第13話 期待
青年は、レイ=フォックスと言った。
来た時には、ひよっこで、何も知らない新人だった。
薬屋をやっているのは、そういった新人が死んでほしくないからだ。色々とアドバイスをして、この国のダンジョンはレベルが高いから、やめて他の国に行くように勧めていた。
同じ事を言ったが、この青年には伝わらなかった。
アドバイスは真剣に聞いていたが、他の国に行くという事は考えていない感じだった。でも、中レベルダンジョンの魔物と一体遭遇すれば、その強さを見て逃げ帰るだろうと思い、諦めて見送ったのだ。
攻略するとは思いもしなかった。
しかし、この青年は攻略した。レベル1でだ。400年ちょっと生きているがこんな冒険者は見たことがなかった。
そして、不思議な雰囲気をもっている青年でもあった。話をしていて、年の差は関係なく、とても気が合うのだ。あの200年前に見送った冒険者たちよりも話をしていて居心地が良かった。
ダンジョンから無事帰還した時は、もしかしたらこの青年だったら・・・・・。と思わずにはいられなかった。
「まぁ~辞めたのは、かいつまんで言うとそんな所だ。だからもう作るのはやめた。」
とジョイルは過去冒険者に武具を作り、それが役にたたず、救う事が出来なかった事を言う。
「そうなんだ。でもジョイルさんって今何歳なの?っていうか人間なの?」
「うるせぇ!人間だ!まぁ~理由は話せんがな!」
何でそんなに長生きなんだかは置いといて、過去の話を聞いてちょっと腹が立った。
鍛冶師をやめた理由が納得いかないからだ。
「ジョイルさん。仲が良かったパーティが、信じて託した武具で死んでしまった事は確かに悲しいと思う。でも、そのパーティは攻略できなくて無念だったろうけど武具のせいとは少しも思わなかったんじゃないかなって思う。だって、自分達は、今考えうる最高の装備で挑んで倒れてしまったんだから。」
「・・・・・。」
「ジョイルさんも元はパーティを組んで冒険をしてたんでしょ?少しでもその立場を考えればもう作らないって選択肢はなかったんじゃないかな。」
「・・・・・。」
「まぁ~僕が求めている防具が作れないんじゃ頼んでもしょうがないけど。」
いたずらっぽく言ってみた。
「なんだと!俺様に作れない武具はないわ!」
「じゃ作ってよ。」
ずかずかと平気で物を言ってくる。ほんとにおもしろい青年だ。
「ちなみに小僧。次はどこを攻略するつもりだ。」
聞くとその青年は迷いなく答える。
「高レベルダンジョン。帰らずの洞窟。」
高レベルダンジョン。
7階層、平均レベル70。これが世界基準だ。
しかし、この国ルーンにある高レベルダンジョンは違う。
その名は『帰らずの洞窟』。
その名の通り、このダンジョンは約340年間攻略した者はいなかった。
幾度となく屈強な冒険者達が挑んだが、全て帰ってくる事はなかった。最近は挑む事すらなくなっていたダンジョンだった。
そんなダンジョンへ行くという。この青年は。
さりげなく、魔法を使いレベルをみると59だ。
まだ早い。
死なせたくない。
久しぶりに思った。
レベル1で50前後のダンジョンへ行ってソロで攻略したのだ。期待する気持ちもあった。
「・・・・・。分かった。まずは今ある防具を貸そう。作るか作らないかは、今度のダンジョンを攻略したら返事をしよう。それでいいか?」
「ホントに?分かった!でも、欲しい防具あるかなぁ~。」
「なんだと小僧!望む者はなんでも揃ってるわ!」
そう言って、僕たちを連れて店の奥へ行き隠し扉を通って、地下へと案内される。
行くと、30帖位の大きな部屋の中央に鍛冶場があり、その壁の周りに所狭しと武器や防具が並べられていた。表向きは薬屋だけど、腕は鈍ってなさそうだ。
「で?どんな防具が欲しいんだ?」
「速さ重視で。重くなくてそこそこ防御力があると助かる。でも、センスも大事だからね。」
「あ~そうかい。まぁ~坊主の希望だったらこの防具だろう。」
と言ってジョイルが探して僕に見せた。
その服はコートで見た目は結構カッコいい。
いいね。取って掲げると、
防御力+70 速さ+30
ほう。今着ている服は防御力が1だが、この防具、普通のコートに見えて+70はすごい。
「そして嬢ちゃんにはこれだ。」
と白雪にハーフコートを渡す。
リーネ 防御力+90 速さ+20 魔力+100
これはいい防具だ。しかも名付き。名付きはレア物である。
さらにこのおやじ。ちゃんと精霊魔法が使えるのを見抜いている所はすごい。
おそらくステータスが分かっているのだろう。う~ん。謎な人だ。分かるという事は僕たちよりレベルが上なのだろう。
「その2つを貸そう。どうだ?」
「いいの?ここまでいい防具だとは思わなかったから。」
流石にこんなにいいと遠慮してしまう。
「なに。貸すだけだ。ちゃんと戻ってきたら返せよ。」
ニヤリと笑う。
「分かった。ありがとう!」
「やばいと思ったら引き返してくるんだぞ。あと、冒険ついでに一つ俺からも頼みがあるんだが。」
「なに?」
「・・・・・もし、探索中に白銀のペンダントを見つけたら拾ってきてほしい。」
白銀のペンダントはS級冒険者の証である。
「分かった。ペンダントだね。」
「ああ。ついででいい。頼んだ。」
補充したポーションと一緒に防具を受け取って、店を後にした。
その後は、冒険者協会は行き、シェリーさんへ次の冒険へ行く事を伝えてから魔術屋に向かっていた。
まだ早いとめちゃくちゃシェリーさんに反対されたのは余談だ。
まぁ~最後は諦めて無理をしない事を約束させられた。ほんと、シェリーさんといいジョイルさんといい良い人に恵まれている。
出会いに感謝である。
魔術屋に向かっているのは、ジョイルさんの事を教えてくれたお婆さんにお礼が言いたかったからだ。
そして魔術屋に着くと、そこには何もなかった。
☆☆☆
この世界のダンジョンは攻略するとまた同じ魔物がリポップするわけではなかった。
だから、攻略して倒した魔物はもう二度と現れる事はないのだ。
そして魔物が居なくなったダンジョンは数週間後にまた新しい魔物が移り住む。リアルを追求しようとしているからだろう。
だからこそ、ダンジョンごとに価値があった。皆ドロップする素材やアイテムが違うからだ。
そして、僕は今、高レベルダンジョン『帰らずの洞窟』の前に立っている。
全て準備を整え、3日間休んだ後に白雪と共に旅立った。
結局、お婆さんには会うことが出来なかった。家自体がなかったのだ。初めからここに何もなかったかのように。
辺りの人に聞いてみたが皆知っている人はいなかった。
何だったんだろうか?白雪に聞くとちゃんと覚えていた。という事は存在していたんだ。
いつかまた会えるだろうか。その時にはちゃんとお礼を言おう。
山々の合間の森にあるそのダンジョンは、朝日に照らされてとても綺麗に見えた。
ここが高レベルダンジョンとはとても思えない雰囲気である。
「さて、行こうか。」
「はい。マスター。」
今回は、レベル上げもそうだが、ジョイルさんとの約束もある。ペンダントも探しておきたい。
そして一番は白雪と2人での冒険である。
ソロとは違う戦い方が出来る。
僕は期待を胸にワクワクしながら、白雪と共に洞窟に入っていった。
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