六法全書――雪國的な

 神社の石段には、雪がこんもりと積もっていた。


 葉のない樹木の枝が、交叉こうさしあいながら闇を封じている。この樹木たちは、秋までは息吹きを見せていたはずだが、いまは、冬の寒冷に窒息させられている。


「お兄さん、登るのがはやいです。エチケット違反ですよ……」

「六法全書にのっていない罪は、罪ではない」


「うわ……そういう返し、キモいです。幹人みきとくんみたいに、もっとバカっぽいことを言ってください」

「バカって……彼氏だろう?」


 身内をけなされたのぼるは、少し不愉快な気分になったが、もしかしたら幹人は、雪水ゆきみに対して、多大な不快感を与え続けてきたのかもしれないと、ムキになって言い返せなかった。


 いつのまにか、冷ややかな月が、しっかりと顔をみせて、月光を優しくおとして、この村をほんのりとあかるくしていた。


「退屈しのぎの彼氏です」

「なんだそれ。僕の前で言うことか」


「でも、しのげない退屈は、私を苦しめてしまいますから……」

「まあ、いいや。僕は、いまは僕ではないんだから。本当に馬鹿らしい。なんだって、こんな意味がわからないことをしているんだろう。のときなら、まっぴらごめんだ」


 こごえた風は、まだ、ときおり、ふきすさぶ。そして、どこかへと消えていく。

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