trois
横手に広がる、どこまでも続くかのような一面の
陽の光が斜めに切り取られて、廊下には夏の日陰ができていた。
水色の空には、
長椅子のひとつに、黒色のセーターを着た少女が座っている。夏にする
佛田は、苦笑をした。
「その本は陽に当てると消えてしまわないだろうか」
少女は視線を上げた。そして、ごく自然に隣に座る佛田を
「あなたは、なんで、そんな気取ったことしか言えないのかしら?」
「その本に書いてあるからだよ。月は陽に当てるとどうなるのだろう、消えてしまうのではなかろうかって。だれの
「まだ、そこまで読んでいませんよ」
「でも、いずれは読まなければならないよね」
「いいです……もう読まないですから。つまらない本でした。みんな、あなたのような言葉づかいをしていて」
少女は立ち上がった。
夏の陽は、少女の背中を照らして、その陰を、少女の目の前に伸ばしていく。
「もうあなたには会わないと思っていたけど、なにかの宿命かのように、わたしの前に現れますね」
「それは僕だって同じさ。僕はなにかしらの恩恵を――」
「わたしは神様と結婚したのですから」
「……そう」
佛田は、この少女にありきたりな「世紀末の憂鬱」を感じることはなかった。ただ、奇跡の起きた場所を、その二日後に見ているような憂鬱が、少女に付きまとっているような気がしていた。
「神様は、私に進むべき道を教えてくれます。その道を歩いていれば、いずれ救済の手が、私に差し伸べられるに決まっていますから」
佛田は空を見上げた。そこには、
「あなたは、自由に生きることに意味を見出していそうね。そんな気がする」
「僕だって、僕なりの規範があるよ。なんらかの不自由がないと、ひとは生きてられない。どこへ進むべきかがわからなくなる。どこでも進んでいいと言われたら、いくじがなくなってしまうよ。だから――」
「だから、神様が指し示す道でしょう?」
「違うさ。進む道なんてあとから決めればいい。まずは、目的地が必要なのさ。目的地からここまで、道を引けばいいのさ」
「救済こそが、その目的地です」
「救済は標識だと思うよ。その先に、きみが大事にすべきなにかが、間違いなくあるよ」
少女は、なんだかおかしくなった。
同じモチーフを見ているはずなのに、同じ位置にイーゼルを置いていないから、こんな会話になってしまうのだ。
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