第12話 薬屋のおやじ
白雪と一緒に宿屋の食堂で朝食を食べている。
はぁ~。昨日は結局買い物が全然できなかった。
アイリのせいで午後がつぶれてしまったおかげだ。
今日は予定通り装備を整えなければ。
まずは防具だ。
これから冒険を一緒にする白雪のは高くてもいいので防御力の高い、いい防具をあげたい。
朝食を食べ終え、早速この町に3店舗ある防具屋へと行ってみることにした。
「う~ん。これといって良さそうなのがないなぁ~。」
町の中央にある噴水広場でベンチに座って悩んでいる。
色々とあったが、求めている物がなかった。僕は速さと身軽さを重視した防具が欲しかったが、あったのは防御力が高い鎧とかチェーンメイルなどゴツイ物しかなかった。
白雪はステータスで精霊魔法が使えるとあったので、魔法使い系の服がいいのかと思ったが、白雪は出来たら魔力系の服もいいが僕と同じで速さを重視した防具がいいとの事だった。
冒険者協会で見かけるパーティは、戦闘系は鎧が。魔法系は魔力があがりそうなフードが多かったな。盗賊系の防具も見かけたが、あれだとあまり防御力はなさそうだしなぁ。
さて困った。いきなりつまずいてしまった。
「マスター。飲み物を買ってきました!」
すると、白雪が笑顔で飲み物をもってきた。
「あぁ。ありがとう。」
僕は笑顔で受け取る。
パーティとなったので今回から、全て報酬は折半にしているのだ。まだ、白雪は冒険に出てないからと拒んだが、押し通した。
実際は最初から剣で一緒に戦っていたんだからね。
せっかく、精霊人になったのだ。これからは知らない土地や町に行ったときに自由に好きな物を買ったり食べたり、この世界を楽しんでほしかった。
「うん。うまい。」
これはフルーツジュースなのだろうか。果物の味がして美味しい。
ベンチでジュースを飲んでいると、知っている人を見かけた。
魔術店のおばあちゃんだ。
この町では色々と知ってそうだ。防具の情報を知ってるかもしれない。声を掛けたいが・・・・・。どうしよう。名前を知らないので、おばあちゃんというのは失礼だろう。
「あの!すみません!」
大声をだして呼んでみた。
「そんな大声をださなくても分かるさね。」
・・・・・失敗した。
「すみません。あの、飲み物があるので、一緒に少しベンチで座って休みませんか?」
すぐ僕が白雪が買ったのと同じ飲み物を買ってきてベンチに座った老婆に渡す。
「あれ。ありがとねぇ。じゃ頂くとしようかね。」
美味しそうに飲んで一息ついている。
「すみません。いきなり呼び止めてしまって。え~と。」
「あぁ。わたしゃ名前はとうに忘れたよ。気をつかわんでもええよ。そうさね、お婆で構わんよ。」
んなわけあるか。と思ったが、名前を言いたくないのだろう。
「そうですか。それじゃ~お婆さん。できたら相談にのって欲しい事がありまして。」
「そうさね。美味しい飲み物をもらったからね。その位は知ってれば答えたげるよ。」
「ありがとうございます。僕たち防具を探しているんですが、ここの防具屋には求めている防具がなくて。お婆さんなら他に防具を売っている店を知っているかと思いまして。」
速さを重視した防具を探している事を話した。
「ふむ・・・・・。知っているといえば知っている。ただし、あそこのおやじはうるさくて頑固だからねぇ。まぁ~お前さんなら何とかなるかもねぇ。」
「ほんとですか!ありがとうございます!それで場所はどこで、どなたでしょうか?」
「あ~。冒険者なら行ったことはあるんじゃないかい?薬屋のおやじだよ。」
「・・・・・えっ?」
お婆さんにお礼をいい、薬屋に向かっている。
何で薬屋が防具を売っているのかは分からないが、せっかく教えてもらったのだ。どの道、ポーションの補充をする為に行く予定だったので、買うついでに聞いてみよう。
冒険をはじめたときに、この世界の分からない事をよく教えてくれた気のいいおやじだ。人との付き合いで差はあるにしろ、絶対に話していて合う合わないはあるのだ。薬屋のおやじはとてもよく合う人だった。
薬屋に着いて、玄関の扉をあけた。
「ジョイルさん~!買いに来たよ!」
「うるせー!でかい声をだすな!ちゃんと聞こえるわ!・・・・・なんだ、今うわさの坊主じゃね~か!」
「何だよ。うわさのって。」
「知らないのか?坊主は今有名人だぞ。レベル1。しかもソロで中レベルダンジョンを2つも攻略した冒険者ってな。どこに行っても話題にあがっているぞ。」
「げっ!まじですか?」
やばい。知らなかった。あまり目立ちたくないんだが。
「まぁ~いいんじゃねえか?気にしなけりゃいいことだ。」
「そうりゃそうだけど・・・・・。」
たしかに。気にしてもしょうがない。
「んで?今日は何を買うんだ?」
「この間のダンジョンで体力回復のポーションを多く使ってしまって。その補充と、ライフ系のポーションでもっと効き目が高いのが欲しいんだけど。」
「おうおう。んじゃこれだな。」
ジョイルは、体力、ライフ系のハイポーションを並べる。
おやじはジョイルという名前だ。
何というかあまり裏表のない、はっきりと物を言う江戸っ子タイプの人だ。僕としてはとても好きなタイプだった。並べられたポーションを買って、少し話をしていると
「おい。そういえば、坊主の隣にいる子はなんだ?」
ずっと気になってたのか、話を遮って隣にいる白雪をみて話しかける。
「あっ紹介が遅れたね。僕の仲間になったんだ。」
「白雪といいます。よろしくです。」
「おう!嬢ちゃん。よろしくだ!そうか、仲間をいれたか!いい事だ!」
ジョイルは心から喜んでいる様だった。シェリーさんと同じでやっぱり心配だったのだろう。
「そこでなんだけど。他にも話があってきたんだ。」
ジョイルが昔は特別な鍛冶師で、武具を扱っていたのを知った事を話した。
お婆さんから教えてもらった事は話さないでほしいと言われたので、情報源がお婆さんなのは伏せた。よほど驚いたのだろう。しばらく固まっていたが、最後は不思議そうな顔をして僕に訪ねてくる。
「坊主。どこからそんな話を聞いたんだ?知っている人間がいるとは思えないんだが・・・・・。エルフか?でもこの国には居ないしなぁ。」
「で?ジョイルさん。本当の所はどうなの?」
☆☆☆
今から200年ほど前だった。
このルーンの国には世界一と言われた武器や防具を扱っている店があった。
その鍛冶師は、昔、最強と呼ばれたパーティの一人だったのだ。
その腕から作り出される武器や防具は魔物を圧倒し、鍛冶の技術が高いドワーフでさえ同じ物は作れなかった。
評判が評判を呼び、世界各地から武官や冒険者が殺到した。
しかし、その鍛冶師は数少ない自分の認めた者のみにしか売る事はなかった。
何組もの人達が訪ねてきたが、そのほとんどを断ってきた。
そして。その数少ない人達の中にそのパーティはいた。
ランクはS級。最近頭角を現してきた6人パーティで、とても気の合う者達だった。
戦士、剣士、モンク、盗賊、魔術師、回復師。バランスもよく構成されていて、同レベルの魔物ならまず負けないだろうと思わせる戦いをしていた。
聞くと、レベルの高いこの国のダンジョンを全て攻略してみたいと楽しそうに語っていた。
このパーティとは、よく冒険後に飲みに誘われていたのですっかり仲良くなっていたのだ。
そんなある日の事だった。
どうしても、高レベルダンジョンを攻略したいから、その鍛冶師に自分達に合う最高の武具を作ってほしいと頼まれた。挑戦は出来るレベルには達していた。ただ、この国にあるダンジョンは普通とは違う。それが不安だった。
気の合うこの者達を死なせたくないと思い、無理をしないという約束で、それぞれに合う武具を作ってそのパーティーに渡した。
皆で喜んでいるその時の顔は今でも忘れられない思い出の一つだ。
旅立つ前に飲み食いし、語り合い、そのパーティとは楽しい時を過ごした。
そして別れの日、固い握手をして意気揚々と冒険者達は旅立っていった。
しかし、そのパーティは二度と帰ってくることはなかった。
それからだった。
その鍛冶師は二度と作ることはせず、店をたたんだ。
そして数百年がたち、その鍛冶師の噂や記憶もなくなっていった。
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