第10話 冒険者ジルク-6
「これが助けてくれたんだな」
昔ローズがくれた右腕の腕輪にひびが入っており、込められていた魔力がなくなっていた。
これまで気づくことはなかったが、状態異常に対する防御魔術が込められていたみたいだ。間接的にローズに助けられたことは俺を奮い立たせるには十分だった。
しかも生命力が多分に増えている。使わなかったものを使い始めて錆が落ちたとか、そんなものじゃない。
生命力を一度にどれだけ使えるかは意志……というより己がもつ信念に非常に影響されやすいとされる。人間の国では教会の狂信者たちが扱っていると聞いたことがある。信じる力が何より強い人からすればこれ以上ない親和性があると言えるだろう。
さっきサキュバスを倒した時の感情の爆発。それがきっかけだろう。一気に強化効率が上昇し、いつも使っている魔力強化と大差ないほどまでに向上した。
だが一度に使える生命力が増えたということは、疲労も同様に溜まることになる。
「ぐっ」
全身から汗が吹き出し、俺は膝をついた。魔力を全力で使った時と似たような状態だ。使い慣れていない生命力なのだからこれくらいの疲労はあると予想はしていた。
だが問題はない。これはいつもの全力戦闘に近いことを行っただけなのだから。
「……よし」
髪に手を当て、変わっていないことを確認する。長さも質も変わっていない。それが意味するのは生命力による身体強化なら問題なく進めるということだ。
休憩しながら腕輪を眺めていると、ふと気づく。
「これに防御魔術込めれば対応しやすくなるか?」
可能性は十分にある。一度込められていた魔力が無くなっているのだから、もう一度魔力を込めれば使えるようになるかもしれない。
使えないのはおそらく強化魔術だけだ。使い慣れていないようなものに罠を張るなんて真似をしてもさして効率はよくないし、大した結果は得られない。もし俺が奴のように罠を張るならきっとそうするだろう。
「よし」
防御魔術を展開し、腕輪の内部に染みこませるように魔力を流していく。かなり難しく、専門の魔術師もいるような魔力操作技術だが、俺はできる。簡単なものに限るが。
「一度、ミノタウロスの拳を防ぐくらいか。過信はできないな」
上手くいった。だがそこまでいいものではない。
そもそも防御魔術の性能は自身の魔力操作技術に依存する。効率が極まっている者なら火山の噴火にすら耐えると言われるが、冒険者は指定されたランクと同等の魔物の攻撃を防げるくらいだ。
俺で言えばBクラス。きちんと防御魔術を展開してもミノタウロスの攻撃を多少防げるくらいのものなのだ。
そんな俺が拙い魔力操作で腕輪に魔術を込め、それで一回防げるというのはかなり破格な結果だった。もっとも、そうなった理由に見当は付く。
「ローズの腕輪。これかなりいいものなんだな」
それしか考えられない。ミスリルやさらに上位の魔鉄は魔力親和性が非常に高い。言い換えると魔術を込めやすいと言っていい。拙い魔力操作がうまくいったと考えるよりもそっちの方がよっぽど信じられることだ。
さらに休憩すること十数分。立ち上がった俺を待っていたかのように広間の壁の一角が崩れ落ちる。そこにはミノタウロスを倒した時と同じように上り階段があった。
「連戦はきついな……。けど、一人じゃない」
魔力が再び込められた腕輪がキラリと光った。
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