第3話 回答、そして処分回避

「だって、人類の殺戮マシンを開発したみたいなこと言ってたじゃないか!」

「七百年も生きてる蜘蛛男が、夢と希望詰まった研究施設に一人きりで引きこもってるんだ。魔王様からは役に立つモノ作れってはじめの百年くらいは言われていたけど、ここ数百年は放置されていたようだし。そもそも機械工学ってのは人類の英知の結晶だろう。魔物たちからは嫌われる分野だ。要は異端なんだよ。誰も会いにこない研究室だぞ。予算も削られて、自力で魔力の糸縒って服を作ってそれをほそぼそ売って自分は服屋じゃない、デザイナーじゃないってぼやきながらレアメタル買い漁って。苦労したんだよ。そりゃあ、やってきたお客さんにサービスしたくなるだろ。それが人情ってものじゃないのか」


まあ、蜘蛛男だけど。モンスターだけど。人情って何って聞かれたら、熱い血潮だって答えるけど。


自分は目覚めたばかりだが、施設のデータにアクセスすれば蜘蛛男の情報などあっさりと手に入る。ぼやきは日常で、勇者の姿がモニターに映ったときのサルケ男爵の興奮は筆舌に尽くしがたい。

彼が感激した様をせめてこの勇者に見せたかった。


「確かに、なんか壊れた機械ばかり転がってると思ったんだ…まさか研究員が一人だけだなんて…これじゃあ、俺は単なる殺戮者じゃないか」

「そうだな。これに懲りたら、最後まで人の話を聞くことをお勧めする」

「お前は随分と偉そうだな!」

「いや…忠告だよ。ほら、親切、親切。人の好意を無にするのはよくないぞ」

「お前は機械人形なんだろうが」

「物のたとえだろう。と、そうだ。たった今、自分の行いを後悔している、そんな貴方。貴方も今すぐにできる善行があります。それを行えば、貴方もひとまずは悔いる気持ちから救われるでしょう」


勇者に語りかけながら優秀な機械の思考回路は回りっぱなしで、最適解を導き出した。通称、悪魔のささやきともいう。

自分は機械人形だけれども。

できるだけ丁寧な言葉で優しく、相手の良心に訴えかけるのがポイントだ。対峙している勇者にそんなものがあるのかもわからないが。

良心、なにそれ美味しいのとか言われたら、ウォッシャー液を目から放出してやるからな。


「目覚めたばかりの機械人形を助けてみませんか?」

「はあ?」


勇者の片眉が不快げにぴくりと持ち上がった。

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