第16話 蟻地獄 アリジゴクからすれば天国 アリからすれば地獄
時はやってきた。
チャイムが鳴り、六時間目のHRが始まる。
鑑野鈴が教室に入ってきた。
「よぉーし、本日最後の授業だ。頑張るぞー」
自分に向けて言っているのか、皆に向けて言っているのか、はたまた両方なのか分からないような掛け声をしてHRが始まった。
HRって、どうせそんなにすることもないだろう。終わった時間が早ければ、その分自習という名の自由時間だ。
とりあえず、そこを目指そう。
「えー、この時間は皆も知っている通り、来月にある毎年恒例のイベント、遠足について話をする」
「やったぁーー!!」
「待ってましたー!」
クラスの盛り上がる声が聞こえる。
遠足ーーそういえばそんな話もしてたな。と、昨日の委員会での話を思い出した。
まぁ、俺はしおりを作るだけだから関係ない。
ていうか、去年の遠足ってどうだっけな?何をしたのか全く記憶にない。
「えー、まず班決めを行う」
思い出した。班決めでたらい回しにされ、残り者としてしぶしぶ入った班に会話も一切交わすことなく、割り振られた仕事もさせてもらえなかったんだった。通りで記憶にないわけだ。
「えー、どうするー?」
「お前ら俺と組もうぜ!」
流石に早い。班決めを行うと言った段階で、既に決まってる奴らの班には絶対に入れないし、入ったら嫌な思いをする事になるだろう。
担任の鑑野先生が黒板に数字で一から六までをおおよそ等間隔で大きく書いている。
書き終わった所でチョークを置く音と共に、
「それでは、各自で班決めをしていってくれ。決まったやつらから黒板に書くように!」
と、号令という号令はなかったのだが、クラスの皆は班決めを一斉に開始しだした。
こういう時は、ぞろぞろと動き始めるのではなく、早い者勝ちと言わんばかりにすぐに立ち上がるのだ。
最悪だーーまた、今年も晒し者のように扱われ、当日にも仕事をもらえずに役立たずと言われてるような無力な気持ちを抱くことになるのか。
去年は、頼みの綱の加藤が早々と班を作って定員になった。
「わりぃ、お前の枠空けたかったんだが断れなくて、つい」
そう言われたが、別に加藤に面倒を見てもらうつもりもなかったし、どこの班に入っても同じだろうと思っていたので俺は、
「いや、いいよ。別にお前の力を借りなくたってなんとかなるさ」
と返したのだったが、それは間違いだったのかもしれない。
晒し者も辛いが、それよりも当日の仕事を与えられずに、その場に息をしているだけの存在価値を与えてもらえないどころか、認めてもらえないような気持ちになるのは御免だ。
人間、何かの役割は必要なのだと感じた。
今年も加藤は頼れなさそうなくらいに周りに人が居る。
一応、一班六人ずつで男女が最低二人以上というルールが毎年あるのだが、学年やクラスによっては一班六人を前後する場合もある。
今年のクラスは一班六人で割り切れるから、今日欠席している天道の枠と俺を含め、二つの班で五人の班が出来るわけだ。
そのうちのハズレの班が俺を引き受けることになるのだろう。何も悪いことをしていないが、少し罪悪感が湧いた。
「うぃー!!お前らの名前書くぞー」
「えっ、待って!あんたの名前どうやって書くの?」
何人かが既に前の黒板に名前を書き始めていた。
見たところ三班までは書き始めていた。
もう少しで一人足りない程度の班が浮き彫りになる。その中でも天道が参加しそうじゃない方を素早く見極めて、余った感を最低限にし班に上手く溶け込む。
ーー俺にはこれしか道はない。
「あの......?高山くん?」
どこからか可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
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