第12話 冒険者ジルク-8
強化を済ませ広間に入った俺に直情からオーガが降ってきた。当然あると予想していた俺は横に一歩身体をずらして振り下ろしてきたこん棒を避け、返しに短剣で首を落とした。
これだけ近ければ一撃で落とすことは難しくはない。一対一で動きが分かっていればこれくらいは簡単だ。
死んだオーガの血の匂いに気づいたのか、広間にいたオーガたちは俺の方をへと視線を一斉に向けた。
「「「グォォォォォォ!!!」」」
「ぐっ」
30体以上にもなるオーガたちの群れからの咆哮が広間全体に響き渡る。その声は反響しジルクの身体そのものにも振動が響く程だった。
だがジルクが目にしたのはさらなる驚愕の光景。
「これは予想してなかったな。戦略すら立てるのか」
盾だけを持つオーガと大剣だけを持つオーガが二体一組になってこちらに二組襲ってきた。盾持ちが
先行しておりこちらの攻撃はまるで通りそうにない。
さらに中心には未だに叫び声を上げているものもいる。考えなしのオーガとは考えられない戦い方だ。
当然、予定していた戦術は汲みなおす必要がある。だがそんな時間はない、一度対応してからのはなしになる。
「だがこれならまだ何とかなるな」
盾持ち二体によって視界が閉ざされる。その前に一体の盾の逆側面へと踏み込み同時に盾を持っていない手を切り落とす。
俺の動きを見ていたのか大剣が落とされてくるが側面に斬撃を奮い、盾持ちの背中へと大剣の方向を変える。
「グォォ!?」
そして俺は狼狽している盾持ちの盾を首に短剣を届かせ、切り落とした。
もう片方の盾持ちの拳と大剣が振るわれるも、横っ飛びすることで回避して一度集団と間合いをとる。
「まず一体」
「グォォォ!!」
間合いをとったが盾のいなくなった大剣持ちが素手になって追ってきた。チラリと後ろを見ると大剣を他のオーガに渡しているもう一組のオーガがいた。
「捨て駒の概念すらあるのか」
大振りの拳をオーガの側面に入り込むように避け、背後に回り込むように短剣で首を切り落とす。流石にオーガと言えど首を落とされたら回復はできない。
これで二体を仕留めたが、オーガたちは戦い方を変えるようだ。ここまでを俺のことを探るような戦闘だとすれば、ここからが俺を倒す戦闘になるのだろう。
「ふぅ……。よし、来やがれ。全員ぶっ殺してやる!!」
俺は気合を入れ直すために叫ぶ。
オーガも応えるように咆哮を上げる。そして一つの集団が5体程ずつに分かれそれぞれが塊となってこちらに向かってきた。
それからはかなりの長期戦になった。
本来なら特攻のつもりで突っ込む予定だった俺はオーガたちの行動に考えを改め、長期戦のための戦術に切り替えた。
切りつけても無駄と言わんばかりの一つの肉塊になりただ押し潰す。たったそれだけの戦術だが余りにも効果覿面が過ぎた。
こちらは小柄な身体一つ、それをオーガたちは巨体を利用し少しでも押して体勢を崩そうとしてきた。少しでも体勢が崩れば後列が波状攻撃をしかける。そんな戦術であるが故に、俺は逃げ回りつつ後列と距離が離れた時に少しずつ切りつけることしかできなかった。
防御魔術も一度試したが展開した瞬間に大剣を振り回す個体によって壊されてしまった。すぐさま避けたために問題なかったが、防御が効かないとなったために逃げ回り続ける現状だ。
だが単に押され続けただけではない。数匹だがオーガを倒してもいる。集団が分かれ、回復する隙がなかったことが原因だ。5匹で1グループとしたところの、2匹が死んだらすぐさま別のグループに合流してさらに肉塊を大きくしてくる。初めは7グループほどだったが既に4グループまで減っていた。
代わりにグループが大きくなり攻撃する隙が減ったのも事実だ。
「はぁ……はぁ……」
息切れがひどい。せめてもう少し、せめて半分は減らしておきたい。本来ここまで戦術的なら即座の撤退が正しいが今回はそうもいかない。撤退したところで後の戦力がないのだから当然だ。
だがここまで逃げ回りつづけたおかげでようやく弱点を見つけた。壁際まで追い詰められた時、壁を蹴って横っ飛びして回避した時、完全にやつらは見失っていた。あれは視界から即座に消えたからであったろうが、後ろにいた集団も見失っていたのだ。
やつらの今の目は、一つになっている。正確にはグループごとに一つになれる、といったところか?。
となればグループ内に入り込めれば一匹ずつ掻っ切れる。だがグループ内は密度がひどいために自殺行為にも近い。身体強化を強めないと難しいだろう。
「つまり…元々考えてた短期決戦を4回すればいいだけか」
生命力の消費は既に半分を切っている。使い切れば立つこともできなくなるが、やるしかない。
「行くぞ」
「「「ォォォ!!!」」」
押し寄せるオーガの一グループへと突っ込む。肉塊となっているオーガと衝突しかなりの衝撃が身体を走る。だが身体強化を拳で首を千切れるほどに強化し、無理やり突破する。
「ォォ!?」
グループの壁が突破されたことに動転したのか、俺が突っ込んだグループのオーガが狼狽えてグループが崩れた。
チャンスだ。
「おらぁぁぁ!」
一匹、二匹と近寄って首を切っていく。5匹目まで首を落としたところでグループを崩したオーガたちが背を向けて他のグループへと合流しようと近寄っていく。
「逃がさん」
一匹に狙いを定め、背後から足を切り落とす。そして歩けなくなったところで返す刀のもう一振りで首を落とした。
一匹倒し切れなかったが、グループは一つ崩した。ようやく戦局が変わると確信した。
オーガの他グループは何も変わらずにこちらに向かってきている。だが少し歩みが遅くなり、グループ同士の近さがかなり近づいていた。後列からのサポートを早めるためだろう。
「それが…どうした」
歩が遅くなったというのはこちらからすれば好都合だ。さっきのグループとの衝突はかなり身体にキたものがあった。だがあればあちらもかなりの速度で動いていたからだ。
遅くなれば衝突は弱まるのは必然。こちらの勢いが早まるだけだ。
向かってきていたもう一つのグループへと突っ込む。さっきと同じ要領で中から崩して殺し切る…つもりだった。
「「「ォォォ!」」」
「ぐぅぅ」
グループ内部に入り込み、さらに入りざまに一匹切り落とす。そこまではよかった。
「なっ!?」
姿勢を低くして向けられた攻撃を避ける。集団にいるところで振るわれないと予想していた攻撃だったが故にここまできた勢いがかなり削がれる。
バックステップし、近くにいる狼狽えていた二匹のオーガの首を落としグループの外に出る。外から見たさっきまでの場所は、死屍累々というありさまになっていた。
一体を除いて、だ。
「……大剣を振り切った」
残っているオーガがやったのはそういうことだ。グループの中で放ったために他のオーガも切ることになるのだが、それを承知で放った一撃だった。
だが俺を見つけて攻撃したわけではなく、タイミングだけ合わせた一撃だったのだろう。大剣を振るったオーガ以外が死んでいるということは二撃三撃と放ったのだろうが、俺は見ていないところだ。
「はぁ……。……くそっ」
緊急回避にもかなり身体強化を使っている。もう残りはわずかであり、戦術を変えてくるオーガたちに対処するのは不可能と判断するには妥当だった。
上がってきた階段の方へと逃げるように疾走する。オーガたちはその行動が分かっていたが、速度が追いつかないと判断したのか途中から向かってくる様子はなくなっていた。
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