第2話 返答、そして自動思考

「俺は機械だから、善も悪もない。お前の正義を邪魔しない」


勇者の聖剣から放たれた光線を瞬時に分析すれば、あれは魔力を消失できると解析結果がはじき出された。

つまり魔力を有しているモノならば、どんなものでも消し去ることができる。

サルケ男爵は蜘蛛の魔物だ。服は自分の粘液で作り上げた糸を使用している。足が八本もある服は既製品にはないからだ。

それは跡形も残らないだろう。豊富な魔力量と手先が器用だったことがアダになったようだ。


つまりレアメタルで作られているといえども、魔力が動力源の自分も無傷では済まないということだ。圧倒的な無力を悟る。

起動と同時に消え去る恐怖。

自分はいったい何のために生まれたのか。

目的は与えられたが、それは所詮他人から与えられたもので、自分の意思では決してない。


考えろ、よく考えてこの難局を乗り切るんだ。

機械人形は必死で思考を働かせる。


「機械で善も悪もないって? でも人間を滅ぼせって命じられてるんだろ。なら、俺の敵じゃねぇか。面倒だからさくっと片づけておくか」

「まあ、待て。余計な労力や手間をかけることはない。俺は自動修復機能がある。先ほどの閃光を撃たれても回復するだろう。それは不経済ではないか。そのうえ自立型で全自動思考型だ。唯々諾々と命令を遂行するだけではない。きちんと命じられた内容を吟味して動くことができる。俺は今、命じられた内容は悪だと判断した。放っておけば勝手に生きる。なんせ魔力があれば永久的に生きられる。環境にも優しいし経済的だ」

「勝手に生きて悪さをされると困るって言ってるんだが?」

「も、問題ない」

「なぜどもる?」

「疑いの目を向けられてみろ。純粋な魂の持ち主は心臓を鷲掴みされたような気分になるものだ」

「お前に、心臓なんてあるのか?」

「いや、ないけれども…!」


なんてことだ。選んだジョークのセンスが悪かった。経験がないので、言葉の選択をミスったようだ。

悔やまれる。

気を付けよう言葉の選択、研ぎ澄ませユーモアセンスだ。


「はあ、なんで俺がこんなことをしなきゃならないんだ…せっかく四天王の一人を倒せたっていうのに」

「四天王?」

「ここは四天王が管理している魔物の研究施設だろう?」

「いや、俺の知識ではここはサルケ男爵の魔工学研究所だが。そもそもこの国に四天王なんていないし」

「魔工学、研究所? ってか四天王がいない?」

「なんで一国に魔王以外の王が存在するんだ、常識的におかしいだろう。それにここは名ばかりの個人の夢が詰まった研究所だ。そもそもサルケ男爵しかいなかっただろう?」

「はああああああああ????!」


勇者の頓狂な叫びが二人しかいない研究所に響き渡って、悲しくこだました。

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