【奨励賞】 ロマンチックは冷蔵庫の中、腐っていくのを待つばかり

ロマンチックは冷蔵庫の中、腐っていくのを待つばかり

著・朔 

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895198739


 親の離婚問題をきっかけに叔父で作家のナミくんの家で厄介になる中学生で姪のハルちゃんと、彼の幼馴染の大学生シゲくんとのいびつな家族物語。


 ところどころ首を傾げたくなる表現や凡庸なオノマトペがもったいないけれど、作品の設定や世界観がいい。日常ながら非日常を過ごすこととなったハルちゃんの日々が綴られている。「となりの怪物くん」などの少女漫画が浮かんできた。

 両親の離婚、友人の片思いのすれ違い、同性同士の報われない恋を二万字弱の中に詰め込んでまとめたところは褒めるべきところだろう。

 両親の離婚が決まった三月頭から、ハルちゃんこと茜は、叔父のナミのところで厄介になっている。離婚に参った母親は、しばらく一人で過ごしたいと彼女を叔父に預けたのだ。「父は気性の荒い人で、彼が暴れまわるたびに母は手を焼いていた」ので、茜は母親に引き取られることになったのだろう。

 母親を一人にしておくのは危険、といえる。

 人生の大きな転換点である離婚のストレスは、近親者の死別や病気怪我と同様、非常に強い。不眠や食欲不振、仕事が手につかず、意欲の低下を引き起こす。信頼できる誰かに不安を吐き出させることで、自分の気持ちに気づき、心の整理ができるのだ。

 なので、この対応がクライマックスに結びつく伏線になっている。だからこそ作り手は、主人公を叔父の家に預けるのはわかる。けれども、キャラのとった選択はよくないと思った。

 ナミは、茜の叔父。

 だから、父母の弟もしくは妹の夫。

 くわしく書かれていないが母親がナミのことを冬哉と呼んでいるし、母親のもとにいる茜が預けられているのだから、彼は母親の弟だろう。

 幼馴染に大学生のシゲがいるので、ナミも大学生くらいの年齢と推測される。仮に二十二歳として、中学三年生の娘がいる姉の年齢は少なくとも三十五歳くらいと思える。年の離れた幼馴染もいるし、留年している可能性も考慮に入れても十歳くらい離れていると計算できる。

 二〇二二年四月以降、結婚できるのは男女とも一八歳以上となるため、茜の母親が十六で結婚して出産しているなら、現在三十一歳。ナミが二十二歳なら年の差は九歳になる。

 十歳くらい離れている姉弟は実在するわけなので、彼女の年齢差はそのくらい離れているのでは、と思いながら読んだ。

 依頼で書いたエッセイを書き直せといわれたナミ。「世界で一番愛し合ってる二人でも、心が通じ合ってる二人でも、魂は別々のものだから、二人の精神が溶け合うことはないんだよ。一緒にはなれない。ずっと孤独、ひとりぼっちだ」それがすっごく寂しいことだ、とナミは書いたのだ。

 茜はいつも、ナミの云うことはよくわかっていない。あとで振り返って「本当の意味を実感することが多い」と自覚している。自覚しながら、深く考えようとしていないのが茜の性格なのだろう。

 これまでは大事にならなかったから良かったのだろうけれど、軽率な対応は気づいたときには取り返しのつかないことを招くことは多い。彼女の性格が、作中で問題を起こしている感じがした。

 依頼してきたひとは「きっと孤独じゃないんだね」とハルはナミに答える。彼女の言葉に「大人はそういうのを諦めてるから、受け入れられるし孤独じゃないんだ」とナミは納得する。

 急に入ってきた感のある会話の内容に、作品の核がある気がする。

「おれたちってそんなにひとりぼっちかな」とエッセイを読んだシゲに茜は、ナミの言葉を伝えると納得する。愛し合ってるのに一人ぼっち。それを受け入れても愛せる大人なシゲが好きな相手がナミということを、茜はまだ知らない。

 写真部の副部長である羽鳥に好意を持つ美波。でも羽鳥は茜に好意を持っているらしく、遅れたバレンタインのお返しにカップケーキを渡す。美波の気持ちを知りつつも受け取ってしまった茜は、ナミの家の冷蔵庫に突っ込んだまま食べていない。腐れば捨てられると考える自分に嫌悪を抱く。

 自分からなんとか行動しようとしないタイプの主人公がしているのは、料理を作れないナミにご飯を作ることくらいだ。

 一カ月以上もつづくナミ、シゲ、ハルのいびつな家族生活を楽しみながら同時にハルは、両親に失礼かもしれないと自己嫌悪に陥る。

 家に戻るとやつれた母親と対面。精神上良くないと判断してナミの家に行こうとするも、彼は熟睡中なため、シゲに連絡し、公園で待つことになる。そこに美波から「今すぐ話をしたい」とメッセージが入る。公園に来た美波は、羽鳥に告白して振られたことを茜に話す。羽鳥は茜に好意を抱いているから彼女を振ったのだと思った茜は、彼女に対して罪悪感を抱いて母親の手を掴んで逃げ出す。呼び止める美波の声を振り切って。

 いままで主人公が放置してきたことが、一気に動き出した。

 ナミの家に母親を連れて戻ると、今度はナミとシゲが口論している。

「寂しさを見て見ぬ振りして生きる悲しい大人になりたくない」という大人のナミ。「大人にならないと誰も愛せない」といってナミを愛していると叫ぶシゲ。どれだけ好きになっても一人ぼっち、受け入れられないと答えるシゲ。

 すれ違い、行き違い、平行線。うまく行かない愛たちに茜が泣くのをみて、シゲとナミは抱きしめる。大好きだよ、血はつながっていないけど家族だよと告げて。

 広げたお話の風呂敷は、たたまないといけない。なので、ラストに詰め込んでまとめた感じがしてしまう。

 ナミとシゲのことは二人の問題。

 茜にとって、病んだ母親をどうにかすることが一番大事だ。

 泣きつかれて眠った茜が朝起きると、シゲとナミ、落ち着いた母親がいた。一応の問題は収まったように思えるけれど、茜がなにかしたのかというと、母親を家から連れ出して、二人の前で泣いたくらいだ。

 大学生の二人が、母親の話を聞いて落ち着かせたのだろうか。結婚もしたことのない、年の離れた異性の相手二人がどうやって母親を、ナミにとっては姉を落ち着かせることが出来たのか気になるところだ。

 女性同士なら話やすい。だから、娘がそれをするところなのだろうけど主人公は寝てしまい、翌朝起きると母親は落ち着いているというのは、なんだか拍子抜けだ。

 腐ってしまえと茜が冷蔵庫に入れていたカップケーキは、ナミが食べてしまった。間接的に羽鳥の想いを断ち切ったことになるのかしらん。腐ることを願っていた茜は、羽鳥との恋もそうなってほしいことを願っていたのだろう。

 公園に一人残された美波はその後どうなったのだろう。問題の数々を解決するために茜が奮闘するのがいいのだけれど、そういうキャラではないし枚数も足らなすぎる。少々詰め込みすぎた感がある。

 複雑な設定を組み立てながら、ラスト一気に解決するお話を書いてみたいと思った。

 

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