殺し損ねた夏のあと

殺し損ねた夏のあと

著・上斗春

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918300606


 夏に彼女から手編みのマフラーを誕生日プレゼントされた主人公が彼女を絞殺し、夏を殺し損ねた物語。


 見方が正しいかわからないけれど、カミュの「異邦人」が浮かんだ。

 犯人役にも適した人間がいる、と主人公は冒頭で語っている。ということは、犯人役である主人公は適した人間だといっているのだろう。

 主人公には彼女がいて、誕生日に合わせて内緒でマフラーを編んでくれた。秘密事項のはずなのに、なぜかいつも主人公はそれを知っている。彼女はツメが甘いため、どこかから漏れて伝わってしまうのだという。友達経由で伝わってくるのかしらん。

 主人公の誕生日のある季節は夏である。

 夏に手編みのマフラーを贈るのは、かなりずれた彼女である。「してやったり」と、ひまわりのような笑顔を見せたとある。

 彼に対して何かしらの不満があり、いたずらのつもりだったのかもしれないし、主人公を殺害しようと計画していたのかもしれない。ツメが甘い彼女の計画を事前に察知した主人公は、彼女を手に掛けたのだろう。

 夏はただでさえ暑い。

 彼がつかっている部屋着は、汗を吸わないポリエステル百パーセントのクラスTシャツ。風呂上がりに着替えた下着は、エアコンのない脱衣所では、すぐに汗を吸って濡れる。そこに手編みのマフラーをまけば、暑いしむず痒く、不快になる。

「アレはクレームを聞き入れてくれません。言うことを聞かないんです。だから、僕が快適に過ごすために、殺すしかなかった」

 これが動機なのだろうか。

「あの日に彼女が冬の象徴であるマフラーを持ち込んだから、殺夏計画が成功しなかったのかもしれない」ということは、彼女がマフラーを持ち込んだから、彼女の殺害は成功したのだろう。

「当たり」の字を削られたアイスの棒や支柱に絡んだ茶色の朝顔、割れたラムネ瓶に挟まったビー玉や折れた団扇など夏の象徴的を壊した理由は、本当に夏を殺したかったのか責任能力がないと認められたいための演技なのか。それはわからない。

 難しいことを考えて作っていると感じ、難解なミステリーを書いてみたいなと思った。

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