第11話 冒険者ジルク-7

「笑えない」


階段を登り切る直前、視界に映ったものが信じられないものだった。思わずしゃがみ、見えた者の視界に入らないようにしたくらいだ。


見間違いでなければオーガが……30体以上。奇襲があることも想定するなら40体は超えるだろう。ミノタウロスほど強くはないがBクラス最下位程度には強く、範囲攻撃を持たない者に対して数の暴力は致命的過ぎる。


一体一体地道に削る以外に方法はない。となると長期戦になるのは確実だ。


長期戦が確実とするなら戦術を考える必要がある。一対一なら身体強化が互角以上でなければ戦いにならないため、これまでその必要はなかった。


俺の使える手段は三つ、生命力による身体強化、防御魔術、回復魔術だ。

身体強化を使った短剣の斬撃ならオーガの片手を切り落とすくらいは確実にできる。

防御魔術はオーガ3,4体が一方から攻撃するくらいなら防御魔術の魔力障壁で守り切れる。

回復魔術は腕がちぎれてもくっつけるくらいは可能だ。疲労も多少回復できる。


これらから戦術は二つ考えられる。

一つはオーガの集団を広間の中心から動かさせないように外側を回るように移動を続け、近づいたものだけを切る。それを延々と続けることで全て倒し切る。

もう一つは回復魔術を使い続けてオーガの集団内部に特攻。やつらは同士打ちせざるを得ないため素手で掴んで拘束する動きをするだろうから、身体強化を全力で使って短期決戦にする。こちらは数が多いためかなり博打になる。そうなった場合は一度撤退するのもありとは思うが……、撤退が可能なのだろうか?。


「撤退を試すにはデメリットが未知過ぎる。けど前者は不可能だ」


オーガの厄介なところは膂力や武器技術もだが、回復能力が高いこともあるのだ。仮に腕を切り落としたとしても、くっつければ数分もせずに回復しきるだろう。

そしてあのオーガの集団が傷を負ったから別のオーガを差し向けるという知性を持っていると考えた方が良さそうだ。拳を奮ってきたミノタウロスに、奇襲をしかけるサキュバス。どちらも想定外の一手だったのだから。


「実質的に一手だけ。撤退を考えにいれれば勝ち目はあるが……」


オーガの数を半分ほどまで減らして一度階段下に撤退。そして再度突っ込めば倒し切れるだろう。元の数に戻らなければの話だが。


だが直感が止めた方がいいと警告を鳴らしている。撤退がペナルティとなって感性侵食が進む可能性は全く否定できないからだろう。


「どうする……?」


撤退したときの侵食と魔術による身体強化したときの感性侵食、どちらが深刻なのかは検討もつかない。第一前者は確かめてすらいないのだから当然だ。

魔術身体強化を使えば間違いなく勝てる。一度の撤退でも勝ち目は十分にあるだろう。どちらも感性侵食が進むことに目を瞑れば……。


「未知こそが一番の迷いの原因か」


立ち上がって未知へと踏み込む覚悟を決める。

撤退も視野にいれ、全力で戦闘を行う。それが俺の選んだ選択だった。

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