第6話 遭遇、そして人形救出
町を歩けばローブ男と呼ばれるようになった。主に子供たちからだ。最初は怪人ローブ男だった。怪人に男が付くのはおかしいと指摘した結果だ。
そうして石を投げられたり、蹴られたりする。ローブを剥ぎ取ろうともしてくるので仕方なく逃げ回る羽目になる。
勇者が目撃して、虐められているなと大笑いした。助けてはくれないらしい。
いつものように、職を探していると子供たちに追いかけられた。どうにかこうにか逃げ切ったとき、火事だと叫ぶ声を聴覚が拾った。
「おい、火事だ!」
「水だ、誰か水を持ってこい!」
「水魔法が使える奴はまだか、火の回りが早いぞっ」
「全員、無事か?!」
「おい、誰か逃げ遅れたやつはいないよなっ」
怒号や喧騒、見物人たちの会話の中から小さな女の子が泣き叫ぶ声が聞こえた。母親の腕の中で暴れている。
「いやああ、ジェニィちゃんがまだ中なの!」
「こんな火じゃあ近づけないわ」
「諦めろ、この火じゃあもう無理だ。命があっただけ感謝しろっ」
「だってジェニィちゃんは去年亡くなったお祖母ちゃんが作ってくれたお人形なんだもの!」
「どんな人形だ?」
「ローブ男、さん?」
正面に立って問いかければ、きょとんと瞬いた女の子の瞳から涙が一筋こぼれ落ちた。
まだ名前もないのに、町中の子供にあだ名が知れ渡っている事実に若干戦慄したが感覚を切り離した。
「どこにある?」
「あ、あそこ。二階の、あの窓!」
指で示したらしき場所を辿って、視力をあげる。拡大して、焦点をあてれば確かに窓辺に茶色の人形らしき頭が見えた。
「赤い服を着た、茶色の髪の人形か?」
「そう! ジェニィちゃんよ」
「わかった」
機械人形は脚力をあげてジャンプする。そのまま火の海の隣の窓へと飛び込んだ。
窓が破られて入り込んだ空気でさらに勢いを増す火力をものともせず、そのまま部屋の中を進む。
熱さはクリアだ。耐久温度よりも優に低い。熱風にも自分のボディは損なわれない。煙に含まれる有毒ガスも問題なし。
もしかして、天職に巡り会えたのではと興奮しつつ、人形が置いてある窓辺に近づく。本棚と寝台は半分以上がすでに炎に包まれていたが窓辺は辛うじて無事だ。
人形を掴んで懐に抱えると、窓を突き破って外へと飛び降りた。
そのまま剥き出しの腕を前に伸ばして、女の子に差し出す。
「これだろう?」
人形を受け取ったのは母親だった。それもほとんど奪うという形で。言葉もなく、睨み付けられる。
そんな母親の腕の中で女の子は目を見開いてガクガクと震えていた。
女の子の真っ青な瞳に、骨格しかない機械人形の姿が映っていた。
防火服でもなく、ただの麻のローブで、酒場の店主が家にあったと言ってくれたものだったのだから。
そりゃ、服は燃えて炭になる。
自明の理だ。
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