★読売新聞社賞★ プロトコールが鳴り響く
プロトコールが鳴り響く
著・朝田 さやか
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896132849
二〇二〇年夏、新型コロナウイルス蔓延によるインターハイ中止の中、バレー部三年生の引退試合を行うチームメイトの物語。
タイトルにあるプロトコールとは、主に国の間の公式儀礼をさす。相手に敬意を表し好感を与え、迷惑や不快な思いをさせないルールのことだ。
バレーボールのプロトコールとは、審判が試合開始の吹笛をする前に、試合の準備をする手順のこと。公式練習開始。チーム交代。練習終了後、選手はベンチに戻り、選手全員エンドラインに整列。相手チームと握手。スターティングメンバーがサーブ順に横一列に整列。主審がサーブ許可の吹笛、試合開始。といった必要な流れや手順をさす。
なので、コール音が鳴り響くものではない。
タイトルはこのままでいい。
ボールを打っては床に弾む、掛け声、笛、コインを弾く、床を走って擦れるシューズの音など、一連の手順を描写することで鳴り響く様を書けたらもっと良くなると思った。ちょっと残念。
作者はインターハイ中止のニュースを聞いて書いた作品だという。これは、今年でなければ書けなかったものだし、選びやすかった題材だろう。
主人公の菜乃は暑さから苛立ち、シャーペンを放り投げ、髪の毛をかき乱し、赤ペンでノートに書きなぐっては破けていく。ノートを無駄にしたのを目の当たりにして溜飲を下げ、ようやく怒りの正体が現れる。ため息をこぼし、「バレー、してみたい」とつぶやく。
怒りには種類がある。
頭にくるは浅く、突発的であり、表層な怒りだ。
ムカつくは、ムカムカするというように胸のあたりまで怒りがきている。
腹が立つとは怒りを飲み込み、腹に収めた上で怒っている。
百年くらい前の人々は、腹で物事を考えていた。
質問に答える際も即答ではなく、一カ月かけて熟考して答えるのが普通だった。
主人公はムカついたから、溜飲を下げたのだ。このあたりはよく書けてる。
インターハイ中止を受け、バレー部三年生の四人はリモート通話をし、引退の話が出る。主人公は反対する一月に開催される春の高校バレー全日本バレーボール高等学校選手権大会に出る望みを捨てきれずにいた。
だが、引退せずに続けるのは受験勉強を捨てるのも同義。おまけに推薦で大学に行けるほどの才能もない。
戦わずに引退する現実を受け止めきれず消化不良のままで気持ちも切り替えられず、受験勉強にも身が入らない。そんなとき後輩新キャプテンから、「引退試合をしませんか」とメールが届く。
体育館で行われる引退試合。チームメイトを七人ずつ、二チームに割り振って戦う。三年の私達が全員と組めるように、チームを二回組み替えて三戦。三セットマッチ、デュースありの真剣勝負。
主人公の動きの描写や心情がよく書けている。この夏、どこかの体育館で行われた光景だと読み手に思わせてくれた。
一度しかない短い青春ものを書いてみたいなと思った。
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