三人の足軽
三人の足軽
著・@o41-8675
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918235603
村岡家との戦で尾山家の猛将、時田清が倒れたことで命運がわかれた足軽の勘太、重蔵、平吉の生き様の物語。
読後、悲しくもあり、いろいろ考えさせられるお話だった。
似たような展開の話を、古い映画で見た気もするけど思い出せない。
同郷の足軽の勘太、重蔵、平吉の視点で時系列で描かれている。場面がよく変わるため状況の把握がしづらい。ところどころ言葉の言い回しが時代に即しているのか気になり、首を傾げながら読み進めた。考えて対比がよく使われている。
感嘆符のあと一字あける云々は脇においておく。
尾山家に仕える家臣の一人、時田清は全身に黒い鎧をまとい口元を黒い布で覆う格好から「漆黒の侍」という異名を持ち、戦で二倍もの軍勢を倒したこともある猛将である。時田隊の足軽たちは、時田隊にいる限り負けるはずがないと強気になっていた。
足軽の一人、華奢な体の勘太は「英雄だろうが、臆病者だろうが、生き延びる奴は生き延びるし、死ぬ奴は死ぬ。(中略)結局は自分が生きていることが一番大切だろ」と士気が下がることを口にし、いつものように重蔵にたてついている。
彼の言うことは真理かもしれない。
大柄で勇敢な重蔵は、「俺たちは命を懸けるべきだ。感謝なんて求めていない。それが俺たち兵士の本分だからだ」下級武士で武士道を重んじる男。戦のないときは同じ村で百姓として働く友人の平吉も、敵将の首を打ち取って手柄を上げる気で戦に臨んでいた。
敵の山中軍が迫り、戦が始まる。
一本の流れ矢が時田の首元に刺さったことで戦況が変わった。
時田隊の東に位置する山へ、すぐさま逃げだす勘太。
重蔵と平吉、他数人の足軽たちは時田清の様子を見ていた。
「平吉と他数人で時田様を本陣まで連れて行って欲しい。それまで俺が時田隊の兵たちの体勢を立て直してこの道を守る」
重蔵は時田の甲冑を脱がして自分が着、時田清の代役を務めることにしたのだ。
「一刻も早く時田隊の現状を本陣にいる尾山義澄様に伝えるんだ」
平吉を含めた八人の足軽が時田清を運びながら、本陣へ向かう。
一方的に時田隊を蹴散らしていた山中隊のまえに、「漆黒の侍」に扮する重蔵が現れた。猛将の存在に戦意を取り戻した兵たちが再び戦いだす。
その頃、本陣へ急ぐ平吉は内心死ぬのが怖くて気持ちを仲間に漏らしてしまう。
「別にそう思うことは悪いことじゃあないだろう。(中略)俺もお前と同じだ。できれば死にたくない」
「ならなぜ戦える?」
「それが俺の使命だと信じているからだ。」
ここで「心地の悪い孤独感が神経を伝って平吉の胸のあたりに」広がったのは、逃げることばかり考えて戦うための使命感がなかったからだろう。
そのころ漆黒の侍に扮する重蔵は、敵の進軍を止めようと戦っていたが、戦況は不利。南と西の山の間の道まで撤退することを決めた。ただし、そこを突破されれば西の山にある本陣に攻め込まれ自軍が壊滅してしまう。なんとしてでもこの道は死守しなくてはならない。
足軽の重蔵は決断を下すのは、影武者としてはもちろん、武士として主君を守る使命があるからだ。ここが平吉と違うところ。しかも、対にすることで二人の差がはっきりわかるように考えられている。
一方、勘太はなんとか尾山家領土までにげてきたが、国境付近の村がすでに敵の村岡家に寝返っていた。敵である村岡家の山中隊が尾山家本陣の背後に回り込んで挟み撃ちをすることを知る。村岡家に寝返った村人たちが落ち武者狩りをしようとする中、「俺は村岡様のために戦うと誓った兵士だ。村岡様のために功績をあげたいんだ」といいながら勘太もついていくことにした。
本音は自軍にたどり着くため。彼らに自分が時田隊だと知れたら最後、殺されるのは目に見えている。勘太はどこまでも、自分が生き延びることを第一に行動しているのだ。
時田隊は壊滅状態にあった。「漆黒の侍」の影武者である重蔵をかばって兵が死んでいく。彼らと同じ一介の足軽である自分を守るために、多くの兵が死んでいく。それでも彼には自軍の本陣に通じる道を死守する使命があった。
平吉たちは崖の上にいた。本陣は崖の下にある。下るのは難しく、迂回すれば敵軍の攻撃にあうだろう。どこをどう移動したら、崖の上に行ってしまうのだろう。おそらく平吉たちは、本陣の正確な場所を知らなかったのだ。
時田をここに置いて逃げようと、平吉は提案する。「死にかけの武将一人を守るために、俺たちは命を投げ出すのか?」
他のみんなは、尾山家の重要人物である時田と自分たちの命の重さが違うことをわかっている。
「俺たちは何のために戦っているんだ? 時田様のため、時田隊のため、尾山家のため? どうして俺たちはそんなもののために命を落とさなくてはならない?」
この時代、家を守ることが第一だった。彼もそのことはわかっているはず。
ここも、守る側の平吉と守られる側の重蔵が対になっている。
しかも、平吉の問いかけに対する答えは、つぎの勘太のシーンに出てくる。
勘太は落ち武者狩りに同行しながら、「ひとを殺すことに抵抗はなかったのか」と青年に尋ねる。
抵抗なんてないと答えた青年は「生きるためにやっているんですから。生きることに抵抗なんてしませんよ」と答えた。
生きるために死にかけの武将を守るのが平吉。生きるために敵軍の兵と偽っているのが勘太。ここも対になっているのだ。
そのとき、尾山家の兵士と鉢合わせてしまう。勘太の知る、仲間の顔だった。ここで二つの選択肢が現れ、勘太は生き延びる方を選び、仲間の兵士の首を切る。生きることに抵抗しなかったから切れたのだ。
平吉は、仲間とともに山から戦場へと走っていた。仲間が敵の矢に倒れる中、またしても平吉は時田を「ここに置いていこう」という。
彼自身が生き延びるためには、時田を置いて逃げればいい。だが仲間からは、「いや、ダメだ! 奴らに時田様の首を渡すわけにはいかない!」と反対に合う。彼らは尾山家を生かすために、意地でも本陣へ運ぶことに迷わない。ここでも平吉と仲間たちが対になっている。
反対した仲間も矢に倒れ、平吉は残りの仲間と時田を担いで本陣にたどり着く。彼にしてみれば、争いからの逃避だ。
本陣から時田隊に退却の伝令が届く。これを聞いて重蔵は、平吉が時田を本陣へ送り届けたことを知っただろう。だが、攻撃されている状況で退却はできないと重蔵は戦い続けようとする。影武者であって、本来は仲間と同じ足軽なのだ。
重蔵が影武者をしていることを知らない時田隊の兵もいるのだろう。影武者でも隊長という役割を担っている以上、最後まで役をまっとうしなくてはいけない。仲間に必ず戻るといって下がっていく。
平吉は、時田の亡骸があるところへ主君、尾山義澄を案内する。
「よく守ってくれた。武士ならば、首を敵に取られるのも避けたい不名誉だ。彼は死んでしまったが、彼の名誉を守ることは出来た」
このとき平吉は「目の前にいるこの男の首を跳ね落としたかった」と怒りをこみ上げている。
相手は主君。敵から時田の首を奪われなかったことで報奨をくれるかも知れないのに、すでに死んでいる隊長を本陣に運ぶためだけにどれだけの仲間が死んでいったのかを考えているのだ。
彼は手柄を上げたかったわけではなかったことがわかる。
重蔵の元へと向かう途中、茂みからでてきた勘太と出会う。そのとき、重蔵が漆黒の侍の影武者として敵の刃に倒れる姿を目撃する。
重蔵は影武者になることを選び、忠義と信念を貫いて死んだ。時田を本陣へ運ぶことで、友達の平吉を助けたのだ。
勘太は生き抜く覚悟をして仲間を切ったことで、重蔵を死なせた。自分が生きることは大切だが、大切な友達を見捨てては意味がないことに気づいた。
平吉は影武者となった重蔵が死ぬと知りながら、時田を運んだ。なんのために戦うのかもわからず周りに流されていたが、実は生き延びることを選んでいたことに気づいたのだ。
生きていくには覚悟と選択が大切だから、平吉と勘太は生き残ったのだろう。重蔵が死んだのは、忠義と信念は度が過ぎれば身を滅ぼす暗喩ではないか。
平吉が本当に欲していたのは手柄ではなく自分で考えて選択する生き方だった。だから最後、進行する兵の列から離れて、一人暗闇の方へと歩みを進めていくのだろう。
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