第5話 就活、そして存在意義

それから数々の仕事を探した。勇者も連れてきた手前責任を感じたのか、色々な伝手を当たってくれたが、どこに行っても上手くいかない。


療養所では病人を落っことして、力加減ができなくて治療器具の破壊ばかりする。

商人の護衛になれば、なぜか護衛対象から叩き出される。どうやら態度が気に入らなかったらしい。目上の人を敬えと言われても、自分のほうが遥かに年上なのだが。そもそも人類の範疇外の存在に目上も目下もあるのだろうか。悩みをぶつけている間もなく、商人はいなくなる。

飲食店では目深いローブ姿で拒否られた。ローブといえば魔法士だと思われるらしいが、機械人形である自分は魔法は使えない。魔力は動力源になるだけだ。最大火力は物理的な高性能のレーザビームだ。魔力を使うが彼らの思う魔法とは異なる。

環境に優しい配慮なんだ、エネルギーを無駄にしないんだと弁解をしても、水や火などのバリエーションのある魔法が使えないんじゃあ用はないと去られる。

挙げ句の果てにはメタルボディを活かして自分の体を材料に差し出し溶接にも挑戦してみたが超特殊合金は扱えないと首を横に振られる。片腕もいで頑張った。まさに身を切る行為だったのだが、ままならないものだ。


「俺はなんのために生まれたんだ」

「最初の目的は、人類抹殺だろ?」

「あ、そうだった!」


開店前の居酒屋で早めの夕食を食べていた勇者が呆れたように突っ込んでくる。

はっとして、我に返った。

殺戮マシンが殺戮以外の仕事を探しているから、ダメなのか。しかも、最初の命令は勇者の抹殺だ。


こんなに助けてくれる相手を抹殺?

ないない、そんな非人道的なこと、いくら機械人形だってできるわけないじゃないか。

だが何をやっても上手くいかない日々に頭を抱えるしかない。


「え、おめぇ、人類抹殺が目的なのか?!」


カウンター越しに話を聞いていた店主が目を丸くした。

笑うという機能があれば、きっと今、笑うに違いない。


「ああ、至極簡単に実行できるな」


胸を反らしてアピールすれば、勇者から心底呆れたような視線を向けられた。


「能力的な意味でだろ。お前、表情がないから冗談に聞こえないんだよ。おやっさんもびびるだけ無駄だぞ。存外、間抜けなんだ、この人形」

「あ、ああ、驚いた。そうだな、確かに間抜けだよなぁ」

「間抜けというのは、悪口だと記録されているが?」

「親しみを込めて言うこともあるんだよ」


勇者の言に、新たな記録が上書きされた。


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