1000年の栄華と3分間の追憶
1000年の栄華と3分間の追憶
著・みしょうかん
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888914498
歴代皇帝の記憶を持った皇帝の帝国に革命が起きる中、最期を迎えるまでの三分間で記憶から皇帝の矜持を取り戻した物語。
歴代皇帝の記憶を引き継いで持っている設定が面白い。
一子相伝が真に望むのは、正確な継承だ。初代が名君であればあるほど、引き継いだ者が無能であればあるほど望まれる。周囲が先代の良さを覚えているからだ。
主人公は、千年続いた帝国の歴代皇帝の記憶を持っている。さすがに千年前の皇帝を覚えている者はいないが、歴史が物語ってくれる。主人公自身、もっている記憶が歴代皇帝の記憶だと気づけたのも歴史からだった。
賢者は歴史から学び、愚者は体験から学ぶという。
歴代の記憶を活用して帝国を反映に導いた、かというとそうではない。「彼は何かに利用したことは一度もなかった」のだ。
千年の歴代皇帝の記憶を持っていたため、帝国の繁栄と腐敗を知りながら「金にまみれた大貴族と聖職者達」に政治の実権を握られている現状を、ただ見ているだけだった。
この辺りは、私達が暮らす国の象徴天皇のことを隠喩しているのかもしれない。
歴代皇帝の記憶を保持しながら、主人公は歴史を学ばなかったのか。歴史を見れば、皇帝以外にも優れた人物は存在し、学ぶところはあったと思う。
座学で満点を取れたところで、学びを活用しなければ、人生で満点はおろか落第点は免れない。
過去の思い出を大切にするのはいい。だが、過去の失敗や栄光にとらわれて生きれば、力強く人生を歩むことはできない。結局、主人公は過去にとらわれて未来に悲観してしまったのだ。
主人公が悪いわけではない。
私達人間はだれでも、過去に囚われ未来に悲観する生き物だ。
なぜなら、人は歳を取るにつれて十代から三十代の良い出来事をよく思い出し、懐かしむようになるからだ。加えて、歳を取るにつれてネガティブなことよりポジティブなことを多く覚えていることがわかっている。
主人公も、歴代皇帝の記憶をすべて持っているからといって、トイレやお風呂の時間、余暇でだらしなく過ごしていた記憶まで覚えていたとは思えない。
記憶は記録ではない。歳月が過ぎれば自分の中で美化される。自分がこうだと思っていたことも、他人から見たら別な見方もできるように、記憶は当人にとって真実だが、事実ではないのだ。
私達の脳は、常に脅威に警戒し危険を課題に見積もり、良いことよりも悪い物事を重要視する傾向がある。生まれながらの悲観主義者なのだ。
それゆえ、歴代の記憶を保持するあまり主人公は臆病であったのではないか。だから帝国の滅びを招き、革命によって倒れてしまう。
大陸型の畑作牧畜文明は、環境や自然が悪化するとその場を捨てて移動し、他国とぶつかれば争う。この帝国は大陸にあったのだから、大陸的気風とは無縁ではない。
初代皇帝の意志、とはなんだったのか。
主人公によれは初代皇帝は、「大国間の空白地帯に散らばっていた諸侯を、武を以もって纏め上げ、隣国との戦争を極力回避し、どことも同盟を組まなかった。敵対も協力もすることなく、中立姿勢を保ち続けた偉大なる賢者だ」とある。
千年前、周辺諸国の侵略から守ろうと、「内輪もめをしているときではない」と武力でまとめ上げて中立を保ったのだろう。
つまり、この帝国はスイスのような武装中立国だった。
現在の私達の非武装中立国ではないのだろう。(自衛隊が法律上、軍ではないので)
現実的に武装中立でなければ、永世中立は成り立たない。だからこの帝国は千年も続いてきた。中立国は原則として、自国が攻撃を受けない限り軍事同盟に加わることはできない。
革命を起こした男たちは、北海の連合軍の協力を得ていた。
結果、「実質的に連合王国との同盟を結んだことになる。それは帝国の絶対的中立を汚すということ」となり、だから主人公が「貴様らは……初代皇帝の意志を蔑ないがしろにする気か!」と問いただしたのだ。
最後の三分間、初代皇帝の意志をもって革命軍のリーダーに短刀を放った。一矢報いたと思いながら、後ろに控えていた男に頭を撃ち抜かれて倒れた。
背後から主人公を殺したのが、真の黒幕だった可能性がある。
とはいえ、後ろから撃たれて仰向けに倒れているのどういうことだろう。
距離はどのくらい離れ、どういう銃で、どのような弾で撃たれたのかがわからないが、現代の銃ならばおそらく即死。でも、撃たれたあと意識があった。
昔の古い小銃、あるいは精度が悪かったり距離があったり撃つ人間の腕が未熟だったなら、撃たれたあとよろけながら仰向けに倒れたかもしれない。意識があってもおかしくない。
よく調べて書かれた作品。見習っていきたい。
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