王立魔術学院の鬼畜講師

急川回レ

第1話 変態、決闘を申し込む

「いい加減にしてもらえるかしら」

 自習を言い渡した俺――セツナにどうやら文句があったらしい。


 超超超特待生で吸血鬼のセラがお怒りだった。

 さすが王立魔術学院に選ばれた天才。


 全身から溢れる《魔力マナ》の濃さ、量、精度いずれも超一流クラス。


 俺のようなロクに魔法も行使できない教師がなぜ彼女のようなエリートを教える立場にいるのか。

 今でもまったくわからない。

 わかるやつがいたらここに来い。

 そして俺に説明しろ。


 とはいえ、この流れは教壇に立ってから三度目のこと。

 つまり非常勤講師として働き始めて三年目ということである。


 自習に不満がある特待生に不満の俺は「はぁ……」とため息をしてから続ける。


「自習の何が嫌なんだ? 魔法は己と向き合うことで磨かれる。自己研鑽の時間を与えてくれた講師に感謝こそすれ激怒するのは違うんじゃねえか?」


「詭弁はおやめになってください。貴方のやっていることは職務放棄に過ぎませんわ。都合の良い言い訳をしないでくださるかしら」


 今度は金髪エルフの――えっと、名前なんだっけ。

 あっ、そうそうルナだっけか? ――が黄金の河を連想させる金髪を紫電で逆立ちさせながら詰めてくる。

 驚くべき高速移動。

 どうでもいいけどめっちゃ乳揺れてんぞ?


「同感だな」

 今度は椿。物静かな剣士で《剣鬼姫》と呼ばれているらしい。

 どうやら俺と腐れ縁の《聖剣姫》期待のエースだとか。まあどうでもいいけど。


「……ええー。別にいいじゃん。講師が自習にする言っているんだから。むしろ自分より弱い講師の授業とか聞いてられなくない?」


 ネイルグッズを机いっぱいに広げながら主張する魔女のロゼ。

 爪に意識がいっているにも拘らず、この煽りである。幼稚か!


「とにかく職務を真っ当してもらえるかしら? あまりふざけた態度を取っていると理事長に直談判しに行くわよ?」


 吸血鬼らしい紅い眼で睨みつけてくるセラ。理事長に直談判ねえ……。


 お前ごときが訴えたところで何の意味もねえんだよな。

 だって、俺に非常勤講師を言い渡しているのがあの理事長なんだから。


「「「「なっ⁉︎」」」」


 どうやら声に出してしまっていたらしい。剣と魔法において百年に一人の逸材である四人から驚きの声が漏れる。


 後髪を掻きながら俺は言う。

「そんなに辞めさせたいなら《精霊契約》による決闘でもどうだ?」


《精霊契約》は約束を反故にできない絶対遵守の契約だ。

 ぶっちゃけ俺はこの学院を退職したい。

 というか働きたくない。

 なんなら美女に養われたい。毎晩パンパン腰を振っていたい。


 だがあのクソ理事長のせいで報酬に見合わない殺人レベルの業務を振られている。

 教師や講師ってのは教壇に立っている時間よりも、その裏でやっていることの方が大変なわけで。


 俺にとって自習は貴重な自由時間だった。手放したくない。

 というかこいつらだって俺の授業なんて聞きたくないはずだ。


 だからこそ《精霊契約》による決闘で俺を打ち負かしてくれれば、この学院ともおさらば。


 二度と戻ってこなくていい。行きたくても肉体が拒絶するからだ。

 契約を破ったら穴から血が吹き出すし。

 まあ、あの理事長なら引きずり出しかねないけど。いや、鬼かよ。


「へえ、冗談も言えるのね。何一つ特筆すべき点がない貴方が私と決闘。反吐が出るわ」


「おいおい。それはちょっと傲慢でないの? 本当に腕に覚えがあるやつってのは悟られないようにしてるもんだぜ? 能ある鷹は巨根を隠すつうだろ?」


 俺のつまらない冗談に教壇が。セラの仕業だ。どうやら気に食わなかったらしい。


「授業をすっぽかすだけじゃなく、いつもいつもセクハラ。殺すわよ?」


 おっと。マジだ。マジのやつだ。

 女ってのは好きな男に大福のようなとろけた笑みを見せる一方、敵だと認識したら吐瀉物を見るかのような目で刺してくる。


 俺はそっちもいけるクチだが、さすがにここまで殺意を向けられると萎縮してしまう。


「セラさんのおっしゃられる通りです。この際はっきりと申し上げておきますが、貴方の下衆な視線に我々が気付いていないとでも?」

 とルナ。

 拳を胸に当てて言う。


 そんなバカでけえ乳をぶら下げておいてよく言うぜ。見たくなくても勝手に視線がいっちまうんだよ。

 男ってのはバカで乳が揺れてたら鷹の目になっちまうの。そんなこともわからねえのか。


「セラ、どけ。もういい。ここで斬る」

 チャキと甲高い音が響いたかと思ったら、俺の首があったところに斬撃が放たれる。


 危機一髪。

 腰を落として躱した俺は拍手をしながら椿を褒める。


「すげえな。躊躇なく講師の首を跳ねようとするなんて普通は出来ねえぞ?」


 それは刹那の一閃とでも表現すればいいだろうか。目にも留まらぬ抜刀術。


 

 無理無理。あんなの躱せやしねえよ。速すぎだろ。


「……チッ。目は利くのか」

 悔しそうに舌打ちする椿。

 言葉数が少なく、感情を滅多に見せない彼女が悔しがっていた。

 どうやら俺の怠慢は相当腹に来ているらしい。


「いいわ。火付け役は私だし《精霊契約》による決闘を申し込むわ。それでいいでしょう?」

 セラは特待生全員に視線で確認を取る。

 どうやらルナ、椿、ロゼは賛成のようだった。


「おいおい何勝手に話を進めてやがる」


「なに? 自分から言い出しておいて怖気ついたわけ? いいわ。なんならハンデをつけてあげる。あんたも仕事がかかっているんだし、それぐらい――」


「――いやいや。だからなんでお前だけと決闘することが前提なんだよ。俺に文句があるのはこの場にいる全員が一致してんだろ? 全員まとめてかかってこい。その代わり天才だ、最強だと持て囃されてこの学院に入学した四人を同時に相手にするんだ。俺がお前らを下した場合は奴隷になってもらうからな」


「「「「⁉︎」」」」


 ぶっちゃけ性をつけたいところなんだが、さすがに教え子に手を出すわけにはいかないからな。


 手を出すのは本当に働くのが嫌になったときにしよう。

 捕まったあと「働きたくなくて檻に入りたかったんです」と主張すればそれなりに同情も寄せてもらえるはず。


 口喧しいこいつらを奴隷にすれば授業をしなくて済むし、なんなら講師の仕事を押し付けることもできる。

 相変わらず天才だな俺。頭の使い方が上手過ぎる。


 どうやら彼女たちはこれまで挫折を味わったことがないんだろう。

 見るからにカチンと来ていた。

 そりゃ格下だと思っている相手からまとめてかかってこいよ。奴隷にしてやるから、なんて言われれば当然か。


 なにより最高峰の魔術学院に超超超特待生として入学してんだもんな。

 無意識に人を見下しちまってんだろうよ。


 自分だけが特別だなんて思い上がるなよメスガキども。

 たとえ魔法がロクに使えなくたって己と向かい合い続けることで磨き上げられるってことを俺が証明してやるよ。


「いっ、いいでしょう……その代わり一つだけ忠告しておくわ。死んでも責任は取らないから」


「ああ。殺すつもりで来いよ。たぶんお前らは俺に擦り傷一つ付けられねえし」


 ここぞとばかりに煽っておく。

 なんにせよこれで今年も勝ち確〜! 

 自由時間ゲットだぜ!

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