第13話 変化-2 & 冒険者ジルク-9

「はぁ……はぁ……」


階段の途中まで下りてきたところで息を整える。生命力は既にギリギリだったことを考えると完璧なタイミングだと言えるだろう。

あの時に回復魔術を使って疲労を消したとしても問題は生命力だったからどうしようもなかった。もう少しグループが減るタイミングが早ければ生命力消費も抑えられたのだが……。


回復魔術を使い衝突したときのダメージや傷を治していく。疲労も打ち消し、後は時間経過による生命力と魔力の回復を待つだけだ。


そして問題となるのはこの行動の結果だ。

髪を触り、長さや髪質を確認する。そしてその結果とは―


「―少し長くなってる。少しだけだけど、やはり影響あるのか」


髪だけかと思えばそんなことはない。どこか首元がするっとしたような……肩幅か?、その辺りが縮まったような気がする。

服がだぼだぼになって使えなくなったようなわけではないが、ほんの少し動きづらくなっているのは否定できない。戦闘には支障ないが、感性侵食が進んだと見ていいだろう。


「侵食速度はどっちもどっち。……いや、強化の方が速い?」


正直なところは分からない。どっちも変わらないようにも思える。違いが出てくるようなことがあるとすれば……強化がどの程度のものだったかという点くらいか。

ミノタウロス戦の強化はかなり強いものだった。消費という意味なら今回の緊急回避と同等以上だろう。

つまり身体強化を弱めて使えば侵食を遅くすることは可能であるかもしれない。


「最後の手だな」


だがあくまで遅くするだけだ。侵食を進ませることになるのは間違いない。ならば使うのは使わなければならない状況だけだ。


一時間ほどして生命力と魔力を全回復させる。身体の変わったところを細部まで確認していたらいつの間にかその程度の時間が経っていた。


変わったのは全体的に華奢になったといったところだろうか。感覚を研ぎ澄まして戦う冒険者でないと気づかないほどの箇所すらあった。

だが身体の重さが変わったわけではない。身体の密度が高まったと言うべきだろう。そういう意味では戦いやすくもなっている面はある。


「あとは殲滅するだけだな」


生命力が全回復した以上、あとは全力で身体強化を使って戦い、倒し切るだけだ。既に半分は減らしている。簡単な作業だ。


階段を上るとオーガたちは俺が撤退したときと同じ数いた。どうやら増えたりはしなかったらしい。

さらに広間に入るときの奇襲もなく、戦いの咆哮もなかった。どうやらさっきまで戦っていた敵だと

分かっているらしい。


のっそりと立ち上がるオーガたち。グループを作ることもなくまばらに向かってきた。


さっきまでの戦闘とは戦術がないことに少し落胆と安堵したが、すぐさまそれに気づいて警戒心を元のレベルに戻す。


「こいつら…」


さっきまでとの違い、それは全員が大剣を持っていること。

大剣を振るうならある程度距離が必要だ。それが分かっているからまばらに向かってきているのだろう。

しかも大剣を見た感じ、さっきの戦闘から研いでいる。吹き飛ばして衝撃により体力を減らすことよりも傷つけて殺すことに特化させたようだ。

そうなるとこちらも戦い方が変わる。


そっちの方が助かるという方向に。


「ォォォ!」

「ふっ!」


大剣を半歩分避け、避け様に腕を切り落とす。そして狼狽えたところを首を切り落とす。今の落ち着いた状況で、身体強化がこれだけ使えるなら一息の間にそれができる。


厄介だったのはあくまで範囲で圧し潰す質量だった。攻撃の嵐なら動きさえ読めれば避けきれる。近接もできるベテラン冒険者なら誰だってできることだ。


そうして残っていたオーガの半数程を斬ったところで、オーガたちの動きが変わった。死んだオーガから大剣を拾い、二刀を扱って襲ってきた。


「そっちの方が楽だ」


オーガは長生きしている個体なら武器の技術を持っていることはある。だが全て戦い方を一つだけだ。一個体に付き大剣なら大剣だけ、ハンマーならハンマーだけの技術だ。故に大剣だけを扱ってたオーガが、大剣二刀を技術的に扱うことはできない。

できるのは振り回すだけだ。


それならと防御魔術を展開して一体の攻撃を受け止め、弾いたところで足や腕、首を切り落とす。それを繰り返し、全てのオーガを討伐していった。


「数が減ってからは簡単だったな」


息も上がらなかった。一体一体もそれなりに強いオーガだったが、生命力強化ができるようになり魔術は別に扱える今の俺なら苦労はしない。


戦いが終わったのだと示すかのように、広間の一角が崩れ階段が現れる。前の階層までは休憩してからだったが、余力があるならさっさと行けということだろうか。


「まぁ様子見はしたいか」


身体強化を切り階段へと身体を向けた瞬間、俺の腹を大剣の刃が貫いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る