第3話 デパガ2
もやもやしていたらある日、美容部後輩の
「ひとみさんと
「え……本当?」
私は困惑した。顔にも出ていただろう。
少し前、浅川に合コンに誘われた。男性四人と合コンがあるので浅川と浅川の友人、私とひとみで行かないかと誘われた。
当日浅川の友人が来れなくなり、私とひとみと浅川の女三人、相手の男性四人で開催された。私はその時気に入った人がいた。それが高山さんだ。
ひとみと浅川にも伝えて、私は高山さんとメールをしたり時々デートもしていた。けれども医療の仕事をしている高山さんは大変モテるらしく、デートといってもお茶を飲む程度の時間だった。
ちなみに浅川はその時の合コンで知り合った男性とつきあっているらしい。その彼氏から聞いたと言っている。
「嫌な話でごめんなさい。でも私、奈緒さんのことを尊敬しているからお伝えしたくて……」
浅川は辛そうな顔をしていた。顔立ちが綺麗なので女優が演技をしているようだと思った。
本当だろうか? まさかひとみがそんなことをするなんて。動揺が収まらなかった。そのあとの仕事は散々だった。
ひとみと高山さんが泊まった。事実かどうか、ひとみに確認するべきなんだろうけれど……。
本当だったらどうしよう。私は自分を抑えられる自信がない。ひとみを憎んでしまうかもしれない。ならばこのまま気づかないふりをするという選択もあるのではないか。幸い今週も来週も合コンを入れていない。高山さんという気に入った人もいることだし。
そういえばひとみからも合コンの話がなくなってきたな。ひとみにも良い人がいるのかな?
まさか……その良い人が高山さんなの? ピロン。メール到着を告げる音。なんというタイミング、ひとみからメールが来た。合コンのお誘いだったが仕事を理由に断った。
それからもひとみから来た合コンのお誘いを三度連続で断った。こんなことは初めてだった。メール越しでも気まずい空気が伝わる。
そのうちひとみは別の人と合コンに行っていることを知った。インスタに飲み会の様子や料理の写真をアップしていた。私と行っていた時はそんなことしていなかったのに。
インスタを見てからひとみに連絡が出来ずにいた。私以外と合コンに行っても愉しんでいると当てつけに感じてしまったから。
私はひとみ以外に遊ぶ人がいないことに気づいた。昼休み、メールをする相手もいなくて美容関連ののインスタばかり見ていた。
「どうした? 元気ないね」
相馬が声をかけてきた。さりげなく私の分のコーヒーを持参で。
何気ない気遣いも出来る男・相馬。相馬の部下は幸せだろうな、コーヒーを見てそう思った。
「うーん、最近ひとみと合コンに行ってないんだよね」
何も考えずに出てきた言葉だった。つまりこれが私の元気がない原因か。
「たまに一人でゆっくりしてみたら? 良い喫茶店教えるから」
相馬はコーヒーを一口飲んだあと、そう言った。
次の休日、早速相馬に教えてもらった喫茶店に行った。そこは飲み屋街から少し
看板には【喫茶】と書いてあるだけだった。店名はないのかな? チョコレート色の扉を開けるとカランカランと鐘の音がした。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
薄暗い店内から落ち着いた声がした。私は店の真ん中辺りにあるテーブル席を選んだ。平日の午前中という時間帯のせいか、私以外に客はいなかった。筆ペンで書かれたメニューを開いた。私はフルーツケーキとコーヒーを注文した。
そういえばひとみと行った合コンで不発だった時、喫茶店に入ってブーブー文句を言っていたことがある。あのアフター会議が愉しくて合コンしているのかってくらい熱くなったなぁ。思い出して一人で笑ってしまった。
注文した品を待っている間、店内を見渡した。日中でも薄暗い効果なのか、ここだけ切り取った空間みたいだった。耳をすませば聞こえる程度のBGMに本物の観葉植物。確かに一人になるには適した場所だと思った。
ふとカウンターを見てみた。観葉植物でマスターらしき人は見えなかったけれども、何かが書いてある紙を発見した。
【占い・人生相談応じます】
人生相談……。これは何かのご縁なのかな。どうせ自分だけで考えても解決しないんだからと思い私は声をかけた。
返事と同時に若い女の子が注文の品を運んできた。ノーメイクでも肌が綺麗だ。
私は仕事でたくさんの人の肌を見ているので化粧品で作られた肌か
本当は私もボブにしたい。けれども美容部員の髪型は伝統的にショートかロングで、ロングはまとめることになっている。ボブだと髪の毛を耳にかける仕草が発生するので暗黙の了解で禁止になっている。
あとは単純に、場にそぐわないという理由。化粧品は大人の女性、というイメージがあるのでそこを重視している。確かにおかっぱやボブだと少女や女の子、といったイメージが沸く。あんなに可愛い髪型なのに。
コーヒーを運んできた女の子がいつ相談するかと尋ねたので、今すると答えた。
今すぐにでも誰かに話したかった。すると女の子は自分の分のコーヒーも用意して私の話を聞く準備をした。確かに私だけ飲んでいるのも気がひける。
「ご相談は無料ですので安心してお話ください」
女の子は笑顔で言った。では……と女の子が言いかけた時、誰かが来た。
「カード忘れてるよ」
男の子が、女の子にカードを持ってきた。あどけない感じの男の子。高校生くらいに見えた。バイト? この子の弟かな?
私が事情を話し終えると女の子は少し考えていた。言葉を探しているのかな。
改めて女の子をよくみて見る、二十歳前後じゃないかな。若い子の考えも聞いてみたいし特に不安はなかった。そんなことを考えていたら一枚のカードが提示された。
【事実を確認する少しの勇気】
どきっとした。女の子は今ランダムにカードを選んでいた。
「本当は、お客様も知りたいんじゃないですか?」
これは魔法の言葉カードだと言われた。くれると言ったので名刺入れにしまった。数々の合コン相手の名刺入れに。
「それではごゆっくり」
女の子は笑顔で立ち上がり自分のコーヒーカップを持って店の奥へ行ってしまった。
私はフルーツケーキを一口も食べていないことに気づいた。
三角形のケーキ上部にフルーツが何種類か載っている。キウイ、苺、みかんなど彩りが綺麗。あっさりとして少しヨーグルト風味がした。美味しかった。不思議なことに、コーヒーが少しも冷めていなかった。
なんだか不思議な力が漂っている感じがした。不思議な力が薄まらないうちに私はすぐにひとみにメールをした。平日なので出勤しているはずだ。仕事帰りに晩ごはんを一緒にどうかと送った。
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