対Bot電脳戦線

対Bot電脳戦線

著・山田湖

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919157504


 世界最高レベルの戦闘型AIの成長を阻止すべく、BOT殲滅に挑む不登校無課金FPSゲーマー赤城匠と廃ゲーマー達の物語。


 友達に「この前FPSゲームしてたんだけど、こんな事があったんだよね」と独白のような体験記風小説だった。なので、描写より説明や独り言が多いのは仕方ない。

 文章はじめの一字下げや三点リーダーなどの文章の基本ルール云々は、とりあえず脇においておく。

 冒頭、BOTの説明をしてくれている。わたしのようなオンラインゲームをあまり嗜んだことがない読者にとっては、優しく感じた。

 ボット(BOT)は、ファーストパーソン・シューティングゲーム(FPS/一人称視点シューティングゲーム)やマッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム(MMORPG/大規模多人数同時参加型オンラインRPG)などで使われるAIプレイヤーであり、ロボットの略称だ。

 プレイヤーの数を補ったり、あるいはオフラインであたかも人間のプレイヤーを相手にしているかのように遊ぶために配置されている。

 不登校の赤城匠は高校にも行かず。毎日FPSオンラインゲームの「Gun  Champion」通称GCを無課金でプレイしている。見た目の容姿など一切描写されていないのでわからないが、彼はGC内では無課金にもかかわらず日本で一番強いプレイヤー【Akagi】として有名だった。

 いくら課金して強い武器を手に入れたところで、FPSは操作性の腕が物をいう。なので課金している人が強いわけではなく、無課金でもやり込んで操作がうまい人が強い。つまり彼は、お金ではなく学校に行く時間をゲームに注いでいる廃ゲーマーだ。なぜそうなったのか、ここではまだわからない。

 うまくなる持論を語っても、狂ったようにやり込んでいるFPSゲームの魅力が伝わってこない。射撃している音や凄まじい臨場感、カメラ位置による低い視点や窮屈さ、移動するときのスピード感、一人称視点だからこそできるキャラクターへの没入感、心理戦や情報戦などの描写から始めたほうが、ゲームに夢中になる彼の気持ちや物語の世界観もわかったのではないかしらん。

 なので後半、ソロとして戦っていく場面は面白かった。

 ある日、主人公はソロメインでゲームしていると、あっさりハンドガンで頭を撃ち抜かれ即死した。あまりの早業に驚き、慌て、誰からの狙撃なのかリプレイを見て確かめようとするも表示されない。

 撃たれた後はリプレイ画面が表示されるシステムなのに表示されない。相手がBOTだった場合、リプレイが表示されないのだ。

 トッププレイヤーの彼は、このまま負けては他のプレイヤーに示しがつかないと再度ソロでプレイする。だが、激戦区内の参加人数二百人のうち、百人近くがBOTだったため、開始早々撃たれる。またもリプレイが表示されない。つまり、またBOTに撃たれたのだ。

 同様の体験をした者たちの書き込みでGCの掲示板は騒ぎになっていたが、運営の報告を待つということで沈静化した。

 大規模メンテナンスが行われたが、事態は改善されなかった。それどころか、予想外の事態に陥っていたのだ。

 サイバーテロ組織がサーバーを乗っ取り、サーバー内の電脳城内にはBOTを操作する未完成のAIが収められており、このまま成長を続けると世界最高レベルの戦争型AIとなり、サイバーテロ組織がテロに使われてしまうかもしれない。運営側からAIを破壊できず、ゲームプレイで破壊しに行くしか方法がない事態になっていた。警察がテロ組織を逮捕しても、AIの成長は続き、止められないという。

 いっそのこと、サーバーを物理破壊してしまえばいいのではと思った。思ったけれど、費用と時間と労力をかけて作ったものを簡単には破壊できないだろう。最悪な手段を講じる前に、人間はできることはないかと探して面倒くさい方法を選択する。おそらくそれが一番の近道なのだ。

 主人公は、ゲームサービスを停止してAIの成長を止める方法を思いつき、運営側にメールを送る。解決策の準備をする時間稼ぎには有効な手段だ。

 大量のBOTを送り込んで争わせることができるらしく、プレイヤーにBOTを倒してもらわなくてもいいことが返信されてきた運営側のメールからわかる。ただ、運営側は忙しく「しばらくメールを送られても送信できない」となる。システムエンジニアの人たちも対応に追われて大変なことになっているのが伺える。

 ゲーム内の待機所で主人公を打ち負かした前回大会一位プレイヤーゼウスが、AIを破壊しに行こうと提案。八十人以上のプレイヤーが賛同して参加するも、パラシュートで降下中に狙撃されて失敗に終わる。しかし、もたらされた情報が掲示板に投稿され、BOT攻略法が討論されていく。

「電脳城のAIが指揮を執っているにしても(中略)護衛のBOT達は世界中のGCのトッププレイヤーの動きをAIによって覚えさせられたんじゃないか?」

 この書き込みを目にした主人公は、ゼウスのようなトッププレイヤーや大会経験者百人を起用して力づくで倒すという提案をした。

 歴史学者で防衛省研究官でもある石津朋之氏曰く、「プロは兵站を語り、素人は戦略を語る」相手の居場所と兵力が特定できているので、戦場がどこになるか、そのための補給線をどう敷くべきか計画を立てるべきだろう。

 だけど、各地に散らばる物資を拾って使用するFPSでは、補給は考えなくてもいいのかもしれない。

 電脳城から三百メートル離れたところで集合し、二百メートル地点に差し掛かったところで戦闘が始まる。四方から囲まれて攻撃を受けて失敗に終わった。

 ところで、愛媛県今治市にある今治城の入口には藤堂高虎が考えた傑作、日本初の「枡形虎口」がある。広場に敵を誘い込み、三方向から狙い撃ちできる硬い守りだ。攻撃を受ける側はひとたまりもない。戦意を削ぐにも効果的だ。

 電脳城や周辺地形の描写がないのでわからないが、似たような状況で攻撃を受けたのだろう。戦意を失ったプレイヤーたちが、一人また一人とログアウトしていく。

 動員できる戦力が双方百人と上限が決まっているのだから、敵兵力を分散させ、相手の二倍の兵力で各個撃破を繰り返していけば味方の被害も少なくてすむ。とはいえ籠城しているようなものなので分散させるのは容易ではないのだろう。

 つぎに提案されたのが、「チーターと協力すること」だった。

 敵はAIで強化されていうBOT。目には目を、チーターにはチータをという発想は自然の流れ。だけれども、主人公は悲しくなる。

 ルールのなかで遊ぶから楽しいのであって、ルール破りをするチーターを快く思わないのも当然だ。そんな彼らの力を借りなくては勝てないのか、と気持ちが沈むのもわかる気がする。

 ご飯を食べ忘れて、主人公は母親に怒られている。夕ご飯だろうか。キッチンで食べたのか言及されてないが、素直に食べている。いつも部屋に引きこもってるわけではないかもしれない。この親子関係が、ラストへの伏線になっているのだろう。

 現役将棋棋士の提案を飲み、運営側に最初から最高レベルの武器と防備の要求し、受理されたことで世界の命運のかかった「対BOT電脳戦線」が開始される。

 運営側がすんなり条件を飲んだのは、事態を改善させる術がなかったのだろう。大量のBOTを送り込んで争わせて事態の沈静化を測る方法が、現実的に無理になったからかもしれない。

 ここまでが前半部分。非常に長かった。

 仲間と協力しながら電脳城の最上階へたどり着いたのは、主人公一人だけだった。しかも、AIのカプセルを守る最後のBOTは主人公と同じ姿をしていた。

 以前、「BOT達は世界中のGCのトッププレイヤーの動きをAIによって覚えさせられたんじゃないか?」と予想の書き込みされていたことが、事実だったことが明らかになる。

 相手はモニター内で動くプログラム。対して主人公は生身。ここまで戦ってきたプレイの疲労と、世界の命運がかかっているという重圧に手が震えてしまう。しかも逃げ出してきた過去のトラウマまで思い出してしまう。

 他校の連中に殴られた友達の敵討ちに賛同しながら怖くて逃げてしまい、弱い自分の心に負けたこと。

 この出来事が、彼を不登校にさせた原因なのだろう。

 なぜならこのとき、スマホ画面に「負けるな、最後までは」のメッセージが浮かび上がり、戦意を取り戻したからだ。不登校以来、メールさえ届かなかったスマホにメッセージを送ったのは、以前他校に殴られた友達だろう。どこかで、彼の戦いを見ていたのだ。

 自分のBOTを倒した主人公は、AIカプセルの破壊に成功。テロリストたちも逮捕された。その後、ゲームする時間を減らすかわりに学校へと通い出すのだった。

 前半部分に弱い自分に負けた過去をほのめかすような描写があると、後半で弱い自分を克服する姿を如実に感じられたかもしれない。長いトンネルの中をさまよって抜け出せたラストは、ホッとできてよかった。

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