第4話 移動、そして自己分析
勇者が連れてきてくれたのは、タルムの町だった。
一番スーラン国に近い人間たちの町だ。隣国バンの最果ての町でもある。つまりまず最初に魔物の被害に遭う町でもある。
「つまり魔物は嫌われるということか」
ぽつりとつぶやけば、勇者は首を傾げた。
「いや、お前、魔物の範疇なの?」
「そうだった、俺は機械人形じゃないか!」
自分のレアメタルのボディはつるっとしていて、基本は骨格しかない。
こうなってくると肉をまとってなくて本当に良かったと、あの世に旅立ったサルケ男爵に感謝する。
はっとして頷けば、呆れた視線を向けられたが。
「機械人形だからって万人に受け入れられるとは限らないがな。とにかく、ローブはとるなよ」
「わかった」
頷いたのを確認して、勇者はずんずんと町の入り口へと近づいていく。
町の入り口で見張りのために立っていた男がにこやかに勇者に笑いかける。
「おうー、お帰り! 今回も無事だったな」
「見てのとおりだよ。俺がいない間に魔物は攻めてこなかったのか?」
「平和だったな。お前が暴れてくれたからそれどころじゃなかったんだろうさ。ところで、隣の奴は誰だ?」
「知り合いだよ、一緒に魔物退治をしたんだ。行く当てがないからって連れてきた」
「なんだそりゃ、訳アリか? 変な奴を連れてきたな。まあ勇者の紹介じゃあしょうがねぇ。ようこそ、タルムの町に!」
出迎えてくれた笑顔が、なんだか眩しい気がして視覚の明暗を少し暗めに設定した。
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そうしてやってきたタルムの町で、勇者の行きつけの居酒屋の二階に居候させてもらうことになった。不衛生だからと纏っていたローブをはぎ取られて、居酒屋の店主には正体がばれることになったが、彼は驚きながらも受け入れてくれた。詳細も聞かずに変わった体質だな、と豪快に笑いながら。
その日のうちには、店の給仕係として清潔なローブを纏いながら働くことになったのだが。
ガタン、ゴロゴロ…
何度めかの物が転がる音を聞いて、機械人形は呆然とする。両手のお盆に載せられていた麦酒の入った杯と料理が盛られた木皿が床に転がっている。
不思議だ。盆は水平なのに、なぜ転がるのか。
すかさず、店主の一喝がこだます。
「こらぁ、またやったのか!」
「すまない、水平方向は完璧だったのだが、指の第二関節のバリュー不足だ」
「何言ってんのかさっぱりわからねぇが、さっさと片付けろ! あと、給料から差っ引くから覚悟しろよ」
「時給580ギナで、2時間38分の労働。うち、麦酒など24杯と料理43品の商品をダメにした。計算したところ、35860ギナの損失だ。埋まる気がしないが」
「お、お前、計算めちゃくちゃ速いな。というか、全くやる気ないだろう」
「俺には向いていないことがわかったからな」
「いや、威張ることでもないが……」
「ちょっと金銭を補填できることを探してくる」
お盆を近くのテーブルの上に置いて、颯爽と店を出た。
働いてみてわかったが、どうやら自分は不器用らしい。
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