俺は機械人形、名前はまだない

マルコフ。

第1話 起動、そして勇者襲来

視覚をつなげば、全ての回路が順調の緑を示していることを知覚した。それと同時に思考は回転し、優秀な聴覚は隣で高笑いを繰り広げる男の声の音量を下げて伝える。あまりにうるさすぎて、回路が焼き切れそうだったからだ。


起動したばかりで、不具合を起こすなんてナンセンス。

冗談もスラングもインプットされているので、状況に応じたウィットな会話もできる。

笑うことはできないが、笑わせることはできる。

考えついたことに、自信が漲る。


そんな自分はレアメタルを余すところなく使われた機械人形だ。

隣で笑う男———サルケ男爵に造られた。世界の英知を結集させたかのような技術を惜しみなく使われた高価な人形である。


使用目的はスーラン国に現れた勇者を屠ること。ついでに人類の数を減らすための殺戮を行うこと。

スーラン国は魔物の国だ。魔王の采配のもと、魔らしい取り決めで暮らしている。つまり周辺国の人間たちに迷惑をかけるような行為だ。おかげで、人間の中から強い者が勇者としてスーラン国の魔王を退治するために差し向けられたらしい。


ちなみにサルケ男爵は魔物には嫌われる機械工学という人間たちの技術を研究し、魔道学を組み合わせた魔工学の先駆者であり、自称天才科学者である。

その力をすべて注ぎ込まれたのが自分というわけだ。

搭載された攻撃力は一国を瞬時に滅ぼせるほど。動力源は魔力のため、永久に動き続けることができる。自動メンテナンス付きで自己修復も魔力で行うため経済的だ。

レアメタルなのでよほどの攻撃でないと欠損することもない。欠損してしまってもレアメタルさえあれば一瞬で元通りになる。

そもそも見た目は機械がむき出しの骨格標本みたいな姿だ。

せめてもう少し肉づきのよい体がよかった。


文句を言っても、製作者は聞く耳をもたないだろう。

なぜなら―――。


「わはは、勇者よ。よく見るがいい。これがワシが三百年かけて作り上げた機械人形だ! 魔力と機械の素晴らしき融合、考えて動ける自立型の殺戮マシンが今、目覚めたぞ。さあ、恐怖するがいい。人間どもも瞬時に滅ぼしてくれ―――」


ばしゅんと勇者が放った光線が、瞬時にサルケ男爵を消し去った。

跡形もなく、文字通り男爵は消えてなくなった。

研究室に静寂が戻る。


「はあ、もううるさいんだって。自慢なら他でやってくれよ。しっかし、結局、お前は何者なわけ?」


男爵を消し去った男が、光線を出した剣の切っ先を向けながらやる気のない声で問いかける。

聴覚の音量を元に戻しながら、機械人形は口を動かした。


「俺は機械人形、名前はまだない」

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