第3話 俺はちゃんとする
「ちょっと、近所の公園に寄ってかないか?」
勇気を出して、
帰り道の間、ずっと、俺は考えていた。
自分の腰の引けた振る舞いについて。
人目があるからこそ、せめて、二人っきりの時は、という願いだったのに。
身体的な年齢が離れた俺がキスするのは、不道徳な気がして、出来なかった。
でも、思えば何が不道徳だったというのだろうか。
俺たちはちゃんとした恋人だったはずじゃないのか?
中1の時は出来たキスがなんで今は出来なくなるんだろう。
その理由は、きっと「見た目の年の差」。
でも、その理由は、見た目だけで判断する周囲と何が違うんだろうか。
俺は彼女が抱えている事情を知っているはずじゃなかったのか?と。
「え、ええと、その。いい、の?」
俺の誘いに対して、幼子は、おっかなびっくりといった表情。
別れを切り出したのに、なんで「いいの?」なのだろう。
と考えて、彼女もさっきは感情が昂ぶっていたのを思い出した。
「ああ、それと、ちゃんと謝らせて欲しい」
「うん……」
頷いた彼女は少しだけ嬉しそうで、なんとか謝罪は伝えられそうだと思った。
「あ、ここって……」
見た途端、気づいたようだ。
「そう。俺たちが初めて「デート」したところ」
ガキが初めて色恋を覚えたばかりの時分だ。
いいデート場所など思いつくはずもなく、近所の公園で二人して遊んだのだ。
「ちょっと、懐かしいね。なんとなく、ブランコ乗ってみたり……」
「滑り台で滑ってみたりな」
本当にガキの思いつくデートだったと今では思う。
でも、その声で、今でもそのことを大切に思ってくれているのだとわかる。
「私の身体は、今でもあの時のままだけど」
ふと自嘲したように言う幼子。
そうなんだよな。昔を思い出す場所は、必然、そのことを思い出させてしまう。
「それでさ。まずは……ごめん!ほんっとうに悪かった!」
本当に申し訳なかったと思う。許してもらえるかわからない。
でも、俺に出来るのは、今は謝ることだけだ。
「そ、れ、は……何、に対しての、「ごめん」?」
声は途切れ途切れで何故か涙声だった。
「色々。人目があるからって、ずっとコソコソとしてたのもだし。それに、二人きりのときも……変な罪悪感があって、抱きしめることにも気が引けてた。それで、幼子が苦しんでるのもわからずに」
本当に、ひどいことをしたと思う。
「だから、ごめん。許してくれるかわからないけど、許して欲しい」
今からでも遅くないから、やり直させてくれないか?そういう意図を込める。
「そっか。良かった……」
かえって来たのは、許しでも拒絶でもなく、心底安堵したような声。
「その、良かった、って?」
「私も、さっきは感情的に別れ切り出して、後悔してたから。そう、言ってくれて、嬉しかった」
少し嬉しそうに言葉を紡ぐ彼女を見て、そういう奴だったと思い出した。
自分の言動を振り返って自己嫌悪するのが昔からのこいつだった。
「それにね。けーちゃんも、デートの時とか色々、ちゃんと私の事情を配慮して、色々気を遣ってくれてたのに。そんな事もわからなくなっちゃってた。だから、私も、ごめんなさい」
そう言って、頭を下げられる。
その言葉を聞いて、俺は心底ほっとしていた。
でも、これだけでほっとしていてはいけない。
一歩、一歩、歩み寄って、優しく抱きしめる。
「け、けーちゃん?」
「今まで、こういうのも気が引けてたから。本当は、俺もこうしたかった」
あの頃のままの小さい身体だけど、暖かさが伝わってきて、心地いい。
なんで、変な罪悪感を持っていたのだろうと今更自分を恥じる。
「あ、ありがと。けーちゃん。今、すっごく、ドキドキ、してる……」
抱きしめた彼女を見ると、嬉しそうに、でも恥ずかしそうにしている。
思えば、こんな雰囲気になったのは、数年ぶりだろうか。
「好きだぞ、幼子」
言いながら、顔を上向かせる。
あの時のままの容姿だけど、でも、少し違う表情。
「ん。私も大好き、けーちゃん」
そう言って、微笑み目を閉じた彼女に対して、そっとキスをしたのだった。
帰り道。
「なあ、これからはちゃんとするから。抱きしめるのも、キスも」
「い、言わないでもわかるから!」
「そ、そうか?ちゃんと宣言しておかないと不安にさせてしまうかと思って」
「そういうのは、言わぬが花、だよ。昔みたいに、信頼して欲しい」
「そうだな。そうする」
先程の行為で意思が伝わらなかったなんて思うのは、確かに無粋だった。
「私もね、人目のあるところでは我慢する」
「いいのか?」
「仕方ないよ。私達、二人だけで生きてるんじゃないから」
「だな」
ただ、それはそれとして、我慢させ過ぎないようにしないとな。
「ま、色々、大変だろうけど、ちゃんと支えていくから」
「うん。けーちゃんは昔から、そうだったもんね」
こうして、俺達の間のちょっとしたいざこざは解決したのだった。
そして、後日になってのこと。
「身長が伸びた?」
いつも通り一緒に登校している俺たち。そこで彼女から驚愕の新情報。
つまり、それは……。
「あの、不老症だっけ?治ったてことなのか?」
「わからない。でも、中1基準で、普通に成長してる、んだって」
「そっか。まだまだ大変だけど、良かった」
3、4年間もすれば、単に実年齢より少し若く見える程度で済むのかもしれない。
「うん。それに、胸も少し……出てきた、みたい」
「そ、そうか……」
「今、エッチな目で見た?」
「いやいや、さすがに見ないって」
「私は見て欲しいんだけど」
「それはまだ、もうちょい先に、な?」
「さすがにそれは冗談だけど……」
クスっと笑う幼子に、からかわれたのだと気づいた。
「おまえなー」
と言いながら、お互いじゃれ合う。
「でも、早く成長したいなー」
「単純計算であと3年くらいか?高1くらいの見た目になるのに」
「そうなる、かな。しかも、その時は、私、大学生だよ?」
「それなら、さすがに童顔な女子大生で通るだろ」
「はっ!実は、童顔な女子大生とか、すっごくモテるかも!」
「何が言いたい?」
「私をちゃんと捕まえててね、ってこと」
「はいはい。ちゃんと捕まえときますよ」
まだ、小さい彼女を見つつ、笑いながらそう言ったのだった。
【あとがき】
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
物理的成長しなくなった彼女との物語はこれにて完結です。
数年間はちと辛みありそうですが、なんとかやっていくと思います!
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物理的に成長してくれない俺の幼馴染 久野真一 @kuno1234
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