第18話 明日は明日の風が吹く 風には風の明日がある

 教室内は、黒板がカタカタとチョークの音と人々の声でひしめき合っている。

 欠席者一名。天道桜ーー

 余り物一名。高山陵ーー

 優しい者一名。宇治島実ーー

 優しい者一名が余り物一名に声をかけ、余り物が退場。

 このクラスの班決めは終わりを迎えようとしていた。

 宇治島に班に誘われた俺は宇治島の班に入ることになった。

 そして、その班には既に四人の俺を含めると五人の班になっていた。

 中には加藤の姿もあった。

「高山ー!早く来いよ!」

 加藤にそう言われて班のメンバーの元に急ぐ。 

「なんだ。お前も居たのか」

「つれないなー。去年は同じ班になれなかったからさ」

 こいつなりの優しさなのか、加藤が俺を誘う提案をしたみたいだ。

 それはそうとーー

「てか、あと一人は?」

 余り物でお情けで誘われた分際で、この質問もどうかと思ったが、人数が足りない疑問がまさったのと、加藤が居たことで安易に発言ができた。

「もう一人は......」

 加藤がそう言いかけると、横から宇治島が

「天道さんだよ!」

 と、明るく言ってきた。

 ん?と一瞬考えたが、すぐに理解出来た。

 そもそも、一人欠席しているのと余り物の俺を含めて、五人グループが二つ出来るとばかり思っていたが、六人グループと四人グループが一つ出来る場合を想定していなかった。

 というより、天道と同じ班になることを全く想定していなかったのである。

「なんで、天道さんなの?」

 そう俺は、またもや疑問を口にした。

「だって、高山くんと天道さんは同じ委員長でしょ?それなら、同じ班の方が協力出来るだろうし、二人の仲も深まるだろうと思って」

 いやいや、なんで俺主体で考えてるんだよ。

 今日の俺はやはり調子が良いのか、湧いて出た疑問をすぐに口に出す。

「なんで、俺なんかのことを......」

 その先の言葉は、気にかけてもらってると勘違いしてると思われそうなので、濁した。

「違うよ?純粋に高山くんと天道さんと一緒の班になりたかっただけだよ?」

 その言葉に意味なんてないだろうし、裏もなさそうな気がした。

 理由がとても気になったが、これ以上聞きすぎるのも良くないと思い、質問を切り上げる。

「えっ、それはどうも......」

 軽く会釈をしながら、喜んでいると思われないように感謝を伝える。

「よぉーし、それじゃあ黒板に書くぞ!」

 加藤がそう言ってはいたが、

「てか、もう最後じゃん!」

 と、自分で突っ込みを入れていたのをクラスの三割程度が笑っている。

 とまぁ、無事に?班決めは終わることが出来た。こればかりは、加藤と宇治島には感謝だ。

 他の二人も俺が班に入ることを許可してくれて助かった。

 天道についてはーー今は考えないでおこう。

「続いて、役割分担を決める。材料調達二名、設置片付け二名、調理担当二名だ」

 去年は宇治島と調理担当だった。

 全ての肉と野菜を宇治島が切っていて、焼く係も全て彼女が焼いていた。俺は何もせずに空気だったのだ。

 というわけで、調理担当だけは嫌だ。そして、宇治島と同じ役割も御免だ。

「どうするー?」

 宇治島がみんなに問いかける。

「なんでもいいよー」

 他の二人は特に希望はなさそうであった。

「俺は去年、設置片付けしたから今年は調理するわー!」

 加藤がそう言うと宇治島はーー

「じゃあ、私は去年と同じ調理するわ。去年もしたからなんとなく段取り分かるし」

「おう!よろしく!」

 と、調理担当が加藤と宇治島に決まった。

 加藤よ。宇治島に仕事を奪われないように気を付けろよ。心の中でそう思った。

「なら、買い出しは嫌だし設置片付けにしようかな」

 残りの二人は設置片付けに決まった。 

 結局、残り物の材料調達が俺と本日欠席している天道の二人になった。

 まあ、最悪の事態は逃れたので良しとしよう。買い出しつったって、前日の放課後にちゃちゃっと買って終わりだろう。

 逆に当日のすることはあまりないみたいだし、公然とゆっくりできるのでむしろラッキーかも?そう思うと、少し気持ちが楽になった。

 全ての班が役割を決め終わると、一枚の紙に各班の役割分担を書かされて、役割決めは終わった。

 これでこの時間も終わりか。短いようで長かったな。特にこの六時間目のHRのせいで。

 今回は晒し者にされることもなかったので、二年になって初めてまともな一日を送ることができた。これからはもしかしたらこんな感じで案外普通の日々を過ごせるのかも?

 なんて、肩の荷が降りて、安堵してる所に本日最大の悲劇がやってきたーー

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