ワンコイン・ワンウォーク

ワンコイン・ワンウォーク

著・丸猫もくめ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918134925


 幼馴染の剣崎唯を振ったことで呪われたと思った三次元に興味のない辻山翔は、妖怪ミムの協力を借りて呪いを解こうとしたら、実は彼自身が元凶だった物語。


 読後、ぽつんと寂しさが残るお話だった。

 どんでん返しがあってテンポもいい。

 主人公とミムの会話のやり取りは面白かった。

 誤字があるので音読して推敲と添削をされるといいと思う。文章は随分奇をてらった感があるものの、二次元好きのオタクで独り言の多い主人公のキャラとしては味が出ている。

 関西の辺境な田舎の端くれの海辺に母校がある地域に住む辻山翔は、二次元キャラにしか興味がないといいながら、海岸ではしゃぐ水着姿の脚線美を有する三次元女子に目がいってしまう、思春期真っ盛りな高校二年生の男子だ。

 廃校にならない程度の新入生が入学する高校には、実家の跡継ぎが確定された少年少女が集っている。

 彼の友達の言葉を借りれば、「この高校は、県内でカップル成立数がトップレベル」で、背丈を伸ばした女子の胸は大きく、男子は筋肉番付レベルの逞しい連中がそろい、カップルを作っている。また、あまりものはあまりもので、陰キャ同士でくっつくため、高校二年生ともなれば彼氏彼女がいるのは当たり前のような状況だ。

 自ら付き合うことを拒否している彼は、例外なのだ。

「海水浴場を管理するオッサンが溺死注意をお客さんに喚起する、その脇を縫って出入り口を自転車ダッシュで潜り抜ける」僅かな一瞬、耳へと意識が向けられ、彼の両腕が引きつり姉との会話がはじまる。ここで違和感を覚えた。

「こいつのダジャレセンスは相変わらずだな。七年前と変わりゃしねえ、海の藻屑以下だ」

 オタク主人公キャラの独特な言い方の中に、気になる言葉がぽーんと入ってくる。全体的に雑に感じさせながらも、考えて作られているところは素直にうまい。

 彼いわく、姉は意気地の悪いダメ人間で、一人で生きていけないような細いニートだという。一人では生きていけなかったわけだ。そんな姉に夕方までには帰ってこいよと言うつもりで手を振ったとき、視界に誰か映る。それが彼の幼馴染の剣崎唯だったのだろう。

 彼は「不純物」と表現している。見られたくないところを見られた、という意識の現れかもしれない。

 三次元との恋を回避する術をさがしていた彼は、「姉貴と過ごし始めるようになってから、一人ツッコミも増えたこの頃なのであった」とある。

「七年前と変わりゃしねえ」といい「姉貴と過ごし始めるようになってから」という言い方といい、違和感をあたえる表現がさり気なく入っている。

 薄気味悪い廃神社に足を踏み入れたのは、おそらく学校で誰かが噂した「百円夜行」に興味を持ち、確かめに来たのだろう。そこでミムに出会い、健全な青少年ならではの妄想を叶えてもらおうとする。でも、できることは夜、意中の相手に化けたミムと歩くことだけだった。

 見えない相手とのやり取りの描写はなかなか難しい。だから二次元キャラであるイナミの姿になったときの描写は、存在をよりよく伝えてくれている。

 百円夜行の業務後、ミムは化け猫の一族だとわかる。だから、他の誰かに化けることができるのだ。

「君に興味があるんだ」とミムに言われた彼は「え、なに一目ぼれっすか」と返す。

「うぬぼれの間違いだ、バカ。君のようなオタクに好意を向ける存在などこの世界にいるはずがない」

「いやねぇ、それがねぇ、いたんすよぉ」

 作品において無駄なセリフは一つもないという。何気ないようなやり取りをしながらさりげなく出してくる辺り、考えて書かれているのがわかる。

 ミムの指摘で、自分が呪われていると知る。心当たりは、同級生で幼馴染の剣崎唯だった。

 彼女は、主人公と同じ高校の二年A組、金髪ギャルをやっている。

 彼いわく、「中々のツワモノ。見た目はなかなかにアグレッシブで、ギャルゲーなら姉貴ポジ間違いなしの強者感あふれる女子高校生で、人気も上々。彼氏を作ろうと思えば、ほんの数回教室を見渡すだけで事足りるのだろう」

 だが、彼女はそうはしない。なぜなら、彼女には幼馴染がいて、未だにソイツのことを憧れているからだ。

 その幼馴染が辻山翔、主人公の彼である。

 以前、彼女に告白された彼は振っている。結果、彼女からストーカー的な呪いを受けていると考えたのだ。ミムを二次元キャラのイナミに化けさせ、「実は彼女がいるから」と告げれば、呪いもなくなるだろうと思ったのだ。

 彼女の前で告げると、予想外の答えが帰ってきた。

「……その人、翔君のお姉ちゃんに似てるね。朱莉さんも生きてた時、そんな恰好だったよね」

 幼馴染が呪っていたと思ったら、どうやら姉が原因だったらしい。これまで何度も主人公が話してきた姉は幽霊だったのだ。

 ミムとともに家に乗り込む主人公だが、イナミの姿を解いたミムは認識できないはずなのに、姉にはミムの存在が確認できている。

「翔を強く呪う犯人は、つまりは―――翔、君自身だ」

 ミムの言葉に、彼は「やっぱりバレた」と観念する。

 七年前。姉の辻山朱莉は七年前に、若者がよくダイブする小さな海辺の崖で帰らぬ人となっていた。ひ弱な姉は友達に急かされ、断れず弟の主人公に助けを求めるも、頼りがいの会った姉だったから大丈夫だろと言い返して助けなかった。結果、溺れて死んでしまったという。

 自責の年にかられて後追い自殺をしようとしたとき、姉の幽霊が現れ今に至る。幼馴染の剣崎唯は、海辺へ出かける時はいつも心配してついてくる、その行動が、姉が死んだ辛い記憶を思い出させるため、突き放すような態度をとってきたのだ。

 姉とミムが消えたあと、居間には彼しかいなかった。はじめから、彼しかいなかったのだ。

 だが彼には幼馴染がいる。一人きりではない。

 幼馴染からすれば、姉を亡くした彼がいつも一人で自転車に乗って海辺を疾走するする姿は、寂しそうに見えていたのかもしれない。

 どんでん返しにつぐどんでん返しは、考えられて作られていた。すごいね。

 

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