第7話 シェリー
ここは古の国『ルーン』
3つしかない町の内、一番大きい町ルーマの中心にその建物はあった。
レンガで作ったであろうその建物は高さは3階建てで幅はかなり大きい。簡単に言うとリアルの学校の半分位の幅があった。
冒険者協会ルーン支部の建物である。
冒険者を受け付けないアルク帝国を除けば、全ての国に協会がある。
正面玄関から建物に入ると広いスペースの待合所があり、歓談や打ち合わせができる様に丸テーブルと椅子が置かれている。その壁際に受付があり、その一つがシェリーの持ち場である。
「はぁ~。」
シェリーはため息をついていた。シェリーの故郷はこの国ではない。本社にて研修をしてから、どの国を受け持つかが決まる。この国ルーンは、他の国に比べると自然が多くあまり近代的ではないが、住みやすくて結構気に入っていた。
私の仕事は冒険者にアドバイスやフォロー、報酬の査定や金銭授受、クエストの依頼等。多々に渡るがやりがいがあってとても充実している。
ただ一点を除けば。
それは冒険者を見送って戻ってこない事が多いからだ。
この国のダンジョンやクエストは他の国に比べて非常にレベルが高かった。通常、中レベルダンジョンだと平均50だが、それは最下層のボスクラスがその位である。
しかしこの国のダンジョンは違う。
一番弱い魔物がこのレベルなのである。ダンジョンの世界平均を上げているのもここにあるダンジョンと言っても過言ではなかった。だからこそ、死の危険も高い。名の知れたパーティも、成長して強くなったパーティもこの国のダンジョンへ行って戻ってこなかった事が多かった。
私にとってそれが一番辛かった。
担当を受け持ったパーティには感情が入ってしまう。その都度、戻ってこなかったパーティには胸が締め付けられた。先輩にはあまり考えない方がいい、忘れた方がいいと言われているけど、どうしても割り切ることが出来ず悩んでいた。
そこへこの間、新しい冒険者が3名訪ねてきた。
この国に新人が3名も来るのは初めてだったのだ。
そして新人の担当は私が率先してやった。死なせたくないからだ。
その内の2名はこの国のレベルの高さを知ってもらい、低レベルのダンジョンや魔物がいる他の国を勧めた。その後、他の冒険者の話だと、国境を越えて他の国に行ったらしい。
問題は、もう1名の冒険者だった。名前はレイ=フォックスという青年だった。
彼にも同じ説明をしたのだが、ダンジョンの情報が知りたいと熱心に聞いてきた。
この国は低レベルダンジョンがないのだ。中レベルでも高いクラスである。とてもではないがレベル1の青年が行ける所ではなかった。
しかし、ダンジョンに入っていったと情報が入った。
しかもソロで。
通常、ダンジョンやクエストは4~6人でパーティを組んで攻略するのが普通である。ごく稀にソロの冒険者もいるが、それは世界的にも名が知れていて、腕にも相当自身がないとできなかった。
それを聞いた時は、驚きと同時に悲しさが沸き起こった。結局分かってもらえなかったから。おそらく時間がたてば死体も残らないだろう。ここのダンジョンはレベルが高い為に、簡単に捜索隊を編成できない。たまたま暇な高レベル冒険者がいればいいが、まず居ない。捜索のクエストをだしても集まらないのが現状だった。
「はぁ~。」
またシェリーはため息をついた。
今は夜、仕事終わりの時間だ。そろそろ後片付けをしようと思ったその時、正面玄関の扉が開いた。ため息交じりにそちらに目を向けると・・・・・
噂の青年。
レイ=フォックスだった。
☆☆☆
「はぁ~~~。」
僕は盛大なため息をついた。
外に出ると茜色に染まった夕日が僕を迎えた。服は所々焼け焦げていたり、切れていたりボロボロなのに鞘に収まった剣だけが美しく光っている。
まじ疲れた。
調子にのって中レベルダンジョンを2つも連続で行ったのである。
そら疲れるわ。
でも、おかげで自分のスキルが徐々に使いこなせるようになってきた。
戦闘も1回目のダンジョンより2回目の方が、レベルもあがったのもあるがスムーズに冒険ができた。1日半かかったのが、1日で今回はクリアする事ができたのだ。まずまずの成果で満足である。とりあえずは冒険者協会へいって今回の成果を換金してから、うまい酒と食事がしたい。
担当の美人なお姉さんに聞いてみよう・・・・・リアルなら僕の方が年上だがな!
着いた時には夜になっていた。
扉を開けるとさすがに遅いのか、他の冒険者は数組しかいない。担当の美人なお姉さんを見かけて受付の方へ近づいていくと、驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「すみません。換金をお願いしたいんですが・・・・・。」
「ちょ、ちょっと待ってください!その前にレイ=フォックス様は、あれほど止めたのに中レベルダンジョンへ行ったのではなかったのですか?」
「はい!何事もチャレンジと思って行っちゃいました!」
と笑顔で答えた。
「そっ、そうですか。よく生きて帰られましたね・・・・・。本当に良かった。」美人なお姉さんは少し目に涙をためていた。担当だから心配してくれていたのだろう。ありがたいことである。
「すいません。心配かけてしまって。でも何とか攻略する事ができました。」
「えっ?・・・・・攻略?・・・・・というと?」
「はい。5階層のボスを倒しました!」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
お姉さんが素っ頓狂な声を出した。うん。美人だからそれでも絵になる。
「これが、今回の魔光石です。換金お願いします。」
どっさりと魔光石をテーブルいっぱいに置いた。
「こ、こんなに・・・・・。どれだけ魔物を倒したんですか。」
「あっ!行ったダンジョン2つだったので・・・・・。テヘッ!」
と可愛く答えてみせた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
また素っ頓狂な声を出す美人なお姉さんだった。
とりあえず、この量だと換金に時間がかかるとの事なので、明日取りにいく約束をして帰る事にした。
そうそう、美人なお姉さんの名前はシェリーとの事。今後はシェリーさんと呼ぼう。すごく驚いていたが、とても嬉しそうだった。嬉しそうな理由も、聞くとなるほど納得である。僕も逆の立場だったらそうなんだろうな。だからこそ、シェリーさんに僕の気持ちを伝えた。
おすすめの料理店を教えてもらい。一人祝勝会をやる為に店に向かった。
☆☆☆
青年が帰るのを見ていたシェリーは安堵の顔をしていた。
どう考えても生きて帰ってこれない青年が帰ってきたのだ。
しかも2つもダンジョンを攻略してだ。
これは、すぐに噂になるだろう。
今回話をしていて思ったのが、何か安心感を与える雰囲気が彼にはあった。
レベル1で中レベルダンジョンを2つも攻略したのだ。
しかもソロで。
これは前代未聞である。
他の冒険者にはない、何かをもっているのだろう。
私も興奮して、なんだかんだ30分程いろいろと話してしまったが、彼の最後に言った言葉が頭から離れなかった。
「もし戻ってこれなかった冒険者が今後もいても、無理に忘れようとするんじゃなくて覚えておいてほしいな。僕だったらシェリーさんにはこんな冒険者がいたと覚えておいてほしいから。」
それを聞いた時に何かが吹っ切れた様な気がした。
「・・・・・そっか。忘れないでいていいんだ。」
レイ=フォックス
彼がどんな冒険者になるか、担当としてしっかりサポートしようと心に誓った。
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