第31話 変態、妄想する
【セツナ】
「言い忘れていたが——スケベ下着選手権も開催する予定だ。水着だけでなく、下着も忘れるなよ。俺を興奮させられなかったら——きつーいお仕置きだ」
去り際に言って今度こそ退散する。
ちらっと横目に入った特待生たちの表情ときたら……世界の終わりみたいな絶望顔をしてやんの。ケケケ、いやぁー楽しみだねー合宿。オラ、ワクワクしてきたぞ。
きっと取り残された特待生たちは——。
【ロゼ】
セツナのいなくなった特待生室は静まりかえっていた。
相変わらずというか、やっぱりというか……あいつの言動を読めた試しがないっての。
みんなの表情を横目で確認してみる。
椿は——青白くなっていた。うん、わかるよ、その気持ち。騎士を目指す剣士、それも鬼が男を悦ばせるための下着と水着を着用し、セックスアピールをしなくちゃいけないとか、思考停止するわよね。すごく慰めてあげたい気分。
まさかわたしが他人を励ましてあげたいと思う日が来るなんて思いもよらなかったての。できればもっと違う形が良かった気がすぐけど。深くは考えないようにしよう。
うん。それがいい。
口から魂が抜けていく椿から視線を剥がして、今度はルナに向けてみる。
呆れて、ため息をこぼす姿は本心だと思う。きっとわたしと同じように「相変わらずですわね……」という感想かな。
ただ、彼女の場合は『色違い』、たしか【黒雷】だったわよね?——が会話に出たことで、すでにスイッチが切り替わっているようにも見える。
セツナが悦びそうな下着と水着は——と考え始めている思案顔。
いやいやいや⁉︎ あんた順応性高すぎるでしょ!
ルナの種族はエルフ。女としての魅力は圧倒的。男好きする躰つきはもちろんのこと、どこか幼さを残した容姿だし、ロリ巨乳ってやつね。
なんか癪に触ったわたしはいけないとは思いつつも意地悪を口にしてしまう。
「ルナ……まさかちょっと楽しみにしてない?」
「ふぇっ⁉︎ なっ、なにをおっしゃられているんですのロゼさん! ひどいですわよ⁉︎」
いや、なにその反応。図星じゃん。もうすでにあんたの脳内でファッションショー始まってんじゃん!
セツナの言動を未だ受け止めきれていないわたしとセラ、椿の首がぐりんとルナに向き、
「「「痴女エルフ」」」
「なっ、ななな……! みなさん⁉︎」
「あの鬼畜講師の言われたとおりにしようなんて……見損なったわよルナ」
と、ジト目のセラ。
「ちっ、違いますわ! わたくしはチカラのために仕方なく」
「ふんっ。いくら己のためとはいえ、あの変態を喜ばせようと思案するなど言語道断。ここは特待生全員で拒否すべきだ!」
腕を組み、忌々しげに告げる椿。うわあ、青筋が立ってるわよあんた。どんだけ怒ってんのよ。
「うう〜、ですがセツナのアレは今に始まったことではありませんわ。むしろ一時の恥で『色違い』が手に入るなら——」
「却下よ。いつも
「さすがセラ。話がわかるな」
といつになく早口で捲し立てるセラとそれに賛同を示す椿。
違和感。
わたしはセツナの秘書と特待生の参謀を務めている。おかげでこれまでの他人に興味がなかったのに、観察をせざるをえなくなった。
そのおかげか否か。
最近になってみんなの特徴がちょっとだけわかっている。
まず椿。彼女は真っ直ぐすぎるところがある。セツナほどじゃないにせよ、あたしですら言動を誘導できる自信がある。
特に忌避しているエッチなことに関してならなおのこと。
セラはそんな椿に己の背中を預けるぐらいに信頼し——性格を熟知している。
つまり、この場で水着や下着の件に反対を示せば、最低一人は賛成してくれることは想像に難しくない。
セラのチカラを求める理由は同族の無念を晴らすこと。肉親の殺害。復讐だ。
感情面において最も強いわけで。
なのに、この場に己と同じく『
ふーん。そういうこと。あやうく出し抜かれるところだったわ。
わたし達に背を向けて特待生室をあとにしようとするセラに、
「……ちょっと待ちなさいよ。解散してどこに行く気つもりよ?」
「どういう意味かしら?」
呼び止めると、首だけこちらに向けてくるセラ。見た目こそ冷静を装っているけれど、わたしの目は誤魔化せないわよ。
一呼吸して、核心に迫ることにした。
「別にぃー? 見せつけてやりましょう、とか言ってたくせに自分だけ水着屋ランジェリーショップに直行する気なんだー、とかぜんぜん思ってないから」
「! どっ、どういうことだセラ⁉︎」
「どういうことですのセラさん、ロゼさん⁉︎」
両目を剥いて驚きを隠せない様子の二人。そりゃそうよね。さっきまで特待生一丸となってボイコットする雰囲気だったんだから。
それがよもやセラだけ抜け駆けするつもりなんて夢にも思わないっての。
「……なっ、なにを言っているのかわからないわね」
肩を微かに上下させ、言葉に詰まるセラ。
はい、アウト! 額からうっすら汗が滲み出てるわよあんた!
「逮捕! 現行犯逮捕ぉ! みんな、特待生室からセラを逃しちゃダメ! 自分だけ厳選した下着と水着で抜け駆けするつもりよ!」
抜刀術の構えになる椿と雷を身に纏わせ『逃すまい』と臨戦状態に入る二人。
逃げられないと悟り、諦観したんでしょうね。セラは吸血鬼らしい、黒い笑みを浮かべて白状した。
「ロゼ——あんたみたいな勘の良いメスガキは嫌いよ」
サイテー! 最低だわこいつ! よりにもよって開き直ったわ!
【セツナ】
なーんて、修羅場になってんじゃねえかな? クハハ、揉めろ揉めろ!
そして交渉決裂し醜く特待生同士で、誰が
嫌いな男相手にセックスアピールしなければいけない絶望と葛藤を味わいやがれ!
グハハハ!!!!
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