二
胃もたれと胸焼けはするが、幸いにも頭は妙に涼やかでクリアだ。
なんとも不自由な身の上の今の僕であるが、僕には一つ、特殊な能力と呼べるものがある……それを使えば、完全には特定できないながらも、落とし物が現在ある場所の手がかりを知ることができるのだ。
そこは、どうやら昼間でも真っ暗らで、そして、やけにひんやりとしている場所らしい……また、とても静かで、時折、ブーン…という低く唸るような機械音が聞こえるくらいである。
その条件にふと思いついたのが、駅の〝お忘れ物預り所〟だ。
飲んだ繁華街から家まではけっこうな距離があり、その間はいつも電車を使っているので、やはり昨夜も電車で帰って来たんだと思う……たぶん。
それに、お忘れ物預り所なら、落とし物を集めて置いておく倉庫とか普段は暗そうだし、もしかしたらダンボールに入れられているのかもしれない。ブーン…という機械音も、空調と考えれば説明がつく。
また、その場所には酸いような甘いような、なんだか変な臭いが充満しているが、それももしかしたら、一緒に置かれている他の落とし物の放つ臭いがない交ぜになったものなのかも……。
目も耳も利かないながらも、僕は一種超常的な他の感覚を総動員して電車に乗り、繁華街の駅で降りると真っ直ぐお忘れ物預り所へ向かった。
……ところが。
「――さすがに
今のこの身は口を利くのもままならない状態なので、持って行ったメモ帳に書いて尋ねてみると、担当の駅員は僕をおかしな人間だとでもいうような調子でそう答えた。
人が困っているというのにちょっとムカっとはしたが、まあ、冷静に考えればその気持ちもわからなくはない。
いきなり、しかも口ではなく紙に書いてそんなことを訊いてくる人間がいたら、僕だって変なやつだと思うだろう。
「それに、もしも
さらに続けて駅員が口にしたその言葉に、僕はなるほどお…といたく納得させられてしまった。
そう言われてみれば、確かにその通りだ。電車内であれ、ホームであれ、
警察に届けられているのだとすれば、今感じているこの暗さと涼しさと静けさも、お忘れ物預り所以上に納得がいく。一般的には、そういう場所に保管されるはずだろうからな……。
「どうも。お手間取らせました」
僕はまたメモ帳にそう書いて駅員に礼を言うと、すぐさま駅前の交番へと向かった。
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