第15話 変化-3
「…眠ってた」
あたしは回復が終わると同時に眠りにつき、その時に前のめりに倒れていたようだ。当然だが意識もなくし、魔物が残っていたなら殺されていたことだろう。
しかし今生きている。ということはオーガの最期っ屁があれだったと考えるのが自然だ。
「階段は……ある。閉じ込められたわけではないみたい」
周囲の状況を確認する。広間にオーガの死体が十数体あり、広間の外側には上り階段と下り階段が一つずつ。そして近くに大剣が一本と這いずってきていたオーガの死体が一つ。変わってなくて何よりだ。
次にあたしの現状だけど……侵食が進んだのは確実みたいだ。
「髪は明らかに長くなってるし、身長も少し縮んだな。肩幅も華奢になってきてる」
まるで女みたいな体つきに近づいてきている。おそらく奴のいう「可愛い」というのは「女らしい」に近い感性なのだろう。それ以外ならこんな身体の変わり方はしない。
「声は……まだそこまで変わってない。確認に時間かかるのは仕方ないけど、鏡でも欲しいところだな」
その言葉に反応したかのように、上る階段の横壁が急に崩れた。一瞬上り階段そのものが崩れたかと慌てたが、そうではないことに安堵する。
だが崩落したところを見てあたしは溜息をついた。あれを見てやはりここはヤギのテリトリーだと理解できてしまったからだ。
崩落した壁の一面がただの岩壁だったのが鏡張りになった。それがさっきのあたしの言葉からくるものなのは明白だった。
「やっぱり監視されてるか。むしろそれが分かったことが収穫かもしれないな」
上り階段に一歩踏み出し、今のあたしの容姿を確認する。
パチリとした目、整った顔立ち、サラサラとした長い黒髪は艶めいており、女性寄りの中性というような顔だ。
さらに170はあった身長は160くらいには小さくなっており、仮に女性の僧侶だと言っても理解されることだろう。
だが体つきは男性に近いままだ。華奢になったのは間違いないが、筋肉の付き方はそこまで変わった様子はない。
言い換えると既に外見は奴のいう「可愛い」に近づいてきているのだろう。まずは外からくる情報を埋め、その後に内部に進行する。攻め方が合理的であるがゆえに被害を被る側のあたしはイラつきが収まらない。
しかし容姿を確認したことで次の侵食が予想できる。体つきを女性に近づけるのだろう。筋肉全体の付き方を変え、ないはずのものをつけて、そしてその後に性格を変えるといったところか。
となると既にほぼ後はない。筋肉全体が変われば動きが変わり、今の戦闘の動きができなくなる。一回使えばその後の戦闘はジリ貧になるのは目に見えてる。
「というかあと何回戦闘すればいいんだ……?」
現状が3回。10回ともなれば綱渡りが過ぎる。それよりも多いともなると……先が見えない戦闘回数になる。しかも全て全力戦闘ともなれば先に参るのは間違いなくこちらだ。強化魔術に手を伸ばして奴の罠に嵌るのは一瞬だろう。
「次が終わりだといいんだけど」
はぁと溜息をついて階段を上っていく。鏡一面に映る自分の姿が本来の自分ではないことに違和感があるだけまだ大丈夫と思える。この違和感が無くなった時が侵食が末期な時だろう。
そして階段を上りきった先にいたのは、先ほどまでの魔物とは桁違いの魔物だった。当然、視界に入れた瞬間座り込み、偵察する斥候のように身長に敵を見据える。
「ドラゴン……!」
広間にあったのは、寝静まっているドラゴンの姿だった。
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