第2話 変態、ハンデを与える
訓練場に映った俺たちは《精霊契約》による誓いを済ませて決闘へ。
目の前には試験官を瞬殺した最強の天才美少女が四人。
……あれ?
去年も一昨年もこんな展開じゃなかった?
まっ、自習の自由時間が手に入るならどうでもいいけど。
「よし。それじゃお前らにハンデをくれてやる。一人一回ずつ、どんな魔法でも受け身でいてやろう」
「……私たちをバカにするのも大概にしてもらえるかしら。相手との実力差も分からない人間が講師をしているなんて――どうやら理事長も頭がおかしいのね」
とセラさん。
今にも血管が破裂しそうだ。
「
「……まっ、いいんじゃない? 何を勘違いしたか、雑魚が受け身で待ってやるって言ってんだし。さっさと殺っちゃいなよ」
ロゼが爪に息を吹きかけながら言う。
「誰を愚弄しているのか身を持って思い知るがいいわ」
「へいへい。そういうのはいいから。さっさと来い」
「なんですかその態度は! 私たちは貴重な時間を割いてこの茶番にお付き合いしているのですよ? そんなことも分からなくて?」
今度は金髪巨乳エルフが怒髪天をつくと言わんばかりに吠える。
名前はえーとなんだっけ?
まっ、乳デカでいいか。
「キャンキャンキャンキャンうるせえんだよ。これだからメスガキは。だいたい貴重な時間云々ってのはお前らが口にしていいことじゃねえの。そう思っているのは俺! 俺なの! 本当ならこの時間『月刊サキュバス』を堪能できていたことを忘れんじゃねえぞ!」
ビシッと指を指しながら声高らかに言い放つ。
途端に寄せられる軽蔑の眼差し。
なぜだ……解せぬ。
「もういいわ。お望み通り殺してあげる。興味がないようだから忠告しておくけれど、私は第三位始祖の吸血鬼よ。《結界魔法》『終末世界』」
セラの瞳が真紅色に染まった次の瞬間、決闘場が闇に包まれる。
俺から五感が消失した。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。
何一つ認識できない。
ほう。さすが吸血鬼。
初っ端からお得意の《結界魔法》か。しかも完全に《固有領域》じゃないの。
《固有領域》は術者の脳内を現実に浸食させる結界だ。
外界と遮断されることはもちろん、内側の強度が異常なまでに厚く、打ち破ることは困難。
あらゆる法則も術者が好きに創造することができる。
だから俺はその最強クラスの結界を手を払うことで叩き割ることにした。
もちろん代償を支払ってだが。
刹那、闇に亀裂。
セラの世界はガラス破片が飛び散るようにして終わる。
屈折し、キラキラと反射する残滓。
急いで状況を確認するとセラが口を開いて首筋にかぶりつく寸前である。
うおっ……!
まさか蔑んでいた相手の血を飲み干す気かよ。汚らわしい貴方の血なんて死んでもごめんよ、とか言い出しそうなのに!
そこはちゃんと吸血鬼なのな。
さすがのセラも《固有領域》が破られると思っていなかったのだろう。
目を丸くして驚きを隠しきれない反応だった。勢いもそのまま。隙だらけ。
まだ枯れるわけにはいかない俺は躊躇なく彼女の顔面を蹴りを打ち込む。
女の顔を蹴るなんてサイテー?
アホか。こいつらは早かれ遅かれ戦争に携わるエリート様だ。
顔はもちろん、命を取られる覚悟もないようじゃ話にならない。
容姿に傷が、なんて気にするようじゃ一秒でも早くこの学院を去った方がいい。
俺も早く去りてえ。
蹴り飛ばされたセラはすぐさま体勢を立て直し、バク転しながら後退。
口から流血したそれを雪のように白い手で拭う。
「……なにをしたの?」
「んー? 何って《固有領域》を壊しただけだろ? そんなに驚くことか?」
「ふざけないで! 貴方ごときが打ち破れるはすがないわ!」
「第三位始祖か何か知らねえがあまり思い上がるなよ吸血鬼。一体いつから自分の術が破られないと思い込んでんだよ。傲慢にもほどがあるだろ。はい。まずは一人な。次は誰だー?」
「話はまだ終わって――」
まだ何か言い足りなさそうなセラを無視して呼びかける俺だったが、
――チンッ、と。
刀を鞘に納めた音を耳が拾っていた。
どうやら椿の仕業だった。
俺の元いた地面に末広がりで
《抜刀術》『雷神』
大気すら切断させてしまう脅威の切れ味。刀の名は『雷切』
彼女は鞘と刀身に反発させる磁気力を働かせて抜刀を極限レベルまで加速させた。
その威力は凄まじく『金剛石』で出来た床が紙切れ同然の扱いにまで成り下がるほど。
……マジで殺す気じゃねえか。
いや、そういうつもりで来いって言ったけど! 言ったけどよ!
けど、セラといい椿といい講師を殺すことに躊躇なさ過ぎだろ。
えっ、なに?
女子生徒をちょっといやらしい目で見て自習ばかりしてたら死刑なの?
めちゃくちゃ物騒じゃない?
これだから最近の若いやつは。
「バカな! 躱されただと⁉︎」
どいつもこいつも俺のことを舐め腐りやがって。
ロクな魔法を行使できない俺を下に見てしまう気持ちも分からんでもないが、天才人同時に相手する言ってんだぞ?
もうちょい警戒しろや。
「ちょっと刀を早く抜いたぐらいで勝った気か?」
「なっ……! 私の剣技を愚弄するつもりか!」
「はいはい。沸点低すぎ。乙、乙」
適当に流していると、俺の首に手が伸びてきていた。
お次は肉弾戦ですか。
いや、もう《魔眼》さまさまだな。
最強の視力、反射神経を得られるこの眼がなければ三回は死んでいた。
――パチ、パン、シュッ!
目にも留まらぬ組手の開始。
乳デカは全身に雷を纏うことで全身のツボを刺激し、雷速で容赦なく襲ってくる。
「私はお二人のように甘くはありませんよ?」
「さいですか……」
ぶるんぶるんと激しく上下する乳だけを凝視しながら、なんとなく捌いていく。
うおう、すっげえ。
何食ったらこんなにたわわになんだよ。しょんべん臭いガキに興味ないとはいえ、さすがに目の前でこうも揺らされるとナマ乳をベッドで上下させたくなる。
まっ、教え子には手を出さねえけど。
俺は乳デカを後退させるため、片乳を鷲掴み。それはまさしく至福の感触。ただの脂肪だとわかっていてもついつい握る手が強くなってしまう。
ぐにゅーうっと指が肉に沈み込んでいく。
乳デカは俺の手を払い退けたあと、バチッと空気を弾く音を残して距離を取る。
目には涙をためてキッと睨んできた。
「……レディの胸を鷲掴みなんて講師の風上にも置けませんわ!」
「『迅雷組手』か……悪くはないが、殺気が漏れ過ぎだな。だから嫌な男に乳を揉まれるんだよ。それが嫌なら精進しろ」
講師の首の骨を握り潰そうと迫ってきたんだ。
むしろ、鷲掴みで済んだことに感謝して欲しいね。
さて、最後はロゼか。
どうせ爪を気にしてんだろうなと思って彼女の目を見たのが運の尽き。
俺の下半身は石化していた。
チッ。《魔眼》か。
「……はぁ。何遊んでんの? さっさと終わらせてよ」
さすが魔女。《ゴーゴンの瞳》まで持ってんのか。面倒だな。
と思った次の瞬間には全身が石化してしまう。
「「「終わった……?」」」
「当然でしょ? あんな雑魚にみんな手こずり過ぎだっての。マジ――」
「――ないわー」
「「「「なっ⁉︎」」」」
ロゼの言葉に続くようにして言葉を放つ俺に驚きを隠せない四人。
ふんっと胸にチカラを入れて身体にまとわりついた石を剥がす。
あーあ。おかげで美少女の脱ぎたての下着を何枚か失っちまったじゃねえか。
まっ、どうせ四人は奴隷決定だし、いくらでも補充できるか。
「よーし。チュートリアルは終わりだ。ここからは本番行為だから気を引き締めろよメスガキども。それとまずは採点結果を伝えておくぞ。全員ゼロ点! 不合格だ。今からでも遅くない。退学しろ」
四人の目の色が劇的に変化するのを視認する。
彼女たちのそれには苛立ちと、少しばかりの屈辱が滲み出していた。
おいおい、言っとくが俺はまだ本気を出してないからな?
まあ、なんにせよ声を大にして言いたいのはここからは俺のターンだ。
天狗になってふんぞり返ったお前らに二度とターンは来ない。覚悟しておけよ?
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