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 佛田ふつだは、この問題がなんの複雑さもはらんでいないと思っていた。つまり、仕事を続けたいと親に言えば解決するのだ。


 これは、彼女自身が、言い付けを守らなければ、親に申し訳ないと思い込んで、自滅しようとしているのだ。たぶん、とても親をいているのだ。



《一般的に、もしくは、普遍的に、そうであるとは言えないけれど、親というのは、子どもになにかを提案するとき、子どもが、自分たちを裏ぎった答えを出してくれることを望むし、その裏ぎった答えこそ、本当にほしい答えなのだと思う》


《親と他人との違いは、親子においては、論理的、合理的な関係は結べず、なにより、親子のあいだのいさかいというものは、法律を適用しようにも、検察も弁護士も裁判所も不要なまま、和解してしまうものだ。だから、この問題でなにかがこじれたとしても、どこかで落としどころが生まれるだろうから、恐れず、腹を割って話せばいい》


《親子関係について、ぼくが語る資格はまったくないけれど、いまとなっては、そういうことだったと思う。そのひとには、ぼくのような失敗をしてほしくないと思う》


《姉さん、いずれ、嬉しい報告ができると思う。それは、ぼくにとって嬉しいことであって、ほかの家族にとっては忌々いまいましいことだと思うけれど。ただ、その時がきたら、姉さんに頼みたいこと、調整してほしいことがたくさんある》



 佛田は、そのようなことを素直に書いた。




 佛田は、もう一度、窓を開けた。内側から、熱がこもってきたのだ。ひんやりとした夜風が、もともと太陽があったところから吹いてきて、心地よかった。

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