第9話 変態、宣言する

【セラ】


 侮っていたわ。

 そんな感想を抱いていることに気が付いたのは、変態講師が出現させた円盤と針を目で追っていることを自覚したときだった。


 悔しいけれど手強い。

 認識を改めざるを得なかった。

 もちろん行使する《魔法》は呆れて物も言えないふざけたものばかり。


 けれど手数は決して多くない。むしろ激選されている。

 なにせ彼の戦闘スタイルは極めてシンプル。


《固有領域》で有利な空間に私たちを閉じ込めた後は、パンチラを逃さない目と魔法を喰らうブラジャーを投げ付けて難を逃れる。


 これだけだ。

 それを言語にして理解すればするほど私は術が通らないことにもどかしさと不甲斐なさを覚え始めていた。


 やっていることは最低。

 けれど誰でもできることじゃない。

 ふざけているように見えて超一流の技術が惜しみなく発揮されている。


 現に《黒血術》で雷速に匹敵する高速移動で撹乱しているにも拘らず、傷一つ付けられていないことが何よりの証拠だわ。


 私が本格的に後悔を覚えたのは二分に差しかかろうとした頃。

 私たちが目にしている変態はただ《魔法》を撃ち込めばいいだけの存在ではないことを身をもって知った。


 コンビネーションが必要だった!

 あの男にぎゃふんと言わせるためには。

 あの目とブラジャーを掻い潜るだけの――あの変態の想像を上回るような隠し玉が必要だったの!


 おそらくこの《固有領域》は時間の経過とともに術者にとって有利な状況、環境が出来上がっていく仕組み。

 だから彼はⅣを示すまで術の回避に徹しているのね。 

〝鬼畜度〟なんてふざけたそれがⅣを示したとき――どうなるのか。

 

 私は久々に恐怖を抱いていることを自覚した。


【ロゼ】


 きもい、きもい、きもい、きもい……!

《魔法》をありったけ撃ち続けているにも拘らず、決定打を与えるどころか擦り傷一つ付かない現状が気持ち悪くて仕方がなった。

 なにあれ。マジで気持ち悪いんだけど。

 なんで術や魔法が全然通らないわけ⁉︎

 マジできっっっっしょ⁉︎


 わたしがあの変態に対して本格的に警戒していることを認識したのは円盤と針に視線が向かっていたことを自覚したときだった。


 このわたしが焦っている? 

 ハッ、冗談。笑止なんですけど。あり得なさすぎて草生えるっての。

 けど二分が経とうとする今でも術が通用する気配がない。

 というより、魔法を喰らうブラジャーとか卑怯にもほどがあるんですけど!

 最初は反応できない速さで撃てば魔法無効化マジックキャンセルなんて有ってないようなものだと油断してた。

 けど、あの変態講師は

 全本位からの攻撃じゃまだ足んない。ううん、悔しいけど全然足んない。

 ああもう、きっっっっっっっっしょ、本当にきもいんだけど!


 悪寒を覚えるのと同時に私は恐怖を覚え始めていることを自覚してしまう。

 もしも〝鬼畜度〟がⅣになってしまったら――って。


【椿】


 ありえん。

 なぜ私の剣術が通らないのだ。

 

 下着を見逃さないあの目と魔法を無に還す布切れ。

 さらに死角からの《魔法》を阻止する完全防御。

 

 それらを前にした私が取るべき行動はただ一つ。

 目にも留まらぬ速さで斬る。

 ただそれだけの簡単なことが出来ない自分が情けなくて仕方ない。

 まして私は《鬼術》『鬼人化』を発動しているのだぞ?


 赤鬼一本角の剣術が通用しない相手などこれまで姉さんを始め五指に入るぐらいしかいなかった。


 なにより彼らは雲の上のような存在。

 中には《聖剣姫》もいた。

 彼女たちに通用しないならまだわかる。己の鍛錬や修行が足りていなかっただけのこと。

 けれどあの外道も彼らと肩を並べる存在だというのか……ありえん! 

 あってたまるか! 

 私はこんなところで奴隷になっている時間などないのだ。 

 姉さんの負担を少しでも軽くするために血の滲む努力をしてここまで来た。

 絶対に負けてなどたまるものか!


 下衆の奴隷になるかもしれない焦りを抱いていることを自覚したのは円盤と針を視線で確認しているときだった。


 私は〝鬼畜度〟などというふざけたそれがⅣを指すことを恐れていたのだ。

 

【ルナ】


 意味がわかりませんわ。

 これまで私の術に着いてこられた方は数えられるほどしかいませんでしたもの。

 驚くなという方が無理ですわ。


 大した《魔法》、ましてや《魔術》を一切発動できない講師がセラさんや椿さん、ロゼさんを同時に、それも赤子を扱うようにあやしている。


 憎いと思ったのは〝鬼畜度〟と呼ばれるそれが相当に厄介なことですわね。

 あの忌々しい《魔眼》のせいで大抵の動きには追い付いて来る上、接近し過ぎた場合はスカートをめくって壁際に吹き飛ばして距離を取ってくる。


 遠隔から射撃すればどこからともなくブラジャーを取り出し、魔法を喰らい尽くす。

 取り囲んで死角を狙っても全方位の防御。

 まずいですわね。完全にあの男の掌で踊らされていますわ。

 わたくしがお三方と連携が必要だと思ったのは二分が経とうした頃でした。


 何か仕掛けなければあの男の肌に届くことはないと、はっきりと自覚しましたわ。

 本当に悔しいですけれど、彼は強い。

 そしてあの男の忠告は本当のことだと思い知ることになりましたの。


【セツナ】


「鬼畜度がⅣを示した。これが何を意味するのか今のお前たちなら理解できるな? 

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