第19話 何もしないわけではない 何もできなかったわけである
「では、最後になるが委員長!」
急に鑑野先生が役職で俺の事を呼ぶ。
「はぃ」
驚いたのもあり、小さな声で返事をする。
「しおりについてだが、書いてほしい事をみんなに希望をとってくれ」
ーーんんん???
なにそれ?聞いてない。
俺と天道の委員長二人が作るんではないの?
みんなの希望通りに作るなんて、ましてやこの時間に俺が皆に希望を聞くなんて聞いてないぞ。
そして、今日ーーもう一人の頼りがいのある委員長、天道が休んでいる。
終わった。詰んだーー
鑑野先生に希望を聞くように指示されてほんの十秒程であったが、固まって動けずにいた。
「高山!」
「はいぃ!」
気迫のある声で鑑野先生に呼ばれると、悲鳴にも近い情けない声で返事をする。
クラス内ではクスクスと笑う声が聞こえた。
ーーもうやるしかない。
どうなっても知らないが、今日の俺ならできるかもしれない。と、根拠の無い自信だけが頼りな所が頼りない。
鑑野先生が前で手招きをしているので、俺は席を立ってしぶしぶ前に移動する。
「え、今先生が言った通り、へんそくの違っ、遠足のチラシをいや、しおりを作るんです」
「へんそく......?」
「チラシだってよ!」
「作るんです。って宣言されても......」
俺が噛みに噛みまくったせいで、クラスの晒し者にされてしまった。クラスの笑い話の声が俺の声よりも大きいのではないか、それとも俺の声がクラスのひそひそ話の声よりも小さいのかと、そんなことを考えることでしか平静を保つ手段がなかった。
「しおりに何を書けばいいですか」
最後のセリフはしっかりと言えた。
後はもうみんなに任せよう。俺が喋らなくても意見さえ言ってくれたら、それを黒板にでも書こうかな。
それで、皆に背を向けて書きながら次の意見が来る。このループに持ち込めればーー
..................。
辺りは静まり返っている。まるで、太陽さえ眠ってしまう夜の静寂に包まれているような静けさだ。授業中にこんなに静かになる事は試験中以外にないはずだ。
どうしよう。何か話さなくては。
「皆さん、お願いなので何か意見を言って下さい」
なんとかお願いは出来た。
これで、誰か一人くらいは何か言ってくれる、または意見ではなくても、意見を
「なんで俺らが言わなきゃならねーんだよ」
「へっ?」
クラスの男子の声を聞いて、思わず魂の抜けたような言葉が出た。
「自分で考えなよー」
「意見を言ってって、お前が言えよ」
女子の声と男子の声とで、発言者が一人だけではないようだ。
何を言ったら良いのか分からなくなり、
「あんたがしおり作るとか、最悪っ!」
「お前、何様のつもりなんだよ」
こういうのは一人言い始めると激化していき、一人が二人。二人が三人と増えていくものだ。それくらいは分かっている。
正直、そこまて言われると思ってもみなかった。俺は別にお前らに対して何かしたわけでもないし、恨みを買うような
なのに、何故ーー
流石に俺の瞳も少し潤ってしまうほどに、自分の無力さと人望の無さに為す術もなくーー
「おい、お前らその辺にしとけ」
その言葉でクラスは大人しくなる。
この時ばかりは、鑑野鈴を味方だと思えた。
そうしていると、チャイムが鳴る。
この時ばかりは、鈴の音が神様だと思えた。
「よし、今日はこれで終わる!六時間がHRだったから、終礼はなしだ。それじゃ、お疲れさま」
と、鑑野先生が言うと、クラスの皆のさようならの声を聞きなから教室を後にした。
「じゃ、帰ろ帰ろっ!」
「うーし、帰りゲーセンでも寄ってくか!」
など、色々な声が入り交じった教室も散り散りになって、下校していく。
俺はというとーー
黒板の前で立ち尽くしていた。
席に戻ることもできずに、ただこの場で動かずに立っているだけの方が人の注目を避けられると思って、息を殺して教室から人が出ていくのを待っている。
中には笑ってる声もあり、自分が笑われている気がした。
クラスの半分以上が退出してから席に戻る。
椅子に座ってから、何がいけなかったのかを考えてみるが分からない。
諦めかけたその時、教室から確かな存在感を感じた。
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