huit
もう夕陽は落ちて、次の大地を輝かせに行ってしまった。そして、そのあとを追うように、この街に、夜が訪れた。
ノックの音で、佛田は、目を覚ました。
彼は、二通の手紙が来ていることを、佛田に告げた。
そして悲しそうに、この宿には、もう佛田しかいないのだと言った。こんな大学から遠い、古びた、
佛田は半開きの窓を閉めた。机の引き出しからハサミを取り出して、まずは《少女》からの手紙を開封した。あれから何日、経ったのか。それでも、メモ用紙に書かれた住所には手紙が届いた。裏側に、小さく書いた住所。少女は、気づいてくれたのだ。
綺麗な美しい字で、あまりにも達筆なものだから、佛田はすんなり読むことができなかったが、それは、デートの誘い文句だった。しかし、まわりくどいものだった。
《日が傾くと、世界は一変してしまうのね。わたしたちが世界を見る、その視線が、まるっきり変わってしまう。でも、あなたの姿が暗がりに溶けそうでも、ふれたときの感触は変わらないのね。――――Halfner, Eggestein, "univers", 1969, p. 65.》
そして、少女は、日時と場所だけを記していた。
《返信は不要です。わかっているでしょうけれど》
手紙で返信なんてしたら、あの父親に見られる可能性があるのだから、指定された日時にその場所に行くしかない。
カレンダーを見ると、日本ではお盆らしい。しかし、佛田は先祖ではないのだから、家に帰る必要なんてない。そもそも、佛田にとって、そこに帰るためには、相当な覚悟が必要だ。
そして、もう一通の手紙は、佛田の実家に、彼の空いた穴を埋めるかのように招かれた、義姉からのものであった。
定期的に来るのだ。佛田を心配してくれているのだろう。
そこには、義姉の後輩の話が連ねられていた。
その後輩――彼女は、仕事をやめて家庭に入れと親に言われているらしい。そして、そこでふたつの問題が生じた。
ひとつは、彼女がいまの仕事を捨てたくないと強く思っていること。
もうひとつは、家庭に入るとしたら、父の親戚の知り合いの男と結婚させられるかもしれず、なにより、そこには権力関係が絡んでいて、断りづらく、望まない結婚になりそうだとのこと。
義姉は、佛田になにかしらの解答を求めていた。
佛田は、そこに、義姉の巧い意図が含まれていることを、察することができなかった。いまは、眼の前の恋しか見えていないのだから。
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