第6話 炎鬼
大きな扉を開けるとその鬼は居た。
中は大きな部屋になっており、少年野球のグランド位の大きさはあった。
その中央の奥の椅子に座っている3本角の鬼。身長は3mはあるだろう。数々の鬼を従えている風格があった。右手にある大きな剣を取り、ゆっくりと立ち上がりこちらを見る。
「ガァァァァァァ!」
部屋全体に響き渡る大きな叫び声を発し、一直線に向かってきた。
目の前に来たかと思うとすかさず大振りの一刀。もの凄い風圧と一緒に振り下ろされる。
ゴォッ!
待ち姿勢の僕はすかさず紙一重で避け、カウンター。
ザンッ!
ヨシ!一撃与えた!
まさか避けられると思わなかったのか、しかも更に攻撃までされて驚いたのか、信じられない様な顔で一度大きく距離を取った。
一瞬の静寂。
鬼は何か呟き体の周りが一瞬光る。防御強化魔法だろう。待ち姿勢じゃないとカウンターは発動しない為、すぐに追い打ちはかけず様子を見ていた。さすがにボスである。他にも何かあると思い、自分からの追撃は避けた。
すると、鬼の体全体が赤みを帯びてきた。そして剣を持ってない掌の上からボーリング玉位の大きさの炎の玉がでてきた。
えっ?
その炎の玉がすごい速さで僕めがけて飛んできた。
「おわっ!」
間一髪、横へ飛びよける。そのまま炎の玉は壁に激しく衝突して散っていく。残ったのは抉り取られたかのような跡が残る。
・・・・・これは当たるとやばい。
ボッ。ボッ。ボッ。ボッ。
鬼を見ると、掌に先ほどの炎の玉があるだけでなく、同時に体の周りに同じ玉が5つ。
おいおいおいおいおいっ!! まじか!
6個の炎の玉が、同時に自分めがけて飛んでくる。
ここで速さが役に立った。
「ほっ!・・・・・ほっ!・・・・・ほっ!」
まだ使いこなせてないが、何とか横へ走りながら避けていく。避け切った時に鬼を見るとまた炎の玉を作り出していた。今度は10個以上だ。接近戦で攻撃を受けたので、遠距離へ切り替えたのだろう。
切り替えが早い。
カウンターは遠距離攻撃は発動しない。何とか近づいて剣での攻撃を誘わないといけない。なんとか隙を作らなければ。その為には次々とくるこの炎の玉を避け切ってやる。鬼も炎の玉を作るには限界があるだろう。魔力が切れて、疲れが来る前にあっちから近づいてくるはず。
一人呟く。
「ふぅ~・・・・・集中!」
気合を入れた。
そして無数の炎の玉が飛んできた。
☆☆☆
・・・・・どれだけ時間がたったのだろう。
どれだけ避けただろう。
鬼から繰り出される炎の玉を避けていく。
避けていく内に、徐々に自分の速さに慣れてきていた。
最初は、10m位先で避けていたが、次は8m。次は6m。次は4m。と、避ける距離を短くしていく。今は、1m先でも瞬時に避けられるようになった。それでもまだ全開スピードではない。炎の玉の速さより、自分の速さのほうが断然速いのだ。
もっと速く。もっと速く。
戦闘中で悪いが、速さに慣れ、自分が成長していると思うと楽しくなってくる。
「!!!」
キィィィィィィィン。
何個目かの炎の玉を避けたと同時に鬼が近づき、横なぎの剣がとんできた。
咄嗟にそれを剣で受けたがそのまま吹き飛ばされる。
「くっ!」
ライフが3割ほど減っている。
変則攻撃をしてきて驚いた。そして、そのまま鬼は距離をまた取り、片手を上に掲げ、今までにない巨大な炎の玉を作り上げていく・・・・・これはでかい!
「ふぅ~。」
それを見上げながら佇む僕は鬼に言葉をかけた。
「・・・・・僕は成長した。ありがとう。じゃ行くね。」
シュン。
軽く、2,3度飛び跳ねて鬼めがけて一気に距離を縮める。それに合わせて、巨大な炎の玉が飛ぶ。炎の玉があたる瞬間にさらにギヤを上げて懐に飛び込み胴めがけて渾身の一刀。
ザンッ!
「ガッ!」
おそらく消えたように見えただろう。炎の玉は地面に当たり大きな衝撃音とともに穴があいた。攻撃を与えてそのままの速さで後ろへ回り込み、待ち姿勢で構える。
「ガァァァァァァ!」
鬼は振り返りながら僕めがけて渾身の一撃を切り込んでくる。
「・・・・・カウンター。」
スキルが発動した僕はそれをギリギリで躱しながらの一閃。
ザンッ!!!
下半身を残し、上半身が地面へ落ちる・・・・・同時にレベルアップの無機質な声。僕はその場にへたり込んだ。
「はぁ~。終わった~!」
ボスはどの位強かったのか。アイズを唱えてみた。
炎鬼 レベル68
炎鬼というのか。いや~怖いというより面白かった。
このダンジョンに入ってどんどんレベルアップしていたが、目に見える実感がわかなかった。しかし、炎鬼と戦って速さが徐々に自分のものになっていくのが分かった。指でポチポチ操作する普通のゲームに比べて、自分の意思で動かすこの感覚。
すごくリアルで面白い!
魔光石を取りにいくとドロップアイテムがあった。
『炎糸』『身代わりの指輪』
ほう。炎糸は防具や何かの素材かな?後で店に聞いてみよう。
あと気になるのがこの指輪。掲げてみると、
【身代わりの指輪】一度だけ致命傷を防ぐ。発動すると消滅する。
これはうれしい。死にそうになった時に一度だけ助けてくれる指輪らしい。
さて、ボスも倒したことだし地上へ戻りますか。
満足感を胸に地上へと戻っていった。
☆☆☆
地上へ戻ると夕方になっていた。
という事は昨日の朝に入ったから一日半たったのか。町に帰ってもよかったのだが、最後のボス戦で感じたこの感覚を忘れない内に慣らしておきたい。しかも、気分ものっている。
道具をみるとまだライフ回復ポーションや、体力系ポーションはある。
う~ん・・・・・うん!そのままもう一回、中レベルダンジョンへ行っちゃおう!
多分一回帰ったらゆっくりしちゃうだろうし。
勢いで、このまま行くことにした。
この近くにもう一つあるのは冒険者協会でリサーチ済みである。
僕は夕日を背にもう一つのダンジョンへ向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます