戻って!!」


僕は構えながら叫ぶ。



シュン。



数本足を切った所で僕の後ろへ現れ、荒い息をしながら膝をつく。


そして、白雪が唱えた。


「帰剣。」


すると白雪が白く光りそのまま僕の剣へと吸い込まれた。


「ガァァァァ!よくも!貴様らぁ~!」


全身傷だらけになった大ムカデは我を忘れて突進してきた。


「十分時間を稼いでくれてありがとう。白雪。」


白雪が剣へ戻った事によって、僕の剣補正は100%だ。



最下層へ来る前に、僕はレベルがちょうど100になっていた。同時に一つ。技を覚えたのだ。それをここで試すしか勝機はなかった。それでダメなら何とか逃げるしかない。


この技をだすには、まずは集中。


「ふぅぅぅぅぅぅ。」


息を大きく吐き、目を閉じる。


そして片足を少し前へ。右手を柄握るか握らないかの位置へ。


全ての力を、右手と足へ。


大ムカデが突進してくる。





集中!!!




大ムカデが口を開け3m近くまで来た時だった。



「居合。光。」



踏み込んだ足から舞った土煙とともに右手から一気に放たれた長い刃は、一瞬に横から大ムカデの口へ刺さった。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



そのまま一気にそして一直線に尻尾まで切り込んだ。



一振りだ。たった一振りである。



一筋の光が走ったかの様にみえた。




ズズン。




半分にスライスされた大ムカデは大きな音を立てて、崩れ落ちた。

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