第32話 変態、修羅場を誘発する
【ロゼ】
「はぁ……はぁ……いい加減にしなさいよセラ。悪いことをしたら、ごめんなさいでしょ……はぁ……はぁ」
修練場に移ったわたしたちはセラの抜けがけを武力で追求。
魔力が枯渇する寸前まで言い争っていたせいで大きく肩で息をしてしまう。
最初こそ、わたしや椿、ルナが結託していたものの、「痴女エルフ」と全員が口にしたことをセラにほじくり出され、ぐちゃぐちゃの乱戦になっていた。
「悪いことってなにかしら……? ここは王立魔術学院よ? 切れる手札は全て使う。魔術師なら当然のことじゃない。私からすれば騙される方が悪いのよ」
こっ、こいつ言うに事欠いて……!
ロゼちゃんの額に青筋がピキピキと入っているのが自分でもわかる。
「セラさん、ひどいですわ! わたくしを侮辱するだけではなく、抜けがけまで!」
ルナが非難する。
セラの反省の色が見えないせいで、わたしは薪を焚べてしまう。
「はぁ〜ん。そういうこと。まあ仕方ないわよね。相手が美の象徴、エルフが相手じゃ敵わないもんね——女として」
「ア”?」
にゃはは! やった、やった! 今度はちゃんと効いたみたいわ! セラに青筋が立った!
セラがセツナの指示を拒否する素振りを見せたのは女の魅力で勝負したら勝てないからでしょ、と挑発してやったわ。
「聞き捨てならないわねロゼ。それを言うなら貴女でしょう?」
「「「——ふっ」」」
あたしの全身を確認したセラ、椿、ルナが同時に鼻で笑う。はい、死刑決定。
魔力の枯渇が近いけれど、わたしは容赦なく三方向に中等光魔術を射出する。
いま、なん
わたしは頬をピクピクさせながら、抗議する。
「言っとくけど、わたしは飛び級でこの学院に入学してんの。あんたらより二歳下なわけ。わかる? 成長期なの!」
「私がロゼと同じ歳にはもう少しあったような気はするな」
「うっさい。脳筋鬼には聞いてないわよ」
「おいロゼ、今のは聞き捨てならないな。誰が脳筋だ? よもや私のことではあるまいな」
見るからに刀を握りしめるチカラが強まる椿。
ははっ、効果的面ね。
『羞恥乱舞』で『心外無刀』を目指す椿にはまだまだ課題が多い。
ちょっとはマシになったとはいえ、未だ剣筋と感情を切り離せていないし、それができたとしても
歳下のわたしから見てもそうなんだから、セツナからすれば赤子をひねるように扱いやすいわよね。
手段こそ変態だけれど『羞恥乱舞』はよく考えられている。悔しいけど素直に関心するわ。
まず下着姿での剣闘。
直線的すぎる椿を矯正するのにこれ以上の修行はないと思う。
椿は剣士で——はしたないことや恥、曲がったことを忌み嫌う鬼。
当然屈辱も相当のはず。
そんな女に下着姿で向かって来いと言われたら剣筋が単調かつ読みやすいものになるのはもはや必然。
魔術師相手に『動揺』はご法度。克服できたとき、椿が得るものはとてつもなく大きい。ハイリスク・ハイリターンの修行ね。
なによりみんなはセツナの本当の恐ろしさに気が付いていない。いや、薄々勘づいてはいるけど目を逸らそうとしているのかな?
あの男の強さは色んな意味での【卑劣】
いちいち癪に触る言葉一つでも武器になっている。
つまりあいつの真骨頂は【誘導】ってこと。
勝利に必要なことを逆算し、段階を洗い出し、それを一つずつ潰していくために必要な状況に誘い、導く。
それは『羞恥乱舞』を観察していればよくわかる。
椿の引き締まった肉体を堪能するようなボディタッチに、感想。
触覚と聴覚を揺さぶっている。
それに釣られているからこそ、その先にあるセツナの先読みの領域に踏み入れることができてない。
必要な状況に誘い、導く。
いい?
いま、この場でこうして醜く言い争っているのはね、ぜーんぶ、セツナの読み通り。掌の中なのよ!!!!
それがわかっていながら避け切れなかったことと相まってロゼちゃんはイライラしてんの!
だからそういう事情を一切理解できていないあんたは——、
「この中で『脳筋』なんて椿以外誰がいるわけ? そんなこともわかってないからセツナに脳筋呼ばわりされるのよ」
「斬る!」
急接近してくる椿を視界の端で追いながら、影に潜り、剣術を回避する。
再び地上に戻ると、なにやらルナがその無駄にバカでかい胸を張りながら、なんか言ってた。
「みなさん。こんな不毛な争いは止めにしなくて? どの道、わたくしたちには奴隷紋が刻まれておりますわ。セツナの言うとおりにするのは癪ですけれど、正々堂々、砂浜で挑んで来てくださいまし——まあ、美の象徴であるエルフのわたくしにはどう足掻いても敵わないのは同情しますけれど」
「「「あ”?」」」
この中で最も女としての偏差値が高いのはわたくし。それは自明の理ですわ、とでも言いたげなルナの宣告にわたしたち三人の喉から驚くほど低い声が出た。
しかもどう足掻いても敵わないを強調しやがったわ。
セツナに褒めてもらおうなんて気は一切ないけれど、女には引けないときがあるのよ。
わたしもよくわかんないけど、ルナのドヤ顔勝利宣言は女の
「ふんっ。乳がデカいだけの女がなにを」
「椿さん、それはどういう意味ですの?」
——バチバチッ!
ルナの黄金の髪が逆立ち、修練場に紫電が疾走する。
ルナの女としての魅力は認めるわ。
最近じゃ、肌の手入れを始めとする美容のことに関して色々と教えてもらってたりもするし。
本人も己の女としての武器を熟知しているし、それを誇ってるのも頷ける。
だからこそこれはルナの特徴ではあるけど、彼女は容姿に関して矜持が高い。
そこを雑に扱われるとルナは機嫌が悪くなる。
「椿。気が合うわね。私も同じことを思っていたのよ」とセラ。
「……へっ、へえ。わたくしに恐れをなして不戦勝を企んでいらっしゃたのはどこのどなたでして?」
「あ?」
「ア⁉︎」
乾坤一擲。
火薬の匂いが充満する修練場。
バチバチと火花を散らし合う眼光。
仲間を出し抜こうとしておきながら一切悪そびれることなく開き直った傲慢な吸血鬼。
頭脳面ではまだまだ残念な脳筋鬼。
己が魅力に長けていると
……ほんっっっっとロクなやつがいないわね! マジで個の象徴みたいなやつばっかりじゃない!
セツナ班【神狩り】にはロクなやつが一人もいないわけ⁉︎
「【黒血術】!!!!」
「【鬼人化】!!!!」
「【雷闘拳】!!!!」
「【天叢雲剣】!!!!」
こうしてわたしたちは延長戦に突入した。
☆
【セツナ】
ぶははははは! だーはははははははっ!
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